19世紀のイギリスで使用された「投げる消火器」が持っていた危険性とは?

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火災の初期消火のために使用される消火器には、火元に向けて消火剤を圧縮空気で噴射する一般的な消火器のほかに、火元に向かって投げ込むだけで初期消火が可能な「投げる消火器」と呼ばれるジャンルも存在します。このような「投げる消火器」は19世紀のイギリスで初めて導入されました。
The beauty and danger in Victorian Glass Fire Grenades – Museum Crush
https://museumcrush.org/the-beauty-and-danger-in-victorian-glass-fire-grenades/

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19世紀のイギリスで導入された「投げる消火器」は主に会社名が入ったガラス製で、主に火災現場で火元に向かって投げ込んだり、熱によってガラスが割れ、中の消火剤をスプリンクラーのように飛び散らせる目的で天井からつり下げておいたりといった使われ方をしました。

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中には塩水と塩化アンモニウムの混合物が詰められていました。塩水は通常の条件下では凍結せず、塩化アンモニウムを熱するとアンモニアを生成し、火災の抑制に役立つとされています。しかし、塩化アンモニウムの加熱で生成されるアンモニアでの消火の効果はいまひとつでした。
20世紀に入ってからは、ガラス製の容器の中に四塩化炭素を詰めるようになりました。四塩化炭素は、約76℃で気体となる性質を持っています。また、気体の四塩化炭素は空気よりも密度が高いため、地面付近で広がり、延焼を抑制することが可能です。
一方で、その後の研究で四塩化炭素には発がん性があることが明らかになっており、実際に触れたり、吸入したりすることで肺や腎臓、肝臓に損傷を与える可能性があることが報告されています。

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さらに、200℃~400℃に加熱した四塩化炭素が水に触れると、ホスゲンと呼ばれる有毒ガスが発生し、吸入すると命の危険にさらされます。実際に、ホスゲンガスは第一次世界大戦で用いられ、毒ガスによる死者90万人のうち、85%の死者がホスゲンガスによる中毒死だといわれています。
イギリスの芸術を紹介するMuseum Crushによると、四塩化炭素を用いた消火器は当時のイギリス王室で使用されたほか、イギリスの企業「Imperial Fire Extinguisher Company」は「自社の消火器がイギリス・サンドリンガムにおいて1886年頃用いられた記録が残っています」と報告しています。

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その後、改良が重ねられるにつれてこれらの消火器は、色とりどりのガラス製から透明ガラス製やすりガラス製へと変わっていきました。同時に、ガラスに付けられた装飾は次第に取り払われ、より機能的なものへと進化していったとのことです。

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