巨大IT企業から「法的措置をちらつかせる停止通告書」を受け取った場合の対処方法とは?

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「Cease and desist(停止通告書)」とは、著作権侵害やその他の違法行為を犯していると思われる相手に対し、その行為を停止せずに続ける場合は法的措置を取ると警告する通知のことです。巨大テクノロジー企業は個人の開発者や研究者に対して停止通告書を送り、自分たちにとって不都合なサービスの開発や研究を止めさせようとすることがあります。実際に「Facebookのフォローを一括解除する拡張機能」を開発し、Facebook(現在のMeta)から停止通告書を受け取ったソフトウェアエンジニアのルイ・バークレー氏が、自らの体験談を元に「停止通告書を受け取った時の対処方法」についてまとめています。
How to deal with receiving a cease-and-desist letter from Big Tech
https://12challenges.substack.com/p/how-to-deal-with-receiving-a-cease
バークレー氏はある日、Facebook中毒のような状態になっている自分を省みてすべてのフォローを外したところ、Facebookを閲覧するのに費やす時間が劇的に減少したとのこと。この経験にヒントを得て、2020年7月にワンクリックでFacebookのフォローを一括解除できるChrome向け拡張機能「Unfollow Everything」を開発・リリースして大きな反響を得ましたが、2021年7月にFacbookやInstagramのアカウントが削除され、数日後にFacebookの法務部から「Unfollow Everything」の削除を求める停止通告書を受け取りました。バークレー氏はやむを得ず拡張機能を削除しましたが、削除されたアカウントは元に戻らなかったそうです。
「Facebookのフォローを一括解除するアプリ」を作成したユーザーがアカウントを削除される事態が発生 - GIGAZINE

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バークレー氏が自らの体験談を元にまとめた「停止通告書への対処方法」は以下の通り。
◆0:リスクを予測して備えておく
まずは停止通告書を受け取る前段階として、たとえ巨大テクノロジー企業に敵対するようなソフトウェア開発や研究を行っていなくても、停止通告書を受け取る可能性があると心の準備をしておくべきだとのこと。バークレー氏は、「私は、Facebookと相互運用するソフトウェアを作ることで、停止通告書や永続的なアカウント禁止のリスクにさらされると理解していませんでした。このことをもっと意識していれば事態に備えられたかもしれないし、それほどショックを受けずに済んだかもしれません」と述べています。
巨大テクノロジー企業は多額の資金と優秀な法務部を持っているため、開発者や研究者に停止通告書を送付することは簡単であり、多くの人は停止通告書を受け取るリスクにさらされています。そのため、バークレー氏は「作業中のプラットフォームからすべてのデータをダウンロードして保存しておく」「人生がそのプラットフォームに依存しないようにする」「プラットフォームの利用規約をよく読み込む」「管轄区域の弁護士に相談して法的意見を求める」といった準備をすることを推奨しています。
◆1:おそらく大きな問題は起きないと理解する
巨大テクノロジー企業から停止通告書を受け取るとほとんどの人が動揺してしまいますが、「基本的に刑務所や法廷に行く可能性はほとんどない」とのこと。停止通告書は正式な法的措置が開始されたことを意味するのではなく、あくまで「このまま対処しないと法的措置をとる」と脅すためのものであり、これ以上事態がエスカレートする可能性は低いそうです。
停止通告書にはあらゆる種類の法外な主張や要求が含まれていますが、そこに法的強制力がある必要はないため、巨大テクノロジー企業による嫌がらせの場合が多いとバークレー氏は指摘しています。停止通告書の目的はあくまで「相手の行為を止めさせること」にあり、たとえ文書内にさまざまな脅しの文言が含まれていたとしても慌てずに、順序立てて対応することが重要です。

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◆2:最初のアクションを把握する
実際に巨大テクノロジー企業から停止通告書を受け取った場合は、まず「標的にされているサービスやソフトウェアの提供を一時停止する」ことが穏当です。巨大テクノロジー企業は膨大なリソースを持つ相手であり、とりあえず問題のサービスを一時停止すれば、意図せず事態を悪化させてしまう危険を避けられます。
停止通告書には具体的な返信期限が設けられている場合がありますが、大抵は「48時間以内」といった無謀な期限が設定されています。これに急いで返信してしまうと、うっかり自分にとって不利な文言をメールに入れて言質を取られてしまう可能性があるため、まずは法的な助言をしてくれる弁護士を探し、期限を過ぎてもいいから落ち着いて返信するべきだとバークレー氏はアドバイスしました。
また、停止通告書には「ソフトウェアの機能を教えろ」「所有しているドメインとアプリのリストを提供しろ」「ソフトウェアから得た収益を報告しろ」といった要求が含まれることがありますが、最初の時点ではこれらの要求を無視し、ソフトウェアやサービスの一時停止のみ従うのがベターだそうです。なお、停止通告書を受け取った時点でプラットフォームのアカウントが削除されていない場合は、今後の削除に備えてアカウントからすべてのデータをダウンロードしておくことをバークレー氏は推奨しています。
◆3:選択肢は限られていると認識する
残念なことに、膨大なリソースを持つ巨大テクノロジー企業から停止通告書を受け取ってしまった場合、潤沢な資金や支援者を持たない個人の開発者や研究者が法廷で争うのは困難です。たとえ法的には自分が正しくて巨大テクノロジー企業の言い分に穴があろうとも、訴訟を起こすと大量の時間と資金、そして精神力を消耗してしまうため、現実的には受け入れるしかないことが多いとのこと。もし、法廷闘争に持ち込むことを決めたものの資金が乏しい場合は、クラウドファンディングや支援団体などを見つける必要があります。

