北極圏で「海氷のない夏」が2035年までに訪れるかもしれないと科学者が警告

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近年は地球温暖化が進行し、グリーンランドの氷床が前例のない勢いで解けていることや、北極海の一部で10月中旬になっても結氷が始まらないという観測史上初の事態が発生したことなどが報じられています。新たにコロラド大学ボルダー校の研究チームが、2035年までに「海氷のない夏」が訪れる可能性があると報告しました。
Projections of an ice-free Arctic Ocean | Nature Reviews Earth & Environment
https://www.nature.com/articles/s43017-023-00515-9

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Ice-free summers in Arctic possible within next decade, scientists say | Arctic | The Guardian
https://www.theguardian.com/world/2024/mar/05/ice-free-summers-in-arctic-possible-within-next-decade-scientists-say
北極圏の海氷は1978年に人工衛星による観測が始まってから顕著に減少しており、特に近年は海氷の減少ペースが急上昇していることがわかっています。海氷の減少はホッキョクグマやアザラシ、セイウチなどの海洋動物に打撃を与えるほか、本来であれば海氷で抑えられる波が大きくなることで、沿岸部の人々の生活にも影響を及ぼすとのこと。
このまま地球温暖化が進むと、いずれ北極圏の海氷が夏の時期にほとんどなくなる事態が発生すると考えられています。そこで研究チームは、北極圏の海氷面積が100万km2未満になった状態を「氷のない北極圏」と定義し、いつ頃に氷のない北極圏が発生するのかを検討しました。
1年のうちで北極圏の海氷が最も少なくなる9月の海氷面積を示した図が以下。一番左の「a」は夏でも海氷に覆われていた1980年代の北極圏を表しており、この時期の典型的な海氷面積は550万km2でした。ところが、2015~2023年の間に海氷面積は330万km2ほどにまで減少してしまいました。これが、中央の「b」です。さらに、さらに海氷面積が100万km2未満になった右の「c」を見ると、グリーンランドやカナダの北極諸島沿岸部を除いて海氷が消失していることがうかがえます。これが、研究チームが予測している「氷のない北極圏」の姿です。

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また、以下の図は1980年~1999年の海氷面積の年間推移を赤い幅で、「氷のない北極圏」が発生するであろう10年間の年間推移を青い幅で示したグラフです。将来的に、海氷面積は年間を通じてすべての月で減少するとみられていますが、その減少幅は9月に最大になると研究チームは予測しています。

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研究チームによると早ければ2020年代に、遅くても2050年までに最初の氷のない北極圏が発生する可能性があるとのこと。また、2035~2067年にかけて9月中ずっと氷のない北極圏が継続することも予想しています。
氷のない北極圏が持続する期間は、人間がどれほど化石燃料の使用量を減らせるのかにかかっています。温室効果ガスの排出量が多いシナリオでは5月から翌年の1月にかけて、少ないシナリオでも8月から10月まで氷のない北極圏になる可能性があるとのことです。
しかし、数千年かけて作られたグリーンランドの氷床と違い、海氷は毎年の気温変化によって結氷して作られます。そのため、ひとたび氷のない北極圏が発生したとしても、気候変動を逆転させることで再び夏の海氷面積を増やすことができます。
コロラド大学ボルダー校の大気海洋科学准教授であり、論文の筆頭著者を務めるアレクサンドラ・ヤーン氏は、「こうなると北極圏の夏は『白い北極圏』から『青い北極圏』へと、まったく異なる環境に変貌することとなります。そのため、氷のない北極圏が避けられないとしても、その状態が長引かないように排出量をできる限り抑える必要があります」とコメントしました。

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