警察官がうそをついて無実の人々から虚偽の自白を引き出す方法とは?

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ニュースでは時折、えん罪で有罪宣告を受けてしまった人が長い裁判の末に無罪判決を勝ち取った事例が報じられます。しかし、一度えん罪で逮捕・起訴されると社会的信用や膨大な時間などを失ってしまうため、たとえ無罪判決が下されてもそれまでの人生を取り戻すことは困難です。警察官がえん罪の被害者から「うその自白」を引き出す方法や、えん罪被害を食い止めるために議論されている法案について、海外メディアのシアトル・タイムズが解説しています。
WA House bill would make it illegal for police to lie during interrogations | The Seattle Times
https://www.seattletimes.com/seattle-news/politics/wa-house-would-make-it-illegal-for-police-to-lie-during-interrogations/

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1996年、アメリカ・ワシントン州のヤキマ郡に住む当時22歳で2児の父だったテッド・ブラッドフォード氏は、軽犯罪容疑で警察に逮捕された際、ヤキマ郡警察署で取り調べを受けました。警察官に弁護士を呼んだ方がいいのか尋ねましたが、警察官がいくつか質問したいだけなので弁護士は不要だと答えたため、ブラッドフォード氏は警察を助けるつもりで権利放棄書に署名したとのこと。
ところが、警察官はブラッドフォード氏が逮捕された軽犯罪ではなく、6カ月前に起きた強姦(ごうかん)事件について9時間以上にわたりブラッドフォード氏を取り調べました。当初は自分が無罪だと証明するために抵抗していたブラッドフォード氏でしたが、取り調べの間は食事やコップ1杯の水すらも与えられず、尋問は次第に厳しいものになっていき、ブラッドフォード氏はどんどん疲弊していったとのこと。
また、警察官はブラッドフォード氏に脅しをかけ、「ブラッドフォード氏が犯人だと示すDNAの証拠がある」とうそをつきました。ブラッドフォード氏は当時を回想し、「この状況から抜け出すには自白するしかなく、自白すれば彼らは証拠を調べて私が無実であることがわかり、すべてから解放されるだろうと考え始めました」と述べています。ところが、実際にはDNA鑑定が行われないまま裁判は進み、ブラッドフォード氏は自白と近隣住民の証言に基づいて拘禁10年の実刑判決を受けてしまいました。
ブラッドフォード氏がまだ刑務所に入っていた2005年、えん罪被害者を救済するプロジェクト・Innocence Project Northwestは現場に残されたマスクやテープから採取されたDNAの検査を行いました。その結果、ブラッドフォード氏のDNAは検出されず、代わりに別の男性のDNAが残されていることが判明。Innocence Project Northwestはブラッドフォード氏の有罪判決を無効とする動議を提出し、2度目の裁判にかけられたブラッドフォード氏は2010年にようやく無罪判決を勝ち取りました。
しかし、すでにブラッドフォード氏はえん罪で宣告された10年の刑期を全うした後で、元妻とも服役中に離婚しており、逮捕される前の生活が戻ってくることはありません。また、新たなDNA鑑定によって真犯人は被害者の義理の兄弟だと推定されているものの、その人物は逮捕されていないため、被害者にとっても正義が執行されなかったことを意味しています。

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また、2007年にイタリアで発生したペルージャ英国人留学生殺害事件では、イギリス人女子留学生の女性を殺害した犯人の1人として、ルームメイトだったアメリカ人女性のアマンダ・ノックス氏が逮捕されました。イタリア国内ではノックス氏に対する報道が過熱し、大きな注目を集めたとのこと。
イタリアの警察署で行われた53時間にわたる取り調べの間、ノックス氏は通訳がほとんどいない状況に置かれ、非常に疲弊して混乱したそうです。また、警察官はノックス氏に不利な証言があったとうそをつき、混乱の中で偽の記憶を作り出してしまったノックス氏はついに虚偽の自白をしてしまいました。
ノックス氏はインタビューで、「信頼していた人々が私にうそをつく心の準備ができていなかったため、無実である私を弱らせて、最終的にえん罪を生むことになったのです」「警察が私にうそをついたので、自分が正気を失ったのだと感じさせられました。彼らは、私が記憶喪失であり、本当のことを覚えていないのだと言いました」と述べています。一審でノックス氏は拘禁26年の有罪判決を受けましたが、2011年の控訴審では逆転無罪判決が下され、2015年には最高裁判所からも無罪判決が言い渡されました。

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ブラッドフォード氏やノックス氏は、警察官のうそによって虚偽の自白をしてしまった事例の氷山の一角に過ぎません。2004年の調査報告では、実際に有罪の犯人から自白を引き出すのに成功すればするほど、同様の戦略が無実の人から虚偽の自白を引き出す可能性が高まると示されています。
こうしたえん罪事件を防ぐため、アメリカのワシントン州議会では、警察官が尋問中にうそをつくなどの欺瞞(ぎまん)的な戦術を用いて自白を引き出すことを禁止する法案が議論されています。ブラッドフォード氏は、「このような法案は単に有罪判決を得るのではなく、『正しい有罪判決』を得ることに重点を置くものです。えん罪で有罪になった人の数だけ逮捕されなかった真犯人が存在しており、彼らはさらなる罪を犯している可能性があります」と述べました。
一方でワシントン州の保安官・警察署長協会の政策ディレクターであるジェームズ・マクマハン氏は、潜入捜査官が被疑者に対して年齢や氏名を偽るなど、真実を解明するためにうそが必要なケースもあると主張。「時には、真実を語ってもらうためにうそをつかなくてはならないという不幸な現実があります」と述べ、既存の捜査・尋問の手法を擁護しています。

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