ハッブル宇宙望遠鏡が観測した「宇宙の膨張率」に間違いはなかったことがジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡によって示される


宇宙の膨張率を示すハッブル定数は、宇宙の歴史と将来を調査するために重要なデータで、ハッブル宇宙望遠鏡による観測から求められています。しかし、別の観測方法から算出した値とずれがあったため、ハッブル宇宙望遠鏡の測定に誤りがある可能性が指摘されていました。しかし、2021年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の測定データから、ハッブル宇宙望遠鏡の測定に間違いはなかったことが示されました。
ESA - Webb & Hubble confirm Universe’s expansion rate
https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Webb/Webb_Hubble_confirm_Universe_s_expansion_rate
宇宙はビッグバンによって誕生した約138億年前から膨張を続けています。宇宙が膨張することで、地球のある天の川銀河から観測するとどの方向を見ても、遠方に存在する銀河は遠ざかっています。
宇宙が膨張して銀河が遠ざかっているということは、「赤方偏移」という現象からわかります。私たちが遠くにある天体を観察するということは、その天体から発せられた光が地球に届いたということを意味します。しかし、この光が天体から地球に届くまでの何億年間にも宇宙の空間は膨張し続けているため、光の波長が長くなり、可視光でいえばより赤い方に偏ってしまいます。


アメリカの天文学者であるエドウィン・ハッブルは自身の観測結果に基づく経験則として、「宇宙の膨張によって銀河が遠ざかる速度は銀河までの距離に比例する」というハッブル・ルメートルの法則を発表しました。このハッブル・ルメートルの法則は、銀河の後退速度をv(km/s)、銀河までの距離をr(メガパーセク)とすると、「v=H0r」という式に表わすことができ、この比例定数H0を「ハッブル定数」と呼びます。
1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡に課せられたミッションの1つが、このハッブル定数の正確な値を計測することでした。ハッブル宇宙望遠鏡がセファイド変光星を測定したことによって、宇宙の年齢が約138億年であることも明らかとなりました。


ハッブル宇宙望遠鏡の測定値は誤差1%未満という精度だったそうですが、ハッブル宇宙望遠鏡のデータから導き出されたハッブル定数は、ESA(欧州宇宙機関)のプランク衛星が測定した宇宙マイクロ波背景放射から導出された結果とわずかに違いがあったとのこと。そのため、ハッブル宇宙望遠鏡の異常による観測誤差がある可能性も考えられました。
また、一部の天文学者からは、セファイド変光星が宇宙の膨張によって離れていくにしたがって、「宇宙の距離はしご」と呼ばれる測定法の結果にぐらつきが生まれて不正確になっていくからではないかという説が唱えられていました。
しかし、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が2022年に稼働を開始したことで、これまでハッブル宇宙望遠鏡で測定してきたデータをチェックできるようになりました。その結果、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による測定結果はハッブル宇宙望遠鏡によるものと一致していたことがわかりました。


つまり、宇宙望遠鏡の測定から導き出される膨張率と、宇宙マイクロ波背景放射から導き出される膨張率に差が生まれているのは機器の異常による誤差ではなく、別の何かが影響を与えたからだというわけです。ただし、この測定結果に影響を与えている要素が何なのかは記事作成時点では明らかになっていません。
ジョンズ・ホプキンス大学の物理学者で、2011年に「宇宙の加速膨張の発見」でノーベル物理学賞を受賞したアダム・リース氏は「ハッブル宇宙望遠鏡の測定誤差が否定されたので、あとは私たちが宇宙を誤解していたという現実的かつ刺激的な可能性が残されました」とコメントしています。

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