日本代表への「手のひら返し」に映る真の衆愚

本田圭佑選手(右)と長友佑都選手には特にバッシングが起きた(写真:松岡健三郎/アフロ)

日本代表の奮闘で沸いたサッカーワールドカップロシア大会が、いよいよ残り2試合となりました。日本代表は5日に帰国して会見を開いたあと、長谷部誠キャプテン(ドイツ・フランクフルト所属)を中心にテレビ出演する姿が見られるようになっています。

決勝トーナメント1回戦(ラウンド16)での敗退から、帰国会見、そして、現在に至るムードは、「感動をありがとう」一色。ウェブサイト、テレビのワイドショー、新聞、さらには居酒屋での会話まで、日本中が穏やかな空気であふれています。

しかし、わずか約1カ月半前のメンバー発表時から初戦に勝利するまで日本代表の選手たちは、目を覆いたくなるようなバッシングの嵐にさらされました。「おっさんジャパン」「年功序列ジャパン」と揶揄されるだけならまだしも、「今回だけは絶対に応援しない」「日本人としてこのメンバーは恥」「負けるためだけに行くおカネのムダ」「3戦全敗のロシア旅行」などの強烈な批判がネット上に飛び交っていたのです。

「負け犬」「老害」「ゴミ以下」目に余る個人たたき

なかでも強烈なバッシングを受けたのは、長友佑都選手(トルコ・ガラタサライ所属)と、本田圭佑選手(メキシコ・パチューカ所属)。

過熱する批判に業を煮やした長友選手が「年齢で物事判断する人はサッカー知らない人」とツイートし、本田選手も「プロフェッショナル 仕事の流儀」(NHK)で「ハリル(ホジッチ前監督)のサッカーにすべてを服従して選ばれていく。そのことのほうが僕は恥ずかしいと思っている」などと発言をしたことで、2人はバッシングの矢面に立つ形となり、まだ試合前であるにもかかわらず徹底的にたたかれました。

「負け犬の遠吠え」「口だけの人間」「人としてどうかしている」「老害」「ゴミ以下」「ボッコボコにしてやろうか」

まさに人格侵害や名誉毀損にも該当しそうな言葉が、個人に浴びせられ続けていたのです。本人はもちろん、家族や友人、チームメートまで、多くの人々がつらく悲しい思いをしたことは想像に難くありません。

ところが、その後の日本代表の活躍は、ご存じのとおり。グループリーグを1勝1敗1分で突破し、決勝トーナメント1回戦ではサッカー王国・ブラジルを破り準決勝に進出したFIFAランク3位のベルギーを、あと一歩のところまで追い詰める熱戦を見せてくれました。

あらためて、その間の様子を振り返ると……6月19日のコロンビア戦に勝利すると、世間の空気がガラッと変わり、25日のセネガル戦で本田選手がゴールを決めると、多くの人々がもろ手を挙げて称賛。「バッシングなんてなかった」ような手のひら返しで、個人のツイートも各メディアも、大フィーバー状態になりました。

実際の感情を超える批判の言葉

多くの人は、そこで初めて「『ごめん』と言っておいたほうがよさそう」「もともとそんなに批判したわけじゃなかったし」などの気持ちを実感。実際の感情以上に、批判の言葉が強くなっていたことに気づいたのです。

その後、戦いを終えた長友選手は「いっぱい批判されたし、おっさんおっさん言われて、だいぶ胸縮こまったから、帰国時は張り裂けるくらい胸張って帰ります。日本代表チームをどうか温かく迎えてください」とツイート。

一方、本田選手は帰国直後に、「いいときも悪いときもたくさんありましたけど、どういったときでもずっと応援してくれていた声は届いていましたし、それがあったから逆に勇気をもらえて頑張れましたし、非常にかけがえのないサポーターと一緒にここまでやってこられたこと、感謝と誇りの気持ちでいっぱいです」と謝意を表しました。

彼らのすがすがしい表情を見た個人とメディアは、さらに「ごめん」「ありがとう」という手のひら返しの言葉を連発。ただ、当人たちは「批判を力に変えた」と言っているものの、その言葉の裏にある苦しさを感じた人は少なくなかったでしょう。もしあなたが賢明なビジネスパーソンなら、自分に置き換えて「彼らは批判がなければ力を発揮できないレベルの選手なのだろうか」と感じたのではないでしょうか。

問題は、なぜここまで批判が大きくなり、無責任な手のひら返しをしてしまったのか? ここに「結果オーライ」で終わらせてはいけない由々しき現象が見られるのです。

その顛末をあらためて振り返ってみると……まずは一般の人々が、ネット上で批判を展開。一方、メディアは懐疑的な見方こそあるものの、応援モードも感じられる、どっちつかずの状態でした。

メンバーが発表され、前哨戦で連敗すると、一般の人々がヒートアップ。前述したような強烈な言葉が飛び交いましたが、それでも感情に任せたものが多く、いさめるような声もあるなど、まだ絶対的な論調ではありませんでした。

個人の声をビジネスに利用するメディア

しかし、ネット、テレビ、新聞など、すべてのメディアが、そんな批判の声をビジネスに利用するべく、トピックスにして次々に記事化。横並びのように一斉報道したことで、批判が世論のようになってしまいました。

あまりに批判的な記事が多いため、私は付き合いのある某ウェブサイトと某スポーツ新聞の記者に話を聞いたところ、「応援したいけど、今は批判のほうがページビューは上がる」「批判が今の民意。弱いときはそういう盛り上がり方もアリ」という返事だったのです。