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◆4:対応を決める
以上の点を念頭に置いた上で、「停止通告書を完全に無視する」「停止通告書に従ってサービスを停止する」「停止通告書は不当だとして法廷闘争に持ち込む」のいずれかを選択します。このうち、「停止通告書を完全に無視する」はかなり危険であり、最悪の場合は巨大テクノロジー企業が訴訟を起こしてくる可能性があるとのことで、バークレー氏は推奨していません。
もしサービスを停止することにした場合、肝心のサービス停止には従いつつ、明らかに法的根拠がなく不公平だと思われるその他の要求には応じないことも可能です。しかし、プラットフォームのアカウントが自分の生計に関わっており、無事に取り戻したいのであれば、可能な限りその他の要求にも応じて敵対心がないことを示すべきだとのこと。
◆5:世間に自分のエピソードを広める
「巨大テクノロジー企業と法廷闘争をする余裕はないが、何らかの手段で反撃したい」と思うのであれば、自身の受けた不公平な扱いを世間に問うことができます。実際に拡張機能の停止を余儀なくされた上にFacebookアカウントを削除されたバークレー氏は、その経緯について詳細に説明することで多くの注目を集め、Facebookへの批判につなげることに成功しました。
世間に自分の体験を広めるために、バークレー氏は「停止通告書を受け取った経緯とその後の対応について、1つのプラットフォームだけでなくさまざまな場所で何度も報告する」「巨大テクノロジー企業の横暴に批判的なジャーナリストに自身の経験を書いてもらうよう働きかける」「アプリやサービスの支持者や賛同者に連絡し、話を拡散してもらう」「一連の事態について地元の議員や政治家に連絡する」といった方法を推奨しています。
なお、実際に自身の体験談が大きな注目を集めた場合、ジャーナリストやフォロワーから大量のメッセージやメールが殺到します。これについてバークレー氏は、「善意の支援や貴重なメディアの関心でさえストレスを引き起こす可能性があると認識しておく必要があります」と述べ、注目されることは精神に負荷がかかることも指摘しました。

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◆6:企業からの追撃に備えておく
バークレー氏は2021年7月に停止通告書を受け取って拡張機能を停止しましたが、その後も2022年6月までの約1年間にわたりFacebookからの追撃メールを受け取り続けたとのこと。当初は「最初の停止通告書に記載したすべての要求に応じろ」と追撃するメールが繰り返し届き、7カ月間の沈黙があった後に「協定案」という新しいメールが届いたそうです。「協定案」には、停止通告書の要求にすべて従えばFacebookとInstagramアカウントを復活させる可能性がほのめかされていましたが、条件に違反した場合は少なくとも3万ドル(約450万円)の損害賠償を請求すると記されており、必ずアカウントが復活するという確約もなかったためバークレー氏はこれを無視しました。
◆7:受け入れて先に進む
バークレー氏は「悲しみの最終段階は受容です」と述べ、停止通告書を受け取ったほとんどのパターンではアカウントを取り戻すことができず、サービス開発や研究を継続することもできず、法廷闘争を行う時間や資金もないと指摘。そのため、せめて世間に体験談を広めることで政治家に声を届け、巨大テクノロジー企業の規制につながる可能性にかけた後は、立ち直って別のことに取り組むべきだと主張しています。
◆8:受け入れずに抗議し続ける
もちろん、ただ巨大テクノロジー企業に屈することをよしとせず、法廷闘争は無理でも地道に抗議し続けるという道もあります。バークレー氏は、「体験談を書き続けること」「政治家に連絡して定期的に最新情報を通知し、最終的な規制につながるよう取り組む」「開発者を守るための法的措置を支援する団体と連絡を取る」「自分と同じような不当な目に遭わされた人々と団結し、巨大テクノロジー企業の変化を求める声を上げる」といった行動を推奨しました。

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最後にバークレー氏は、「どんな決断をするにせよ、これは率直に言って恐ろしい体験ではあるものの、あなたはそれを乗り越えられるということを忘れないでください」とエールを送りました。

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