下水から見つかった新型コロナウイルスの「謎の変異株」の発生起源を突き止める研究


2022年に下水の中から見つかった系統不明の新型コロナウイルス変異株について、下水のサンプルをチェックして調べた結果、発生起源となったビルが特定され、人の体内で生まれた変異株だったことが判明したという論文が発表されました。
Tracing the origin of SARS-CoV-2 omicron-like spike sequences detected in an urban sewershed: a targeted, longitudinal surveillance study of a cryptic wastewater lineage - The Lancet Microbe
https://www.thelancet.com/journals/lanmic/article/PIIS2666-5247(23)00372-5/


ミズーリ大学のウイルス学者であるマーク・ジョンソン氏は2022年2月に、ニューヨークの下水サンプルから新型コロナウイルスの変異株を4種類特定したという論文を発表しました。
ニューヨークの下水から新型コロナの「不可解な変異株」が複数見つかる - GIGAZINE


この論文を発表する1カ月前の2022年1月に、ジョンソン氏らの研究チームはウィスコンシン州の下水処理施設から得られた廃水のサンプルから新型コロナウイルスの変異株「WI-CL-001」を発見しました。
そこで、ジョンソン氏らはウィスコンシン州にある下水道と排水溝から廃水サンプルを採取。その中のウイルス濃度をRTデジタルPCR法で測定し、さらにウイルスの宿主種を決定するためのRNA配列決定に加えて、SARS-CoV-2スパイク受容体結合ドメイン、および可能な場合は全ウイルスゲノムの配列決定も行い、この系統の進化を同定し特徴付けました。


その結果、WI-CL-001の発生源が1つの商業ビルであることまで突き止められたとのこと。この商業ビルの廃水からは高濃度のWI-CL-001が検出され、その大部分はヒト由来であることが判明しました。
さらに、研究チームはこの商業ビルで2022年1月~2023年1月に採取された廃水サンプルから、100以上のウイルス受容体結合ドメインとゲノム配列を作成しました。この配列にはウィスコンシン州で2020年10月から2021年2月にかけて低レベルで感染が確認されていた「Pango系統B.1.234」に特徴的な塩基配列の一部が含まれていました。
このことから、研究チームはPango系統B.1.234に感染した1人の人間から新型コロナウイルスの変異株が持続的に排出されていることを示していると主張し、新型コロナウイルスは人に感染しながら少しずつ変異し、進化を遂げていると論じました。


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