常識を覆す「投げ」の排除、徹底再現されたドラゴンボールの世界観―― 「ドラゴンボール ファイターズ」はいかにして最高の格闘ゲームになったのか

このゲームは究極のドラゴンボールゲーだ。

 対戦格闘ゲーム「ドラゴンボール ファイターズ」が発売されたのは2月1日。同時期に発売された「モンスターハンター:ワールド」という絶対王者の陰に隠れてはいるが、ネット上のレビューでは絶賛されているゲームだ。筆者もこのゲームにハマった人間の1人だが、これまで大量の格闘ゲームをプレイしてきた自分でも、このゲームには明らかに過去に味わったことがない感動があった。

【画像】アニメのようなゲーム画面

 このゲームはただの良作ではない。通常の格闘ゲームにはない“ドラゴンボールっぽさ”のある駆け引き、「2.5D」と銘打たれたアニメのようなグラフィック、見ているだけでワクワクするeスポーツ界の盛り上がり、対戦なしでも楽しめるゲームバランスなど、オススメできるポイントは山のようにある。筆者の場合は発売日に購入したあと、「Bloodborne」がフリープレイで配信されるまで1カ月以上、他のゲームに一切触れず、「ドラゴンボール ファイターズ」をプレイし続けていたほどだ。

 「ドラゴンボール ファイターズ」の何がそんなにスゴイのか――まずは、「ドラゴンボール ファイターズ」がいかにしてドラゴンボールっぽさあふれる格闘ゲームになったのかについて解説したい。

●「通常投げ」排除によって生まれる「ドラゴンボールっぽさ」

 通常の格闘ゲームには“打撃はガードで防がれる、ガードは投げを防げない、投げは発生の早い打撃やリーチの長い打撃に返り討ちにされる”を軸にした「打撃」「ガード」「投げ」の“3すくみ”があり、「打撃」「ガード」の他に「通常投げ」と呼ばれる全キャラが使用できる投げ技が設定されている。格闘ゲームは、この3すくみによって駆け引きの奥深さを成立させているのだが、「ドラゴンボール ファイターズ」には通常投げが存在しない。そして、「通常投げ」の代わりに“ガード不能の打撃”に近いシステムである「ドラゴンラッシュ」を採用している。

 ドラゴンラッシュは、20~30発の打撃を与えて相手を吹き飛ばすという全キャラ共通で出せる技。一見、通常投げとドラゴンラッシュを置き換えただけにも思えるが用途も若干異なる。「通常投げ」は基本的に「当てやすいがダメージは比較的少ない」といった特徴があるのに対し、ドラゴンラッシュには「発生が非常に遅く当てづらいがダメージは大きい」などの特徴がある。また、3オン3の形式で闘うこのゲームで「相手を強制的に交代させられる」というのも、ドラゴンラッシュの重要なポイントだ。

 では、なぜ通常投げという格闘ゲームの超重要システムを排除し、ドラゴンラッシュを採用したのか――理由は簡単だろう。投げを駆け引きの根幹にしてしまうと「ドラゴンボールっぽくなくなるから」だ。ドラゴンボールの世界に投げ技はほとんどない。繰り広げられるのはバチバチの殴り合いである。そんな、ドラゴンボールの世界観を維持し、同時に駆け引きの複雑さを保つためにドラゴンラッシュを投げの代替手段として採用しているのだ。

 ドラゴンボールらしさは、投げの排除以外の部分にも見られる。相手を追尾して攻撃する「超ダッシュ」、背後に一瞬で回り込み相手を蹴り飛ばす「バニッシュムーブ」、そして前に出れば出るほどゲージがたまるシステムは、必然的にキャラクター同士のぶつかり合いを生み、ドラゴンボールのようなスピード感のあるバトルになっていく。スピード感のあるバトルは格闘ゲームにおける「待ち」戦術を自然に拒絶し、結果としてまた更にドラゴンボールらしさを生んでいる。つまり、「ドラゴンボール ファイターズ」は「格闘ゲームの駆け引きの面白さ」と「ドラゴンボールらしさ」を維持しながら、相反する部分を自然な形で整合させているのだ。

 「ドラゴンボール ファイターズ」は、世界的な人気を誇るドラゴンボールをほぼ完璧に再現したことで、発売直後から各国の格闘ゲームコミュニティーに広まった。今では、スマブラ、ストリートファイター、ギルティギアなど、幾多の格闘ゲームシリーズで活躍する猛者たちが続々と「ドラゴンボール ファイターズ」に参戦し、群雄割拠の状態になっている。――では数多いる格闘ゲーマーの中で、誰が最強なのだろう?

