空気の質が悪化すると自殺率が急上昇することが判明

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大気汚染は呼吸器や脳機能にさまざまな悪影響を及ぼすことがわかっており、人間にとって最も深刻な健康リスクとも指摘されています。中国全土の大気質モニタリングステーションのデータを用いた新たな研究では、空気の質が悪化すると自殺率が上昇することが判明しました。
Estimating the role of air quality improvements in the decline of suicide rates in China | Nature Sustainability
https://www.nature.com/articles/s41893-024-01281-2

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Clearing the air reduces suicide rates | The Current
https://news.ucsb.edu/2024/021373/clearing-air-reduces-suicide-rates
Chinese Study Finds Suicide Rates Spike When Air Quality Drops : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/chinese-study-finds-suicide-rates-spike-when-air-quality-drops
Air Pollution Drives Suicide Rates Even On A Weekly Basis | IFLScience
https://www.iflscience.com/air-pollution-drives-suicide-rates-even-on-a-weekly-basis-73167
人口の多い中国では自殺する人の数も多く、世界中の自殺者の約16%が中国で発生しているそうですが、近年はその割合が減っているとのこと。自殺率が減少した要因としては、所得の増加や文化的な変化までさまざまなものが考えられますが、香港中文大学の環境経済学者であるペン・チャン准教授らの研究チームは、自殺率の変化と「大気汚染の程度」が関連しているのではないかと考えました。
かつて中国は世界有数の大気汚染国でしたが、2013年には「大気汚染の予防と管理に関する行動計画」を発表し、自動車の排ガス規制や公共交通機関の刷新、石炭から天然ガスへの切り替えの促進、太陽光や風力などのクリーンエネルギー発電の拡大といった対策を導入しました。その結果、大気汚染の状況は一時期に比べて改善されたとみられています。
この大気汚染の改善と同時期に、全国的な自殺率も著しく低下しました。中国疾病予防管理センターによると、2010年から2021年の間に年間自殺率は10万人あたり10.88人から5.25人まで減少したとのこと。

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チャン氏らは大気汚染と自殺率の変動について調べるため、中国全土にある1400カ所の大気質モニタリングステーションが計測した毎週の大気質データを収集しました。さらに、人間の活動が自殺率に及ぼす影響を極力排除するため、「逆転層」と呼ばれる気象現象に焦点を合わせました。逆転層とは、地表付近よりも上空の大気が温かくなることで対流が抑制される現象であり、これによって地表で濃霧やスモッグが発生するとのこと。
逆転層は通常数時間ほどしか続きませんが、地方自治体レベルでは空気中のPM2.5濃度を1週間で1%ほど上昇させます。鼻から吸い込まれたPM2.5は脳に到達してさまざまな影響を及ぼし、長期的にはメンタルヘルスの悪化や感情調節の困難につながります。
分析の結果、逆転層によって大気汚染が悪化した週の自殺率は、通常時と比較して最大25%も上昇することが判明しました。特に影響が大きかったのは65歳以上の女性で、大気汚染が悪化すると通常時よりも自殺率が2.5倍も上昇したと報告されています。
逆転層の発生に伴う自殺率の上昇は大気汚染が7日以上継続せず、大気質が軽減されると急速に低下しました。この事実は、大気汚染は自殺率を上昇させる慢性的な健康問題を引き起こすのではなく、一時的に自殺率を上昇させる直接的な神経学的影響を及ぼす可能性があることを示唆しています。研究チームは、「これらは『追加』の自殺であり、大気質が悪化していなければ決して起こらなかったであろう死です」と主張しました。

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さらに研究チームの分析では、中国で2013~2017年の間に低下した自殺率のうち10%は、大気汚染の減少が理由である可能性があると示されました。これは、大気汚染の減少により約4万6000人の自殺が防がれたことを意味しています。
論文の共著者であるカリフォルニア大学サンタバーバラ校のタンマ・カールトン助教は、「私たちは自殺やメンタルヘルスについて、個人レベルで理解し、解決するべき問題だと考えがちです。今回の結果は、メンタルヘルスや自殺の危機を緩和するために、個人レベルの介入以外に公共・環境政策が重要であることを指摘しています」と述べました。

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