その後の手のひら返しも、まずは一般の人々が反応し、それを受けたメディアが論調を変えて広げ、世論を“批判”から“称賛と感謝”に上書きしました。つまり、試合前の強烈な批判も、試合後の称賛と感謝も、「一般の人々からメディア」という同じ流れで世論が形成されたことになります。

問題は、発信源となった一般の人々か? それとも、それを意図的に広げたメディアか? どちらかと言えば、感情に任せて発信しただけの前者より、ビジネスに利用し、世間を誘導したような後者のほうが罪は重いのではないでしょうか。事実、手のひら返しの際も、「われわれは世間の声を拾っていただけ」というスタンスで、わずか数日前の批判記事をスルーしていたのです。

ただ、一般の人々も加害者の1人になってしまったことは疑いようのない事実。「自分は発言の責任を取らなくて済む」「自分もそう思うから批判してもOK」「流れに便乗してストレス発散しよう」。このような意識こそ、目先の数字が欲しいメディアに付け込まれ、利用され、実際の感情を上回る批判的な世論がはびこってしまう根源だったのです。

本田選手は初戦終了後の6月22日、「人の悪いところを粗探しして優越感にひたろうとしている人。悪口を言い合える仲間を見つけて安心する人。気持ちは分かるし、僕は味方ですからね。僕も才能がなく祖父母からも『お前なんかがプロになれるか!』と言われて、コンプレックスだらけだったので。ありがとう!これからも宜しくです!」とツイートしました。

その真意が、「まるで犯罪者のように個人をたたき、誰かの受け売りのような批判を上書きし合う風潮」に対するものであることは明らかです。また、本田選手は、「これはサッカーに限らず、ほかのスポーツ、芸能、カルチャー、政治、ビジネスまで、あらゆる分野に該当すること」と言いたいのでしょう。「いいね」や「そう思う」の数を見て、「みんなが言っているからそうだ」「この流れに乗り遅れないように」と批判に加担してしまうことはないか……。

過剰な批判に加担しない抑止力を

賢明なビジネスパーソンの皆さんには、今回の件を手のひら返しで終わらせるのではなく、「まだ結果が出ていないのに、なぜあれほど批判がヒートアップしたのか?」「1勝しただけで、なぜガラッと一変したのか?」、今回の顛末と批判の構造を知ることで、過剰な批判に加わらない抑止力につなげてほしいのです。

特にスポーツ選手や芸能人は、無責任な批判を言ってしまいがちな存在。それだけに批判しそうになったときは、「批判しすぎていないか?」「そもそも批判すべき人なのか?」「人格まで批判していないか?」などと自問したいところです。

「パワハラの話題になると強烈に批判する」という人が多数派を占める世の中になりました。しかし、一方ではアスリートや芸能人に対して、パワハラに似た批判をしてしまう人が少なくありません。特に今回の日本代表に対する批判は、一般の人々とメディアが手を組んだ“集団パワハラ”の図式に近いものがありました。

「『スポーツだから』『サッカーはそういうもの』『海外よりはマシ』という主観で片付けていいのか?」「普段のパワハラ批判と矛盾はないのか?」、やはり自問が必要でしょうし、少なくとも批判の流れに加わらないのが得策。どんな大義名分があったとしても、批判に加担してしまったら、「自分は絶対にやらない」と思っていてもパワハラをしてしまう人のメンタリティと変わらないのです。

最後に今回の件で、もう1つ触れておきたいのは、組織トップの振る舞い。

日本サッカー協会の田嶋幸三会長は帰国会見で、選手、スタッフ、スポンサー、ファン、メディアに感謝の言葉を述べました。しかし、最後にわざわざ、耳を疑うような言葉を発したのです。

日本サッカー協会・田嶋会長の耳を疑う言葉

「『日本代表なんか嫌いだ』『応援しない』と言ってくださった皆さんが関心を持ってくださり、そういった方々にも感謝しなければいけないと思っています」

田嶋会長といえば、本番直前でヴァイッド・ハリルホジッチ監督を解任するなど、混乱や厳しい世論を招いた張本人。「嫌い」「応援したくない」と感じたのは、誰の何が原因なのか? そんな自分の非には一切触れず、一般の人々に皮肉のような言葉を放ったのです。

もちろん田嶋会長自身も強烈なプレッシャーに襲われていたのは間違いなく、同情の余地はあるでしょう。しかし、組織トップとして「勝てば官軍」とばかりの態度は、今後の活動にも影響を及ぼす失策にほかなりません。

日本代表の顧客は、スポンサー企業だけでなく、一般の人々であることはわかっているはずなのに、なぜ組織トップがこのような皮肉を言ってしまったのか? ビジネスパーソンにとっては、大いに反面教師となる振る舞いだったのです。

ただ、この数分後、長谷部キャプテンが、「大会前、僕たちはあまり期待してされていなかったと思うんですけど、『無関心はいちばん怖い』と思っていて、またこのワールドカップで皆さまの関心を集められたと思うので、引き続き日本の皆さまには、日本サッカー界、代表だけでなく、Jリーグ、海外でプレーする選手、いろいろなカテゴリーがありますけど、関心を持っていただき、時には温かく、時には厳しいサポートをお願いしたいと思います」と視野の広いコメントでフォローしました。

言わば、「デキのいい部下にダメージを和らげてもらった」という形です。将来、長谷部選手が日本代表の監督や日本サッカー協会の会長に就任したら、現在よりも日本国民から愛されるチームが誕生するのではないでしょうか。

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