隠れ暮らす「女性ホームレス」密着して見えた実態

女性ホームレスが暮らすテント。生活感があふれている(写真提供:丸山里美氏)
「女性の貧困」――。近年、注目されているテーマだが、2000年代初めから「女性ホームレス」に着目し、研究を続けてきた人がいる。京都大学大学院文学研究科准教授の丸山里美氏は7年間にわたって、東京と大阪で女性ホームレス33人へのフィールドワークを行い、問題点をあぶり出した。
「女性の貧困」の深淵とは何か、その実態を測る難しさはどこにあるのか。「ニッポンのすごい研究者」は今回、女性ホームレスの研究者にスポットを当てた。

男性ホームレスとの大きな違いは「結婚歴」

――丸山さんが調査された女性ホームレスには、どんな特徴があるのでしょうか。

私の調査はサンプル数が33と少なく、聞き取りの方法や時期が統一されていないため、統計的な価値は高くありません。ただ、女性に特化した調査はこれまでほとんど実施されていません。

そこで女性ホームレスの特徴をつかむために、対象を男性に特化した厚生労働省の「ホームレスの実態に関する全国調査」(おおむね5年ごとに実施)の2007年版と、私が2003年から2009年にかけて実施した調査で比較しましょう。

厚労省の調査は野宿者のみを対象にし、私の調査は野宿者と施設居住者を対象にしています。

私は東京と大阪の路上で会った19人、東京の福祉施設で会った14人、計33人から生育家族や学歴、職歴、居住場所、同居人といった生活史を詳細に聞き取っています。このうち、夫が失業して2人ともホームレスになった人は11人。本人の失業でホームレスになった単身女性が15人。夫や家族との関係性を失ってホームレスになった人が7人。これらのうち、野宿経験者は26人でした。平均年齢は59歳です。

男性ホームレスとの大きな違いは、まず、結婚歴です。厚労省の調査によると、男性のホームレスには結婚経験がない人が半数以上もいるのですが、女性の場合、9割近くに結婚歴(内縁関係含む)があり、そのうち半数以上が複数回しています。

(画像提供:フロントラインプレス)

貧困女性にとって男性のパートナーを持つことは、生活を維持するための手段になっている実態が改めて浮かび上がります。ホームレスの人は総じて学歴が低いのですが、女性では「最終学歴が中学校以下」という人が半数以上で、男性よりもさらに低い。職歴も大半はパート。多くの人が清掃、水商売、旅館の住み込み、飯場の賄いなどに従事しています。

――その女性たちは、どのようにしてホームレスになったのでしょうか。

いくつかパターンがあります。夫との死別や離別によって単身となった女性が失業する場合、もともと単身の人が病気や高齢などで働けなくなる場合、夫をはじめ家族との関係がうまくいかなくなる場合などです。

丸山里美(まるやま・さとみ)/京都大学大学院文学研究科准教授。2007年京都大学大学院文学研究科行動文化学系社会学専修博士課程単位取得認定退学。博士(文学)。専攻は社会学。立命館大学産業社会学部現代社会学科准教授を経て現職。著書『女性ホームレスとして生きる――貧困と排除の社会学』の新装版を今夏出版予定(写真:本人提供)

中高年の女性ができる仕事は、低賃金の不安定労働に限られていますから、失業保険や厚生年金の対象にならない人も多い。働けなくなると、すぐに生活に困窮することになりがちです。

例えば、本人が失業したケース。60代の女性は、中学校卒業後に正社員としてガラス工場で働き始め、22歳で転職します。26年間勤めますが、そこでは失業保険や年金に入っていませんでした。

給料が上がらず生活が苦しくなったため、その会社を辞めて清掃のパートを2つ掛け持ちします。でも、アパートの家賃には足りない。友人からの援助で賄っていましたが、次第に友人宅に居候するようになった。その生活が10年ほど続きましたが、高齢になって仕事を解雇されると、友人への借金が気になって居候しづらくなり、野宿に至りました。

離婚によって貧困に陥るケースも

別の50代女性のケースは、こうでした。高校中退後、縫製工場に正社員として勤め始めます。18歳で専業主婦になり、4人の子供をもうけた。その後、35歳で離婚し、水商売を始めて3年後に独立。42歳で再婚しました。夫婦2人の収入があったため、その後は自らの子供と共にマンションで豊かに暮らしています。

