「若者のメンタルヘルス悪化はSNSのせい」という主張は真の原因への対処法から目をそらしてしまう可能性があるという指摘


社会心理学者のジョナサン・ハイト氏が新刊において「SNSは若者のメンタルヘルスに悪影響を与える」と主張したことに対して、科学誌・Natureで書評を担当した、カリフォルニア大学アーバイン校の心理学者・情報学者であるキャンディス・L・オジャース氏が反論しています。
Amazon | The Anxious Generation: How the Great Rewiring of Childhood Is Causing an Epidemic of Mental Illness | Haidt, Jonathan | Stress Management


The great rewiring: is social media really behind an epidemic of teenage mental illness?
https://www.nature.com/articles/d41586-024-00902-2


オジャース氏はハイト氏の新刊「The Anxious Generation: How the Great Rewiring of Childhood Is Causing an Epidemic of Mental Illness(不安の世代:小児期の大規模な再配線がどのようにメンタル問題の流行を引き起こしているか)」を読んで、「多くの親が信じるように仕向けられた、子どもの発達についての恐ろしい話が書かれているので、とても売れるだろう」と予測すると同時に、「デジタル技術が子どもたちの脳の配線を変え、心の病を引き起こしているという主張は科学界では支持されていない」と断じています。
オジャース氏によれば、ハイト氏の主張は「目と耳から中毒性のあるコンテンツを取り入れたことで、子どもたちの脳で再配線が行われる」「SNSは、物理的な遊びや対人関係と入れ替わることで、子ども時代を再構築し、想像もできない規模で人間の成長を変えてきた」という内容だとのこと。
書籍には「デジタル技術の利用」と「思春期のメンタルヘルス問題」がともに増加していくことを示すグラフが掲載されています。しかしオジャース氏は「統計学の授業の初日に、因果推論の基礎と、傾向線を見ただけでストーリーを作らないようにする方法を学生に教えるのに役立つでしょう」と、否定的な評価を下しています。
若者のメンタルヘルスとSNSについての研究はすでに何百人もの研究者が取り組んでいる内容で、オジャース氏によれば、多くのデータで相関関係が見られ、「精神衛生上の問題を抱える若者は、SNSを利用する頻度が高いか健康な若者とは異なる使い方をする傾向がある」といえるものの、「SNSの利用が抑うつ状態を引き起こす」わけではないとのこと。


少なくとも、「SNSの利用が、子どもの脳内の再配線や、メンタルヘルスの悪化を引き起こすことはない」ということと、「若者が費やしている時間を考えると、SNSには改革が必要」ということは、独立していうことができるとオジャース氏は述べています。
なお、「SNSの改革」という点では、年齢ベースで制限をかけたり、モバイル端末の使用を禁止したりするような施策は、効果が薄いどころか、思春期の若者に対しては逆効果になる可能性が高いとオジャース氏は指摘しています。

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