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テレ東「池の水ぜんぶ抜く」が大ウケする理由

独自路線が目立ちます(撮影:梅谷 秀司)

手強い裏番組を向こうに回して

テレビ東京(テレ東)で6月25日に放送された「池の水ぜんぶ抜く&駆除の達人 緊急SOS! ヤバイ現場に行ってみた!」が話題になっている。NHKの大河ドラマ「おんな城主 直虎」、日本テレビの大人気バラエティ「世界の果てまでイッテQ!」といった手強い裏番組を向こうに回して、9.7%という高い視聴率を記録した(関東地区、ビデオリサーチ調べ)。不定期特番として3度目の放送となるこの番組は、オンエアされるたびに業界内外で注目を集めてきた。

最新回では、この番組の大ファンだという伊集院光さんが「どうしても出演したい」と名乗りを上げ、ロケに繰り出した。千葉県習志野市の市長から直々の要請を受け、森林公園の池の水を一気に抜くことになった。

池の水を抜くのは、汚染原因となっている生物の正体を突き止めて、それを捕獲するためだ。今回のロケでも、池の水を抜いた後、泥の中にさまざまな種類の魚が見つかった。伊集院さんが専門家や地元の人々と共に生物を捕獲して、汚染の原因を探っていた。そして、調査を終えてから、2週間放置した後に新しく水を加えると、池は見違えるほどきれいになっていた。

「池の水を抜く」というのは、実にシンプルでわかりやすい企画だが、圧倒的なオリジナリティがある。テレ東には昔からこの手の斬新な企画が多い。最近でも「池の水ぜんぶ抜く」と同じ「日曜ビッグバラエティ」の枠で「とりあえず、1回全部出してみる!」という番組が放送されていた。

これは、芸能人が一般人の家に出向き、引っ越し業者の協力を得て家の中にあるものをいったんすべて出して、いるものといらないものを仕分けして、家を整理するという企画である。池の水を全部抜いてしまうというのと発想は似通っているところもある。テレ東ではなぜこんな画期的な企画が次々と実現できるのだろうか。

限られた予算では「企画力」で勝負するしかない

テレビ東京は1964年に始まった。民放の中では最後発で、ネット局も少なく、その経営基盤は脆弱なものだった。ほかの民放と比べて制作費は10分の1程度しかないといわれる。予算が限られているということは、タレントをあまり使えないということだ。出ているだけで視聴者が思わず釘付けになるような人気タレントを起用するためには、膨大な額の出演料がかかる。テレ東には予算がないため、人気タレントを多数起用するような番組作りをすることが難しかった。

そこで、テレ東では伝統的に「企画力」で勝負する番組作りが行われてきた。たとえ有名なタレントが出ていなくても、企画の面白さだけで視聴者がひきつけられるような番組を目指すことにしたのだ。「朝まで生テレビ!」の司会者として知られるジャーナリストの田原総一朗も、かつてはテレビ東京(当時は東京12チャンネル)のディレクターだった。田原は「学生運動真っただ中の早稲田大学の講堂で、ジャズピアニストの山下洋輔に命懸けでピアノ演奏をさせる」「列席者全員が全裸で結婚式をする」など、常識外れの型破りなドキュメンタリー番組を数多く手掛けてきた。

そんなテレ東が新たに掘り当てた大きな鉱脈の1つが「一般人(素人)を起用する」ということだ。素人ならば、芸能人のような高額のギャラは必要ない。面白い企画とそれに合った人材さえ見つかれば番組が成立する。テレ東の歴史に残る素人番組といえば、1992~2006年放送の「TVチャンピオン」である。1つのジャンルに精通した圧倒的な知識の持ち主や、特別な技能を持っている人たちが、1番を目指して争うという企画だ。中でも、「大食い選手権」は評判を呼び、他局でも大食い番組が多数作られるようになり、日本中に「大食いブーム」を巻き起こした。

素人の面白さを引き出す番組作りは、その後もテレ東の伝統になっている。「田舎に泊まろう!」「YOUは何しに日本へ?」「家、ついて行ってイイですか?」などはその流れを引き継いだ番組の代表格である。この手の番組では、面白い素材に巡り会うまで、ディレクター陣はひたすら地道に取材を続ける。作り手が汗をかいてネタを探し続けることで、テレ東の素人番組のクオリティが保たれているのだ。

そして、「素人番組」と並んでテレ東が得意としているのが、他局が手をつけていないような意外な切り口の企画を実現させることだ。「池の水ぜんぶ抜く」はもちろん、7月10日に始まった新番組「液体グルメバラエティー たれ」などもその部類に属する。テレビの歴史の中で「グルメ番組」はこれまでに数限りなく制作されているが、「日本一おいしい『タレ』を決める」という奇想天外な企画は、今まで見たことも聞いたこともない。

テレ東の番組では、私たちの日常にある身近なものを題材としていることが多い。公園の池には水が張ってあるのが当たり前だと誰もが思っているが、その水を抜いたらどんな光景が見られるのか、というのがテレ東独自の「視点」のユニークさだ。「液体グルメバラエティー たれ」では、食材や料理ではなく、あえて調味料の1つにすぎない「タレ」にスポットを当てる。また、空撮映像を用いてさまざまな場所を紹介する「空から日本を見てみよう」では、文字どおり「視点」を変えて街並みや土地の魅力を再発掘している。

制約があるから生まれる斬新な企画

このような企画がテレ東で実現できる背景には「予算の制約で人気タレントが使えない」という切実な事情がある。タレントの「顔」で勝負できないからこそ、純粋に企画の内容で勝負するしかない。その制約の中で、斬新な企画が続々と誕生している。

「池の水ぜんぶ抜く」「モヤモヤさまぁ~ず2」などを手掛けるテレビ東京の伊藤隆行プロデューサーは、著書『伊藤Pのモヤモヤ仕事術』(集英社新書)の中で「民放4局は、テレ東の企画はパクっていいという暗黙のルールがあります」と書いている。大食い番組の例にもあるように、テレビ業界では、1つの企画がヒットすると似たような番組が他局でも次々に始まるというのはよくあることだ。「企画力」という部分においては、テレ東がそれだけ先進的だということだろう。

昨今では、YouTube、AbemaTV、Netflix、Amazonプライム・ビデオなど、地上波テレビ以外の動画メディアや動画サービスが台頭しており、その利用者も年々増えている。このような状況の下で、地上波テレビは改めてその存在意義を問われるようになっている。「地上波テレビでしか見られない」という特別な価値を持つコンテンツでなければ、他の動画メディアとの競争に打ち勝つことができない。

その点、独自路線を追求してきたテレ東には「企画力」という点で一日の長がある。結局のところ、地上波テレビでもそれ以外のメディアでも、面白いものを作り続けるところが支持される、という事実は変わらない。テレ東の好調を支えているのは、田原総一朗の時代から受け継がれている「企画力至上主義」というテレ東のDNAなのだ。