ゲーム会社は大規模なレイオフが起きやすいが日本だけは例外、しかし理想的な労働環境とはほど遠い

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by 勇者で社畜の兼業ライフ
2022年から2023年にかけてGoogleやAmazon、MicrosoftなどのIT大手各社による1万人規模のレイオフが続いたほか、ディズニーやGitHubでも従業員の3%~10%をリストラするなど、大規模な解雇が実施されました。さまざまな種類の企業でレイオフが実施される中、特にゲーム業界では2022年頃から深刻なレイオフが世界的に続いていますが、数少ない例外が日本のゲーム会社です。大規模な解雇はなく、それどころか給与の大きな引き上げも実施されているにもかかわらず、「それは日本が労働者のユートピアに近いことを意味するわけではありません」とアメリカの技術系ニュースサイトであるThe Vergeが指摘しています。
How Japan has avoided the gaming industry’s persistent layoffs - The Verge
https://www.theverge.com/24191650/nintendo-sega-from-software-japan-video-game-layoffs

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ゲーム業界の解雇記録を保存するGame Industry Layoffsによると、2022年に世界中で解雇されたゲーム関連の労働者は約8500人、2023年は約1万500人、2024年は前半の6カ月だけで1万800人まで増加しているとのこと。2024年の数値が急増しているのは、2024年1月にUnityが従業員25%の人員整理を実施したのと、Microsoftが2023年10月に買収を完了させたゲームメーカーのActivision BlizzardとXboxの従業員1900人を解雇したことが大きく影響しています。
MicrosoftがActivision BlizzardとXboxの従業員1900人を解雇 - GIGAZINE


ビデオゲームレポーターのスティーブン・トティロ氏によると、ゲーム業界の失業率は特にアメリカでは顕著で、失業率全体の全国平均が約4%であるのに対し、アメリカのゲーム業界は9%と2倍以上の失業率と考えられるそうです。ゲーム業界の失業率は世界的に高くなっていますが、数少ない例外としてThe Vergeは「日本のゲーム業界」を挙げています。
日本のゲーム企業では労働者の一斉解雇はほとんど見られていません。むしろセガは給与を2023年7月から30%引き上げることを発表していたり、コーエーテクモは2022年に基本給平均23%の増額と新卒初任給29万円への引き上げを実施していたり、任天堂は財務報告が低迷している中でも決算説明会で約10%の賃上げを発表したり、直近ではカプコンが「会社の将来を支える人材への投資」として2025年4月から大卒初任給を27.7%増加させることを発表したりと、給与を増加して人材に投資する企業が増えています。


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人材への投資について、フロム・ソフトウェアの宮崎英高社長は海外メディアのPC Gamerが2024年6月に実施した取材に対し「世界で起こっているようなレイオフは、この会社が私の責任である限り起こさせません。『職を失うのが怖い人は、良いものを作るのが怖い』と言ったのは、任天堂の元社長である岩田聡さんだったと思います。私も全く同じ意見です」と発言しています。
イギリスのシェフィールド大学で日本の雇用について研究するピーター・マタンル氏は「日本の雇用法は、安定性と契約の継続性という点で、従業員を保護するものであることは確かです。日本では、裁判所が会社の雇用する権利よりも労働者や労働組合に有利な判定を下した歴史的経緯があり、特に重要な『不当解雇の原則』には『雇用主は従業員を簡単に解雇することはできない」』とあるため、世界の他の国とは異なり『四半期報告書の数字を水増しするために大規模なレイオフで経費削減』というようなことは不可能になっています」と指摘しました。
反対に、アメリカでは「随意雇用」と呼ばれる法理が適用されており、「労働者に制約のない『辞める権利』があるのならば、雇用主には『解雇する権利』があり、期間の定めのない雇用契約は雇用者・被用者のどちらからでも、いつでも、いかなる理由でも、理由がなくても自由に解約できる」という原則があります。そのため、アメリカでは極端にレイオフが多く、日本では少ないというわけ。実際に、任天堂は2014年に当時の社長である岩田氏を含めた幹部の給与をカットして解雇を避けた一方でヨーロッパ支社の従業員を320人解雇していたり、スクウェア・エニックスは2024年5月にアメリカとヨーロッパのオフィスで多数の従業員を解雇していたりと、日本の労働法こそが日本の労働者を保護しているとマタンル氏は強調しています。
さらにマタンル氏によると、労働法以外にも「倫理的説明責任」の点でも日本の経営者と欧米の経営者の間には大きな違いがあるとのこと。日本の組織は長期的な視野で運営される傾向があり、株主よりも従業員を喜ばせることにこだわる傾向が強く、企業幹部は長期雇用で昇進していくケースが多くなっています。一方でアメリカでは、企業幹部はそれぞれの業界の部外者であることが多く、数年ごとに転職するのが有利とされるほど頻繁な転職が当たり前な傾向にあります。そのため、日本では従業員を重んじてレイオフよりも幹部の給料カットなどを優先し、アメリカでは株主への発表を優先して大規模な従業員カットに踏み込むという違いが表れています。


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日本ではレイオフによって突然解雇される心配が少ないと言えますが、しかしながら「それを理由に日本がゲーム労働者にとってユートピアであるとは言えません」とThe Vergeは指摘しています。
京都に拠点を置くインディーゲームスタジオのDenkiworksの共同設立者であるリアム・エドワーズ氏は、「スターフォックス」などで知られるQ-Gamesという日本のゲーム会社で働き始めたとき、「週6日、1日12時間」という厳しい労働環境に苦しんだ経験を話しています。エドワーズ氏によると、ほとんどの外国人スタッフは不満を漏らしていましたが、日本人の従業員はそのような労働形態に慣れているため、ほとんど不満を言うことなく働いていたそうです。
シアトルと京都にスタジオを置く17-BITというゲーム会社の共同設立者であるジェイク・カズダル氏は、1990年代後半から2000年代前半にかけてセガで働いていた経験を「あの頃の唯一の不満は、四六時中働いていたことです。日本のスタジオでは、それが普通の状態でした」と語っており、日本のゲーム会社が過酷な労働環境下にあったことは長年継続していることを伝えています。


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また、日本のゲーム会社は臨時の契約社員や派遣社員にも頼っており、そのような臨時社員は雇用保障がないため、契約を更新しないという形でレイオフには数えられない人員削減が行われるケースもあります。
それでも、日本のゲーム業界における労働者は重用される傾向にあると考えられています。日本のゲーム業界のベテランアナリストであるセルカン・トト氏は「日本の人口は長期的に減少しており、労働者のサービス需要を押し上げている」「日本語は英語と比べて世界で話す人が少ないため、労働者の役割をアウトソーシングするハードルが高いことが、労働者にとって恩恵となる可能性がある」などの分析をふまえて、「日本のゲーム業界は、独自のゲーム文化、独自のビジネス文化、独自の閉鎖的なゲーム会社のエコシステムを持つ国特有の癖があります。日本は独自のリズムで進むことができます」と指摘しています。

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