疲労感や運動能力の低下をもたらす新型コロナの後遺症「ロングCOVID」にミトコンドリアの機能不全が影響している可能性

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した後も症状が続くロングCOVIDは疲労感や息切れ、筋力の低下といったさまざまな問題をもたらし、仕事や日常生活などに支障を来します。そんなロングCOVIDがもたらすいくつかの症状に、細胞のエネルギーを作り出すミトコンドリアの機能不全が影響している可能性を示す研究結果が学術誌のNature Communicationsで発表されました。
Muscle abnormalities worsen after post-exertional malaise in long COVID | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-023-44432-3

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Long Covid causes changes in body that make exercise debilitating – study | Coronavirus | The Guardian
https://www.theguardian.com/world/2024/jan/04/people-with-long-covid-should-avoid-intense-exercise-say-researchers
Long COVID: damaged mitochondria in muscles might be linked to some of the symptoms
https://theconversation.com/long-covid-damaged-mitochondria-in-muscles-might-be-linked-to-some-of-the-symptoms-220821
ロングCOVIDがもたらす症状は身体的なものから精神的なものまで多岐にわたりますが、エネルギーの枯渇や筋力低下、筋肉痛、自律神経失調といった約半分の症状は筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の診断基準に適合しているとのこと。
ME/CFSの主な特徴はちょっとした身体的・精神的・感情的な労作後に症状が悪化する「労作後倦怠(けんたい)感」です。労作後倦怠感が治るには数日~数週間かかる場合があり、ロングCOVIDに苦しむ人々が日常生活を送ったり、仕事に復帰したりする上での大きな妨げになっています。しかし、労作後倦怠感が患者に深刻な影響を与えるにもかかわらず、そのメカニズムが十分に理解されているとはいえません。

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そこでオランダのアムステルダム大学やアムステルダム自由大学の研究チームは、ロングCOVIDの患者25人と、COVID-19になったもののロングCOVIDにはならなかった被験者21人を集めて実験を行いました。被験者はいずれも生産年齢であり、COVID-19で入院しておらず、発症する前は健康だったそうです。
研究チームは被験者に対し、エアロバイクを10~15分間こぐサイクリングテストを行わせ、テストの1週間前と翌日に骨格筋の生検と血液サンプルの採取を実施しました。サイクリングテストでは、ロングCOVIDの患者は健康な被験者と同量の労力を費やしたにもかかわらず、筋力が低く酸素摂取量も少なかったことが確認されました。これは、ロングCOVIDの患者は著しく運動能力が低下するという過去の研究結果と合致しています。
被験者から採取した筋組織サンプルを分析したところ、ロングCOVIDの患者では筋肉に占めるfast twitch glycolytic muscle fiber(速筋線維/白筋)の割合が多いことがわかりました。速筋線維は短時間で高強度の収縮が可能ですが、細胞のエネルギーとなるアデノシン三リン酸(ATP)を産生するミトコンドリアが少ないため、非常に疲労しやすいことが特徴です。
筋繊維中のミトコンドリアについて調査した結果、ロングCOVID患者では運動によってミトコンドリアの機能が低下していることも判明。これは、ロングCOVIDの患者において運動能力が低下しているだけでなく、運動中に筋組織が損傷を受けたことを示しているとのことです。さらに、ロングCOVID患者の筋肉や血液中では、ミトコンドリアがエネルギーを産生する解糖系に必要な分子が少ないことも明らかになりました。
筋肉のミトコンドリアが機能不全に陥っている場合、筋肉細胞は体の要求を満たすのに十分なエネルギーを産生できません。これが、ロングCOVID患者の症状が運動後に悪化する原因かもしれないと指摘されています。

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ミトコンドリアの機能不全の他にも、ロングCOVID患者の筋組織には「microclots(微小血栓)」が多く存在することが示されました。これまでの研究では、微小血栓が毛細血管をふさぐことでロングCOVIDの症状が引き起こされる可能性が示唆されていましたが、実際に微小血栓が毛細血管をふさいでいるという証拠は得られなかったとのこと。
また、組織の修復を助けるマクロファージとT細胞の数が、運動前の時点でロングCOVID患者の筋組織内で増加していることも確認されました。
今回の研究結果は、ロングCOVIDやME/CFSの患者において代謝・筋肉・免疫機能に異常があることを示す研究が増えていることを裏付けるものです。その上で、ミトコンドリアを標的にした治療法が、症状の改善に役立つ可能性も示唆しています。
すでにコエンザイムQ10(ユビキノン)など複数の化合物がミトコンドリアにプラスの影響を与えることが示されており、ロングCOVID患者のミトコンドリアを活性化させられる可能性があります。しかし、実際にこれらの化合物がロングCOVIDに効果を発揮するのかどうかを知るには、さらなる研究が必要です。
また、一般的なリハビリでは徐々に運動の強度を上げることで回復力と運動能力が構築されますが、ロングCOVIDの患者では運動後に多大なダメージが生じます。そのため、今回の研究はロングCOVID患者のリハビリ戦略の策定において注意が必要なことを浮き彫りにしています。

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