●待ち望まれる日米のヒーロー決戦

 あらゆる格闘ゲームの猛者が集まる中、最強の筆頭候補とされているのが、CYCLOPS athlete gamingに所属し関西を拠点に活動する「GO1」(ゴーイチ)と、ECHO FOXに所属しアメリカで活動する「SONIC FOX」(ソニックフォックス)だ。GO1は並み居る競合をはねのけて闘会議2018の「ドラゴンボール ファイターズ」部門で優勝し、現在国内最強と目されるプレイヤー。対するSONIC FOXも海外の複数の大会で優勝し、最強プレイヤー候補として存在感を放っている。これまで特段の因縁はなかったはずの2人だが、今では「最強のドラゴンボール ファイターズプレイヤー」の肩書を巡ってお互いを強く意識しているようだ。

 GO1は2月末に行われたMixUpNightというイベントで優勝し、直後のインタビューで「次はSONIC FOX、お前だ」と挑発的なコメントを残した。それを見たSONIC FOXも「来いよGO1、お前に誰がパーフェクトなのか見せてやる」とツイート。SONIC FOXはその後もネット配信で「GO1、お前はもう死んでいる」と発言するなど、2人の対立構造は国内外を問わず話題になっている。もともとGO1は「MELTY BLOOD」や「電撃文庫 FIGHTING CLIMAX」などの国産格闘ゲームで腕を磨いてきたのに対し、SONIC FOXは「Mortal Kombat」や「Injustice」といったアメリカ産の格闘ゲームで活躍しており、「日本産格闘ゲーム勢VSアメリカ産格闘ゲーム勢」の構図が色濃く出ているのも、注目を集める一因だろう。

 猛者たちが切磋琢磨し研究が進む中、どのキャラクターが強くどういった戦術が有効なのかといったセオリーは世界的に見ても固まりつつあるが、この2人のプレイスタイルで明確に異なるポイントがある。「ベジータ」の評価だ。

●「ベジータ」を酷評するSONIC FOX

 ベジータは、控えのキャラクターを呼び出して攻撃させるシステム「Zアシスト」で真価を発揮するキャラクターだ。ベジータのZアシストは両手から連続でエネルギー弾を発射するというもの(いわゆる「グミ撃ち」)で、他のキャラクターと比較して広い攻撃範囲と非常に長い拘束時間を持ち、ベジータが起こす爆風によって視認性を極端に下げることもできるため、全キャラの中でも最高の性能を持っているといえる。恐らく格闘ゲームに精通しているプレイヤーなら「ベジータのZアシストが強力すぎる」と発売後数日以内には気付いただろう。

 さらに、「Zアシスト」だけでなく、本体キャラクターとしてベジータを使用したとしても攻めの面でも守りの面でも特段欠点がない。そのため、国内では最強キャラの一角とみられており、GO1も発売当初から今に至るまでベジータを使用し続けている。その評価は、闘会議2018で上位入賞者全員がベジータを使っていたほど確固たるものだが、SONIC FOXによるベジータの評価はそんな常識を真っ向から否定するものだった。

 SONIC FOXはTwitterで、自身の考えるキャラクターの強さランキングを公開している。「人造人間16号」「セル」「魔人ブウ(純粋)」「悟飯(青年期)」など、上位キャラクターの評価は日本国内のものとほぼ同列だが、「ベジータ」は平均以下という評価だ。SONICFOXは早い段階でベジータの能力に見切りを付けており、「ベジータはチーム枠の無駄」とすら発言している。もちろん、勝負を分けるのはキャラクター性能だけではないが、1人のキャラクターがここまで評価を分ける例は極めてまれだ。

