創作中に音楽を聴くことでインスピレーションを得るには何に注目すべきなのか?


作業中や勉強中などに、集中力を上げるために音楽を聴く人もいれば、音楽を聴きながらだと気が散ってしまうという人もいます。過去の研究では、音楽の種類や個人の性格が重要だという研究結果や、音楽を聴くと創造力が損なわれるという研究結果もあります。美術学の修士号を持つ作家のリズ・リッグス氏は、「音楽を聴くことで小説家はインスピレーションを得ることができる」とした上で、どのような聴き方が適しているか語っています。
Setting the Tone: How Listening to Music Can Inspire Fiction Writers ‹ Literary Hub
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音楽が人間の生産性に作用することについては、何年も前から研究されています。1972年に発表された論文では、単純な作業を行う際に音楽をかけることで、作業効率が上がったことが確認されています。多くの研究では、強いビートやメロディーがない「アンビエント・ミュージック」などが良いとする意見や、リラックスできるモーツァルトよりもイギリスのロックバンドであるブラーの曲が子どものパフォーマンスを上げたことから「ブラー効果」と命名されるなど、「音楽を聴くことは良いが、音量や種類に注意が必要」という結論を示しています。
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リッグス氏も、歌詞がない方が集中できると思ってインストゥルメンタルの音楽を聴いていたものの、数年前から、執筆中にあえて歌詞付きの音楽を聴くようになったそうです。その理由として、「ある時点で、言葉が耳に流れ込んでくる中、執筆できていることに気づいたのです。確かに気が散ることもありますが、聴きながら執筆することは、まるで執筆しながら読んでいるかのようで、究極の芸術的ハックだと考えるようになりました」とリッグス氏は述べています。
音楽は、脳内報酬系物質であるドーパミンの放出を誘発するということが研究によりわかっています。また、潜在記憶と呼ばれる無意識に獲得されたため思考だけでは掘り起こしにくい記憶を、特定のフレーズに刺激されて引き出したり、その曲を聞いた時の思い出がよみがえったりと、音楽は記憶とも重要な結びつきがあります。実際に、イギリスのダラム大学で実施された音楽心理学の研究では、人が若い頃に聞いた音楽を好みがちな理由として「たとえその曲が好きでなくても、思春期の頃に流行した曲が自伝的記憶と密接に絡みつく」という可能性を示唆しています。
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リッグス氏は「歌詞と文章の同時性には何かがあり、それが文章を書くときに必要な特定の状態に導き、散文のより詩的な側面を導くのに役立っています」と語りました。一方で、繰り返しのフレーズや具体的ではない感傷的なメッセージなど、音楽では一般的ですが小説では許されない表現もあります。フィクションで機能する歌の要素、つまりはメロディーなしで文章だけでも耐えうるワードを見つけるような、執筆中の「緊張感」が音楽を聴くことで味わえるそうです。
また、韻を踏んだりリズムよくフレーズを並べたりするのも音楽の特徴です。小説では音楽ほど韻を踏むことは多くありませんが、韻によって「このシーンで使える別の表現」が想起されたり、同じフレーズを繰り返す必要がある場合に「音楽ではこの回数の繰り返しが心地良い」という参考になったりします。さらに、音楽のように一定ではありませんが、文章にもリズムが重要であり、リズムの意識をかき立てるのにも音楽は役立ちます。


音楽を聴きながら執筆することで、記憶の刺激やアイデアの検討につながります。そして、音楽によって気が散ることもありますが、それ以上に中断したり手が止まってしまったりした時、音楽が気を紛らわせてくれることで、「文章を書くことの喜びを感じさせてくれます」とリッグス氏は指摘。「耳にしているものの魅力に身を任せ、どこか別の場所へ行きましょう。あなたの好きな曲ならば、そこでは何かを感じることができるはずです。そして、受け取ったその魅力を書きます。音楽は、結婚式から葬式、外食まで、あらゆる体験のBGMとして使われます。人生と同じように、執筆においても心構えなどの雰囲気を作る役割を果たしていると私は思います」とリッグス氏は語っています。

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