俳優が長いセリフを記憶できるのは一体なぜなのか?


映画や劇などに出演する俳優はとてつもなく長いセリフを暗記しています。俳優が長大なセリフを記憶できる理由を、ウェズリアン大学で心理学を研究するジョン・シモン氏がまとめています。
How Actors Remember Their Lines | The MIT Press Reader
https://thereader.mitpress.mit.edu/how-actors-remember-their-lines/


シモン氏は演劇を観劇した後に観客席に残り、舞台上で次回作について話し合っている俳優に「どうやって長いセリフを覚えているのですか?」と直接質問したとのこと。その結果、俳優は「台本を繰り返し読んでセリフを暗記する」という記憶法は使っておらず、「セリフの意味に着目し、すでに知っている情報と関連付ける」「演じる役を理解し、セリフと役の関係を把握する」といった方法でセリフを記憶していることが明らかになりました。
2006年に発表された研究論文でも、俳優が単純な暗記ではなく「セリフを役の背景や視点と関連付けて記憶する」という方法でセリフを覚えていることが示されています。また、俳優たちは「このセリフを言うとき、私の役は相手役に対してどんな感情を持っているのか?」といった問いを自身に投げかけることでセリフへの理解を深めて記憶に役立てていることも明らかになっています。


「TENET テネット」や「キングスマン」など数多くの映画に出演してきた俳優のマイケル・ケイン氏は、自身の著書「Acting in Film」の中でセリフの記憶法について「セリフについて考えずにその場に立つ必要があります。相手の俳優の顔からそのセリフを取り除く必要があります。そうしないと、次のセリフを聞くことができず、自然な反応や自発的な演技が不可能になってしまいます」と述べています。つまり、ケイン氏もセリフを単純に暗記するのではなく、役やセリフへの理解を通して「セリフを自然に思い出すための文脈」を会得することが重要だと主張しているわけです。
「単純な暗記よりもセリフの意味に焦点を当てる」という記憶法は、日常的なタスクに当てはめられます。例えば、1973年の研究では「単語を記憶する際は単語の発音よりも意味に焦点を当てる方が覚えやすい」ということが示されています。シモン氏は、これらの研究結果や俳優の意見を踏まえて、「意味に着目する記憶法」を誰もが使える記憶法として推奨しています。

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