 3月16日(現地時間)から開催される世界大会「Final Round」で、2人の10本先取マッチが行われる予定だ。10本先取マッチで負ければもう言い逃れはできない。日本のゲームコミュニティーで育ったGO1が強いのか、海外産の格闘ゲームで鍛えられたSONIC FOXが強いのか――その答えはここで明確になるだろう。

●完璧に表現された「ドラゴンボール」の世界

 「eスポーツ」という言葉も浸透し始め、その競技性に大きな注目が集まりつつある格闘ゲームだが、一部のトッププレイヤーにとって競技性や高額賞金が重要なものであっても、普通のプレイヤーにとっては関係がない。結局、大多数のプレイヤーが求めているのはプレイしたときの「純粋な面白さ」だろう。もちろん競技性も高くスタープレイヤーにも注目してほしいが、実は競技性に興味がないライト層にこそ「ドラゴンボール ファイターズ」をお勧めしたい。このゲームは、その競技性を無視しても面白いからだ。

 少しでもこのゲームの映像を見た人は周知だろうが、「ドラゴンボール ファイターズ」の最大の魅力はそのグラフィックだ。冒頭でもふれたように、このゲームでは「2.5D」と銘打ったセルアニメ調のグラフィックによって、3Dの自由なカメラワークはそのままに、ほぼアニメそのままの戦闘シーンが繰り広げられる。サウンドエフェクトも聞きなじんだ原作アニメ同様のものが使われているため、対戦しているとドラゴンボールのアニメを自分で操作しているような感覚すら覚える。ゲーム中の演出は日本国外でも大人気で、海外大会では“対戦前の演出をスキップしてはいけない”という暗黙の了解すらできているようだ。そのぐらい、「ドラゴンボール ファイターズ」のゲーム画面は見ていて楽しいのだ。

 グラフィックはもちろん、各キャラクターの個性も原作のままだ。例えば、避けるのが困難なヤムチャの繰気弾、特戦隊全員で敵と戦おうとするギニュー、多彩な技で相手を翻弄するクリリンなど、バトルバランスの面でも各キャラクターの持ち味をしっかり生かした調整がされており、全く使い道がない“死に技”や極端な弱キャラもいない。フリーザの放つ「デスソーサー」(気円斬に似た技)の画面内を往復し、きっちりフリーザ自身にもヒットする仕様には、開発者の「絶対に原作ファンが納得するゲームを作る」という気概を感じた。“ヤムチャがセルを倒せるはずがない”のような身も蓋もない指摘(一応、その理由もストーリーモードで説明される)さえしなければ、各キャラクターは原作ファンでも納得の動きをするはずだ。

●対戦しなくても面白い

 開発を手掛けたアークシステムワークスの看板タイトル「ギルティギアXrd」シリーズは「アニメの円盤を買ったら格闘ゲームが付属してきたってレベル」などといわれるほどストーリーモードが充実していたが、「ドラゴンボール ファイターズ」もその姿勢を踏襲している。圧倒的なグラフィックはそのままで、しかもフルボイス。やりこみ要素も非常に多く、恐らく100%クリアを目指すなら数十時間は必要になるだろう。

 正直言って肝心のストーリー展開は多少強引だが、まぁそれも含めて“ドラゴンボールらしさ”と言えなくはない。キャラクターの魅力はしっかり掘り下げてくれるので、ストーリーモードはドラゴンボールのアニメを見る感覚で気軽に楽しめる。

 もちろん、単純に観戦しているだけでも面白いというのも、eスポーツとしての発展をも見据えたこれからの格闘ゲームには大切な要素だ。大技を当てたときの「ガキーン!!」という効果音や、一瞬アップでキャラクターが映る演出は、プレイヤーに爽快感を与えるだけでなく、格闘ゲームに詳しくない層にも勝負の分かれ目を分かりやすくさせている。もちろん、トッププレイヤー同士の駆け引きはより複雑ではあるが、細かな画面上の演出で重要な場面を示してくれるのは、“見る専”にとっても助かる配慮だろう。

