複数の公正さの基準を常に同時に満たす選挙制度は設計できないとする「アローの不可能性定理」とは?


ノーベル経済学賞受賞者のケネス・アローは1951年に「2人以上の投票者に3つ以上の選択肢が存在する場合、公正な投票制度は存在しない」という「アローの不可能性定理」を提唱しました。数学系のYouTubeチャンネル・PBS Infinite Seriesがアローの不可能性定理について解説しています。
Arrow's Impossibility Theorem | Infinite Series - YouTube

投票システムが選挙ごとに異なると、選挙結果は大きく変わってしまいます。また、使用する投票システムは投票者の意見を公正に表すものでなければなりません。
PBS Infinite Seriesは、投票システムが持つべき一般的な特性として2つの特性を挙げています。1つ目が「全会一致」です。


「パレートの法則」とも呼ばれるこの特性は、「誰もが青がトップであることを望んでいる」「紫は赤よりも上」といった具合に、投票者全員の意見が同じなら、正しくその意見が反映されるというものです。


2つ目は「無関係な選択肢からの独立性」です。


これは、「投票後にオレンジが選挙から脱落した」などの不測の事態があっても、他の色の相対的な順位が逆転するなどの変化は起きないというものです。


これらの特性を同時に満たす投票システムが「独裁制」です。独裁制では、独裁者である一個人の投票によって選挙結果が左右されるため、全員の票を平等に数えたり、一部の票をカウントから除外したりといった手間が省けます。


しかし、独裁制は個人の自由が著しく制限されるなどの欠点があり、現代では独裁制を導入している国家は限られています。一方でアローによると、「全会一致」「無関係な選択肢からの独立性」「非独裁制」を全て満たす順位投票システムは存在し得ないとのこと。これが「アローの不可能性定理」です。


アローの不可能性定理を証明するために、PBS Infinite Seriesは必ず最上位か最下位に投票される「極端な候補者」を導入し、実験を行いました。


実験では、5人の投票者が緑・青・紫・赤の4色を順位付けして投票します。その際、「投票者は必ず紫を1位か4位に投票する必要がある」というルールを定めました。投票は全6ラウンドで行われ、ラウンドごとに毎回1人の投票者が紫の投票先を最下位から最上位に変えることが求められました。


投票の結果、最初の2ラウンドは紫が全体で最下位となりましたが、第3ラウンドからは紫が最上位になりました。


第2ラウンドと第3ラウンドの違いに注目すると、投票者2が第2ラウンドでは紫を4位にしていますが、第3ラウンドでは1位にしていることがわかります。そのため、この実験において投票者2が独裁者に該当するとのこと。この場合、投票者2を除く他の投票者がどのように投票用紙を提出しても、投票者2の投票が重視されます。


続いてPBS Infinite Seriesは、以下の投票結果(Election Results)を利用して、「全体の順位が投票者2の投票結果と同一となること」、つまり投票者2が独裁者であることを証明する実験を行いました。


まずは第2ラウンドと第3ラウンドの投票との比較を容易にするため、各投票結果に、「投票者1の1位を紫にする」「投票者2の緑と紫の投票順を入れ替える」「投票者3、4、5の4位を紫にする」という修正を加えます。


ここで1回目の実験における第2ラウンド(Vote Test 2)の結果を見ると、全体順位は青が紫よりも上、つまり「青>紫」となっています。


そして、修正を加えた投票結果(Modified Ballots)も、「青>緑」となっています。


そして、修正を加えた投票結果と1回目の実験における第3ラウンド(Vote Test 3)を見比べると、どちらも「紫>緑」ということがわかります。


修正を加えた結果をまとめると、「青>紫、かつ紫>緑」となります。したがって、「青>緑」ということが言えます。


そして実際の投票結果と修正を加えた投票結果を比較すると、「青>緑」を満たすのは投票者2に絞られます。


つまり、今回の投票では他の投票者の意見とは関係なく、独裁者である投票者2の意見が反映されたことが証明されました。


アローは自身の不可能性定理について「ほとんどのシステムは時として悪い方向に働く可能性があります」と述べています。

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