ところが、女性は54歳のときに体を壊して店をたたみました。実は結婚直後から夫の精神的暴力に耐えていたのですが、末っ子が結婚したのを機に離婚し、家を出ます。しばらくはホテルやサウナに泊まっていましたが、所持金が尽きて野宿になりました。

もともと精神疾患や軽度の知的障害がある女性も一定数いて、人間関係のトラブルになりやすく、仕事が続かないという背景もあります。

――丸山さんが調査に着手する2003年まで、ホームレスと言えば男性の問題として認知され、女性のホームレスはほとんど注目されていませんでした。そんな中、7年もかけて綿密な調査を続けた。京都から東京へは夜行バスで通っていたと聞いています。

京都大学の大学院に通っていたときですね。約250人がテントで暮らしている東京都内の公園に何度も通いました。そこでは女性が10人ほど暮らしていて、顔見知りになった4人の女性たちと数年間にわたって人間関係をつくり、調査を行いました。

テントは平均で3畳くらいの広さです。中には洋服や布団といった日用品があり、発電機や電池式のテレビを置いてあるテントもありました。日雇いやアルバイト、保険の外交員、ビルの清掃、廃品回収などで現金収入を得ている人もいました。

食事はコンビニなどで廃棄物として出されるもの、福祉事務所で配布されるもの、炊き出しなどで確保。カセットコンロを使って自炊する場合も多いです。日用品は自分たちで購入するか、定期的に訪れるボランティアや教会に頼んで手に入れ、生理用品など男性に頼みにくいものは女性ボランティアに頼んでいたようです。

丸山氏が調査した東京都内の公園の様子。約300のテントがあった。撮影は2005年(写真提供:丸山里美氏)

何度も足を運び、一緒に時間を過ごす

――公園以外では、どんなところで調査されたのですか。

野宿者だけでなく、住居のない状態(=ホームレス)の女性たちが滞在する都内の福祉施設に泊まり込み、そこで最初はボランティア、後にアルバイト職員として働きながら、並行して聞き取り調査をしました。大阪では、女性野宿者の支援グループをつくって、その活動と並行して調査もしていました。

(こうした手法を取ったのは)まず、一緒に時間を過ごしたいと思ったからです。それに、1回だけのインタビューでわかることは限られています。何度も足を運んで人間関係をつくって話を聞けば、その分、調査は深みのあるものになると考えました。

東京で調査したのは、京都や大阪ではホームレスの女性になかなか出会えず、東京に行き着いてしまったということですね。

――日本では「ホームレス=中高年の男性」というイメージがあります。一般的には男性よりも女性のほうが貧困とされているのに、なぜ、女性ホームレスは少ないのでしょうか。

彼女たちは危険を避けるために物陰に隠れるように暮らしているので、なかなか目にとまりません。厚労省の「ホームレスの実態に関する全国調査」の2021年版によれば、全国の野宿者3824人のうち女性は197人。わずか5.2%です。

「ホームレス」の定義によるところも大きいと思います。日本でホームレスというと、一般的に路上生活をする人を指します。しかし、もっと解釈を広げ、「家のない状態の人」と定義し、インターネット・カフェやファストフード店、知人宅で夜を過ごすといった人もカウントすれば、5.2%よりずっと多いです。

女性ホームレスが少ない背景には、男性が稼ぎ主で女性は家事を主に行うことを前提にした、日本の労働や社会保障のあり方も問題として横たわっています。こうした結果、多くの女性は不安定な低賃金労働に従事している。低賃金だと1人で生きていくことが難しいので、貧困を恐れて、夫や親のいる家から出られないわけです。

また、雇用保険や年金といった保険から排除されていることも多く、単身者の場合、失業すると途端にホームレス状態になるリスクがある。

他方、男性より利用できる福祉的な選択肢は多い。そうしたことから、路上に出る一歩手前で踏みとどまっているケースが多く、数字上では女性ホームレスの比率が極端に低いのだと考えられます。

一貫性がなく、矛盾した言動をとることがある

――調査を通して、どんなことが明らかになったのでしょう。

女性野宿者たちは、さまざまな場面で一貫性がなく、矛盾した言動をとることがあります。例えば、DVを受けたある女性は、いったんは施設に逃げ込むけれど、その後、夫の元に戻る。また施設で暮らす、そして夫の元へ。そういうことを繰り返します。

