石破茂氏、自民総裁選「不出馬」で生き残れるか

9月15日、記者会見で答弁する自民党の石破茂・元幹事長(写真:時事)

大混戦の自民党総裁選で対応が注目され続けた石破茂元幹事長が9月15日、不出馬を決断した。同氏とともに国民的人気を誇る河野太郎規制改革相を支援することで、自民党の大改革実現を目指すというのが撤退の理由だ。

河野氏の弟分とされる小泉進次郎環境相との共闘による「KIKトリオ」の国民的人気で総裁選を勝ち抜き、自らも要職に就くことで総理総裁候補としての生き残りをかける戦略とみられる。

永田町では「河野首相・石破幹事長・小泉官房長官」という人気者トリオの政権誕生をはやし立てる向きもあるが、党内ベテランの多くは「世代交代による派閥や領袖クラスの影響力喪失」に反発している。加えて、脱原発など異端の政策を主張してきた河野氏には、自民党政権を支えてきた霞が関の官僚組織や経済界の不信感も根強い。

安倍、麻生両氏次第で岸田氏優位に

今回の総裁選は、党内保守派の代表格として出馬した高市早苗前総務相の想定以上の健闘などで、決選投票必至との見方も広がる。その場合は、人気投票に近い地方票の重みがほぼなくなり、国会議員票が帰趨を決めることになる。

政界の下馬評で「本命・対抗」とされる河野氏と岸田文雄前政調会長による決選投票となった場合、石破嫌いで知られる安倍晋三前首相や麻生太郎副総理兼財務相の意向もあり、反河野票が安倍、麻生両氏と近い岸田文雄前政調会長に集中することも想定される。

それだけに、長考の末の石破氏の不出馬・河野氏支持が吉と出るのかどうか。「勝負は投票箱のふたを開けるまでわからない」(自民幹部)のが実情だ。

石破氏は15日夕の石破派臨時総会後の記者会見で、17日告示の党総裁選への出馬を見送り、すでに出馬表明している河野氏を支援する方針を明らかにした。

石破氏は「自民党を変えてほしいとの声に応えるためには改革を志す勢力が、二分することなく一致すべきだ」とし、「改革の志が一致したこと、政治理念、国家に対する危機感、国家国民に対する使命感を共有したこと」を河野氏支援の理由に挙げた。

石破氏は13日の河野氏との会談について、「水月会(石破派)の力をぜひ借りたいとの申し出があり、これを重く受け止めた」と説明。14日に河野氏の支持を表明した小泉氏についても「強く共鳴し、思いを共有している」と語った。

15日の石破氏の不出馬会見は1時間半近くに及び、ネット上で中継された。記者団からの質問が集中したのは、石破氏が「再調査が必要」と強調してきた森友問題への対応だった。

石破氏は「私は亡くなられた赤木さんの夫人の雅子さん、一番悲しんでいる人が理解、納得してもらうことが大事だと思っている。一番悲しんでいる人の思いに寄り添わなくて、私は政治の名に値すると思っていない」と述べ、雅子さんが求めている再調査に応じることが自民党の使命だと強調した。

候補者討論では森友問題が争点に

河野氏との会談でも「『再調査は行わない。以上おしまいであってはならない。これは大事ですよ』と申し上げた」と明言。河野氏も「同意した」との手ごたえを示す一方、「最後は河野氏が決めること」とも付け加えた。

ただ、河野氏は出馬表明の記者会見などで、森友問題の再調査は、すでに司法当局が調査したことなどを理由に「必要ない」と断言している。このため、今回の石破氏の主張は総裁選候補者討論などで、再調査問題が争点となるきっかけをつくった格好だ。

もちろん、ネット中継に伴う書き込みでは「不出馬なのにしゃべりすぎる」「もう終わった人」などの手厳しい声があふれた。確かに、「不出馬の理由について自説も交えて長々と説明するのは異様」(自民長老)ともみえる。

森友問題への言及についても、自民党内からは「たとえは下品だが、『きわめて臭いイタチの最後っ屁』にもみえる」と揶揄する声も少なくない。

もちろん、いまなお国民的人気を誇る石破氏の河野氏支援は総裁選の構図を大きく変えるのは間違いない。すでに党員票(383票)をめぐる争いでは優位に立っているとされる河野氏の勢いが加速し、1回目の投票での決着につながる可能性はある。

岸田派幹部も「河野・石破・小泉連合」の結成で「党員・党友の支持がどれだけ跳ね上がるのか」と戦々恐々だ。

しかし、ここにきての総裁選全体の動きをみると、河野氏にとって石破氏の支援は「まさに両刃の剣」(閣僚経験者)との指摘が多い。「石破さんと組んだら、安倍さんと麻生さんが本格的に河野つぶしを仕掛ける」(同)とみられているからだ。

岸田派を除く党内各派はそろって事実上の自主投票を選ぶ構えだが、安倍氏が強い影響力を持つ党内最大派閥の細田派(96人)と第2派閥の麻生派(53人)がそろって反河野を鮮明にすれば、河野陣営は議員票(383票)で圧倒的に不利な立場に追い込まれる。

議員票の動向は当然、党員・党友票にも影響があるため、「圧倒的な党員・党友の支持を得て、1回戦で決着をつける」との戦略は破綻しかねない。しかも、野田聖子幹事長代行が16日夕、推薦人が確保できたとして出馬表明した。

「決断できない政治家」のイメージに

野田氏の参戦で、「現状の三つ巴以上に得票が分散し、ますます決選投票の可能性が強まる」(自民幹部)ことは間違いない。

石破氏はそうした状況の変化も意識したうえでの「撤退・河野氏支持」とみられる。だからこそ、森友問題まで持ち出して「長老支配打破と世代交代による自民党再生を国民にアピールする一世一代の賭け」(自民若手)に出たとみられる。

しかし、不出馬会見で「最後の最後まで迷った」と心情を吐露したように、菅義偉首相の唐突な退陣表明以来、出馬を模索し続けた石破氏の迷走が「国民の間でも決断できない政治家との負のイメージとなった」ことは否定できない。

自身が創設した石破派(17人)では出馬慎重論が相次ぎ、派閥としても自主投票を選択せざるをえなかった時点で「石破氏は終わった」との声も出る。石破氏は不出馬会見の最後に再起への意思を問われると、「自分が必要とされる可能性がある限り、研鑽を続ける」と自らに言い聞かせるように語った。

しかし、自民党内では「河野政権になれば世代交代が一気に進むし、河野氏が敗れれば、石破氏も一緒に消えるのが運命。もはや浮かび上がる可能性はほとんどない」(自民長老)との厳しい声が広がる。

ジャンルで探す