●「ドラゴンボール ファイターズ」に改善を望むなら

 ここまで絶賛を続けてきたが、欠点が全くない完璧なゲームではない。既にアップデートが予告されている通信面の不安定さは解決しつつあるようだが、個人的には同実力帯のプレイヤーと対戦しやすくする機能が乏しいことも問題だと思う。

 「ドラゴンボール ファイターズ」は従来の格闘ゲームよりも簡単に操作できるようになっておりライト層の参入を目指したゲームデザインとなっている。しかし、現在では強烈な戦術も固まっており、上級者は高威力かつ高難度のコンボや、脱出困難な連携をバンバン実践投入してくるため、初心者は上級者に対しほぼ一方的にやられるはずだ。上級者と初心者の住み分けが完璧にできていればそういう問題は起きないはずだが、ランクマッチ以外は幅広い実力帯の人と当たる仕様になってしまっているようだ。レビューサイトなどを見る限り、「息巻いてネット対戦に乗り込んだのに上級者にボコボコにされ、意気消沈し辞めてしまった」という初心者プレイヤーも、残念ながら多いらしい。

 それなりに格闘ゲームを続けてきた筆者も31戦1勝30敗の初心者と当たった事がある。その時は“舐めプレイと言われない範囲でさり気なく負けること”が不可能な実力差だったので、泣く泣く普段のプレイを徹底し完勝した。向こうもそうだったろうが、こちらも胸が苦しかった。“舐めプするクソ野郎”とかSNSに書き込まれるリスクもあるが、わざと負けた方が良かったのかもしれないとすら思う。

 とにかく、本当に誰も得をしないので、「初心者限定部屋」とか「上級者お断り部屋」のようなものを設けるなどして上級者との垣根を作り、初心者同士でワイワイ対戦できるようになってほしいと心から思う。レベル差の問題は格闘ゲーム全般の課題だが、ドラゴンボールのゲームだからこそエンジョイ勢は大切にされてほしい。

●自分なりの楽しみ方を見つければ良い

 とはいえ、対人戦をしなければ楽しめないというものでもない。格闘ゲームである以上妙味は対戦にあるが、これまで説明してきたようにドラゴンボールが好きなら演出を見ているだけでも楽しめるはずだし、ストーリーモードのボリュームは豊富だ(正直言って対戦パートが邪魔なくらいだ)。最初から対人戦で勝とうと息巻くのではなく、CPU戦に飽きて「まだ見ぬ強敵と戦いたい」と悟空のようなことを思ったら、そのときに対人戦をやるぐらいで良い。最初は悔しい思いをするかもしれないが、試行錯誤すればいつの間にか勝てるようになる。そこはどんな競技も同じだ。

 このゲームは格闘ゲームとしての完成度が高いだけでなく、ドラゴンボールの世界をほぼ完璧に表現している。格闘ゲームが苦手とかそんなことは関係ない。このゲームを楽しむために重要なのは「ドラゴンボールが好きだったことがあるか否か」、この1点だけだ。

 ドラゴンボールになんの感情も持ったことがない人にこのゲームを勧めることはできない。しかし、もしこれを読んでいる人が、かつて当然のようにドラゴンボールのアニメを見て、当然のようにドラゴンボールのゲームをプレイし、部屋にこもってかめはめ波を撃とうと練習したことがあるのなら、絶対にプレイするべきゲームであると断言できる。

 「あなたにとって過去最高の格闘ゲームは?」と聞かれたら答えに窮するが、現時点では“もしかしたら「ドラゴンボール ファイターズ」なのかもしれない”と思っている。これは、筆者が格闘ゲーマーだから下した評価ではない。少年時代にドラゴンボールを大好きだったから、そしてこのゲームをプレイして20年ぶりにドラゴンボールを大好きになったからこそ、このゲームを評価したいのだ。

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