人生初期に砂糖の摂取量が少なかった子どもは成人後の2型糖尿病リスクが大幅に低いことが判明
砂糖の摂り過ぎは健康によくないとされており、子どもが摂取する砂糖の量をわずか10日間制限するだけでも、コレステロール値や血圧、血中インスリン濃度などが改善するという研究結果が報告されています。1953年まで砂糖が配給制だったイギリスの人々を対象にした新たな研究で、母親が受胎した頃から幼少期にかけて砂糖の摂取量が少なかった人は、成人後の2型糖尿病リスクが大幅に低いことがわかりました。
Exposure to sugar rationing in the first 1000 days of life protected against chronic disease | Science
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn5421
Sugar restrictions in utero and early childhood reduces risk of chronic disease, study finds | Haas News | Berkeley Haas
https://newsroom.haas.berkeley.edu/research/exposure-to-sugar-restrictions-in-utero-and-early-childhood-reduces-risk-of-chronic-disease-study-finds/
Diabetes risk soars for adults who had a sweet tooth as kids
https://www.nature.com/articles/d41586-024-03535-7
Low Sugar in Baby's First 1,000 Days Reduces Chronic Disease Risk, Wartime Study Finds : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/low-sugar-in-babys-first-1000-days-reduces-chronic-disease-risk-wartime-study-finds
砂糖の過剰摂取は人々の健康に悪影響を及ぼすといわれていますが、実際に人々が幼少期に摂取した砂糖の量を測定し、その後の健康状態を知ることは困難です。そこでアメリカやカナダの研究チームは、第二次世界大戦中から1953年まで砂糖が配給制だったイギリスの人々を対象に研究を行いました。
イギリスでは第二次世界大戦中の経済的困難により、政府が食料の配給制を導入せざるを得ませんでした。肉や砂糖といった一部の食品は戦後もしばらく配給制が続けられ、砂糖の配給量は成人でも1日40g未満に抑えられ、2歳未満の子どもは0gでした。もちろん、親は自分が配給を受けた砂糖の一部を子どもに分け与えていた可能性が高いですが、自由に砂糖が手に入る時期と比べると子どもの砂糖摂取量は大幅に少なかったと考えられます。
配給制が終わると、イギリスにおける砂糖の消費量は一気に増加し、1日平均で約80gに達しました。この劇的な環境変化により、研究チームが「砂糖が配給制であり幼少期にあまり砂糖を摂取できなかった人々」と、「幼少期から砂糖を比較的自由に摂取できた人々」を比較することが可能になったとのこと。
研究チームはイギリスの大規模バイオバンクであるUKバイオバンクから、砂糖の配給制が廃止される前後にまたがる1951~1956年に生まれた6万183人のデータを抽出し、胎児期から幼少期にかけた配給制の有無と成人後の健康状態の関係を調べました。
分析の結果、妊娠から生後2年間の約1000日間にわたって砂糖が配給制だった子どもたちは、成人になってから2型糖尿病を発症するリスクが平均35%低く、高血圧の発症リスクも約20%低いことがわかりました。
赤ちゃんが母親の胎内にいる時点で配給制が解除され、生後は砂糖が自由に手に入る状況だった場合でも、成人後の慢性疾患の発症リスクは低下しました。また、たとえ成人後に2型糖尿病や高血圧になったとしても、胎児期から幼児期にかけて砂糖の摂取が制限されていた人々は2型糖尿病の発症時期が約4年、高血圧の発症時期が約2年遅くなる傾向がありました。
論文の筆頭著者であり、南カリフォルニア大学の経済学者であるTadeja Gracner氏は、イギリスの砂糖の配給制解除に関する記事を見て今回の研究を思いついたそうです。Gracner氏は、「砂糖の摂取が健康に及ぼす長期的な影響を研究するのは困難です。なぜなら、人々が人生初期に無作為で異なる栄養環境にさらされ、それを50~60年間追跡できる状況を見つけるのが難しいためです。配給制の廃止は、こうした問題を克服する新たな自然実験を提供してくれました」と述べています。
Gracner氏は今回の結果について、必ずしも「妊娠中の母親や幼児は一切の砂糖を摂取するべきではない」ということを意味していないと指摘。その上で、現代人は砂糖を摂り過ぎている傾向にあるため、ある程度は砂糖の量を減らす努力が必要かもしれないと主張しました。
11/08 20:00
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