北朝鮮のアニメ制作会社が制裁を回避して日本や海外のアニメ制作を請け負っている実態が明らかに


朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)のインターネットクラウドサーバーの設定ミスにより、同国に対する経済制裁を回避し、Amazonなどの欧米企業がアニメーション制作を北朝鮮のアニメーターにアウトソーシングしていた実態が明らかになりました。北朝鮮のアニメーターが制作に携わったと目されるアニメーション作品には2024年7月放送予定の「魔導具師ダリヤはうつむかない」も含まれており、北朝鮮の核関連施設やミサイル関連施設の画像分析などを行う情報分析サイト・38 Northは、「今回の事例は外国企業にとって、アウトソーシングされた業務が制裁に違反するものか否かを検証することがいかに難しいかを浮き彫りにしている」と報じています。
What We Learned Inside a North Korean Internet Server: How Well Do You Know Your Partners? - 38 North: Informed Analysis of North Korea
https://www.38north.org/2024/04/what-we-learned-inside-a-north-korean-internet-server-how-well-do-you-know-your-partners/


‘Invincible’ production company denies North Korean involvement with TV series | NK News
https://www.nknews.org/2024/04/invincible-production-company-denies-north-korean-involvement-with-tv-series/
North Koreans may have helped create Western cartoons, report says | Reuters
https://www.reuters.com/world/asia-pacific/north-koreans-may-have-helped-create-western-cartoons-report-says-2024-04-22/
Some Amazon and Max cartoons may have been partially animated in North Korea
https://www.engadget.com/some-amazon-and-max-cartoons-may-have-been-partially-animated-in-north-korea-160036603.html
事の発端は2023年末に、北朝鮮のIPアドレス上でクラウドストレージサーバーが発見されたことです。発見された時点でサーバーは使われていませんでしたが設定ミスによりサーバー上のファイルがパスワードなしで誰でも閲覧できる状態となっていました。
北朝鮮がこのようなサーバーを運用していることは驚きであると38 Northは指摘。その理由は、北朝鮮の平均的なIT労働者はインターネットに直接アクセスする権限を有していないためです。通常、北朝鮮の組織はインターネットにアクセスできるコンピューターを1、2台しか保有していないため、労働者がコンピューターを使用するには承認が必要であり、使用中も監視されることとなります。
パスワードなしで誰でもアクセスできるようになっていた北朝鮮のクラウドサーバーを発見したのは、North Korean Internetを運営するニッキー・ロイ氏。38 Northはロイ氏と協力して2024年1月からクラウドサーバー上のファイルを調査し、その中で北朝鮮がアウトソーシングで制作していたアニメーション映像に関するデータを発見しています。なお、ファイルをアップロードした人物の身元を特定することはできなかったそうです。
クラウドサーバー上で発見されたのは制作途中のアニメの絵コンテなど。これらのデータにはアニメ制作会社によって書かれたと思われる中国語のコメントや指示が含まれており、これらは韓国語に翻訳されていたそうです。そのため、38 Northは「これらのデータはアニメの制作会社とアニメーターの間で情報をやり取りする際の仲介者がアップロードしたもの」である可能性を指摘しています。
クラウドサーバー上で発見されたアニメの原画の一例が以下。「キャラクターの頭の形を改善するように」との指示が書き込まれています。

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北朝鮮のパートナーの身元は確認されていませんが、「SEKスタジオ」として知られている北朝鮮のアニメーションスタジオである可能性が高いと38 Northは指摘しています。SEKスタジオは2000年代初頭の太陽政策時代に、韓国企業と協力したプロジェクトなどでいくつかの国際プロジェクトに参加しています。
しかし、SEKスタジオは2016年にアメリカ財務省から北朝鮮の国有企業と認定されました。これにより、アメリカ政府はSEKスタジオと協力したり仲介したりした中国企業に対し、2021年と2022年に制裁を発動しています。
さらに、38 NorthはGoogle傘下のコンピューターセキュリティ企業であるMandiantと協力し、北朝鮮のサーバーのアクセスログも調査しています。サーバーへのアクセスログには、スペインのIPアドレスと中国のIPアドレスが含まれており、中国のIPアドレスは北朝鮮に隣接した丹東市、大連市、瀋陽市を含む遼寧省のものだったそうです。丹東市、大連市、瀋陽市の3つの都市はいずれも北朝鮮が運営する企業が多く存在することで知られており、国外で生活する北朝鮮出身のIT労働者の主要な拠点となっています。
北朝鮮のクラウドサーバー上で発見されたアニメーションには以下のものがあります。
・カリフォルニアに拠点を置くSkybound Entertainmentが制作した、Amazonオリジナルのアニメシリーズ「インビンシブル ~無敵のヒーロー~」のシーズン3。サーバー上に保存されている文書には、シリーズの名前とSkybound Entertainmentグループの一部であると思われる「Viltruminte Pants」の名前が記載されていました。
・メリーランド州に本拠を置くYouNeek StudiosとLion Forge Entertainmentが制作し、HBO Maxで2024年に放送予定のスーパーヒーローアニメの「Iyanu:Child of Wonder」。
・颱風グラフィックスとイマジカインフォスが制作を担当し、2024年7月から放送予定の日本のアニメ作品「魔導具師ダリヤはうつむかない」。
・「猫」という名前のファイルには、北海道のアニメーション制作会社であるエカチエピルカの名前が書かれている。
・BBCの児童向けアニメ「Octonauts」のものと思われる動画ファイル。
このほか、どこのアニメーション制作会社が関係しているのかが不明な、中国アニメやロシア語の動画ファイルなども見つかっています。

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上記の企業がアニメーション制作の一部が北朝鮮のアニメスタジオに下請けされていたことを知っていたかどうかは不明で、実際、アメリカを拠点とするアニメーション関連ファイルもすべて中国語で編集コメントが書かれているそうです。
アメリカ政府は2022年半ばに、遠隔地の請負業者を探す際に、北朝鮮のIT労働者を誤って雇用してしまう可能性があると警告しました。さらに、北朝鮮の労働者を雇用してしまえば、企業がアメリカおよび国連の制裁に違反する可能性があることも警告しています。アメリカ政府によると、北朝鮮の労働者は「アメリカを拠点に活動するテレワーカー」と身分を偽り、VPNなどを用いて自身が北朝鮮の労働力ではあることがばれないように偽装しているとのことです。そのため、企業に対してはビデオ面接や身元調査などの安全策を講じることを推奨しています。
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38 Northは「北朝鮮のアニメーション制作会社が国際的なプロジェクトに取り組む能力を有しているということは、アニメのような世界的な産業に対し、既存のアメリカの制裁を執行することの難しさを浮き彫りにしています。また、アメリカのアニメーション制作会社が、自社のプロジェクトに関与するすべての企業について、より多くの情報を得る必要性も強調しています」と述べました。

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