私の家に居候したいと言った女性はある時、衝動的に公園を飛び出し、夫と違う男性とホテルで暮らし始めます。そして毎日のように電話をしてきては、「実家に帰ろうか」「公園で夫の帰りを待とうか」「生活保護を受けようか」などと言うのです。

彼女たちの多くは自らの重要な決断をする際、他者の意見や存在を考慮し、それに大きく影響されていた。女性に求められてきた社会的な期待に沿うことは、「自分で選択できる自立した生」とは矛盾するのです。

研究者として感じたことは、この合理的には理解しがたい存在のあり方が、それまでのホームレス研究から女性が排除されてきた一因ではないかということでした。

もしかすると皆さんは、「ホームレス=なくすべきもの」と思われているかもしれません。でも、すべてのホームレスが「ホームレス生活をやめたい」と願っているわけではないのです。この研究を通して、私は「その人がその人なりに望むことを実現できるような社会になればいい」と考えるようになりました。

――丸山さんがフィールドワークをされてから10年以上が経ちました。女性ホームレスの姿に変化はありましたか。

2010年代半ばには、女性の貧困が社会的に話題になりました。私の主な調査対象は中高年の女性でしたが、生活に困窮して性産業で働いている女性たちが「女性の貧困」や「女性ホームレス」としてイメージされるようになったことが、最も大きな変化だと思います。

おそらくこれからも、時が経つにつれ、女性の貧困の実態や、それに対する人々のイメージも変化していくことでしょう。

――そもそも、なぜ女性ホームレスの研究をしようと思ったのですか。

大学の卒業論文のフィールドに、釜ヶ崎(大阪市西成区の「あいりん地区」)というホームレスの人たちが多い所での炊き出しを選んで、3年間通いました。それが非常に楽しかった。

インドに1人、バックパックを背負って旅行に行ったことがあったんですが、釜ヶ崎にはそういうアジアの国に旅行しているかのような雑然とした雰囲気があって……。人間らしい行為や感情があふれていて、人々が生き生きしていると感じました。

でも、釜ヶ崎でトラブルに遭ってしまうんです。炊き出しのボランティアをしているときに知り合った男性にストーカーされて。「殺してやる」とも言われました。それまでは自分が女性であることや、ジェンダーの問題にあまり関心がなかった。だからこそ、男性ばかりの釜ヶ崎の街に楽しく通えていたんですね。

私はよそから通っていたので、そんなことがあったら釜ヶ崎に行かなければいい。でも、ときどき、街で見かけていたホームレスの女性たちは、住人のほとんどが男性という街で、きっと、私と同じような目に遭って困難を抱えているんじゃないか。人生の先輩である彼女たちがどういうふうに暮らしているのかを知りたいと思ったんです。

世帯の中にいる女性の貧困は捉えきれていない

――今の新しい研究テーマを教えてください。

「世帯に隠れた貧困」に関心があります。貧困者支援をしている、あるNPO法人に相談に訪れた人の記録を分析したときに「統計に表れない女性の困窮」に気づきました。

例えば、夫からのDV被害に遭っている妻は、統計上「家に住んでいる」「世帯収入がある」となり、貧困とは見なされません。でもDVに耐えかねて、いざ家を出ると、その妻は「住むところがない」「お金もない」となり、途端に貧困に陥る。

従来、(研究や政策は)貧困を世帯ごとに見ていたのですが、それでは、世帯の中にいる女性の貧困の実態を捉えきれないのです。

――その研究で、どんなことが明らかになるのでしょうか。

夫婦で生活していると、多くの場合、女性が家事や育児といった無償労働を担い、それに時間を投入するせいで満足な現金収入を得られません。一方、夫が現金を得られるのは、妻の無償労働に支えられているからです。

つまり、貧困という概念を考えるときには、経済的資源についてだけではなく、「時間資源」やそれに派生する「自由度」についても考慮すべきだと考えています。

今は研究の途上ですが、研究を進めていけば、貧困の捉え方や計測の方法、さらには貧困の概念を根本から問い直すことになるのではないか、と思っています。それは、困難を抱える女性たちの生きづらさを可視化させることになる。そう期待しています。

取材:宮本由貴子=フロントラインプレス(FrontlinePress)所属

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