パルテノン神殿を彩った彫刻「エルギン・マーブル」は大英博物館からギリシャに返還されるべきなのか?

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古代ギリシア時代に建設されたパルテノン神殿では、紀元前440年代から紀元前430年代にかけて「エルギン・マーブル」と呼ばれる彫刻が制作され、飾られていました。しかし、19世紀初頭にイギリスの外交官だった第7代エルギン伯爵トマス・ブルースによってエルギン・マーブルは削り取られ、イギリスに送られました。その後エルギン・マーブルは大英博物館に展示されていますが、近年ではエルギン・マーブルをギリシャに返還すべきという議論が行われています。
The Parthenon/Elgin Marbles Debate: Return or Retain? – Antigone
https://antigonejournal.com/2023/12/elgin-marbles-debate/

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19世紀初頭にパルテノン神殿から大英博物館に移されたエルギン・マーブルをアテネのアクロポリス博物館に戻すべきかどうかについて、「返還すべきでない」と主張する人々の意見としては「彫刻を汚損や破壊から保護している」というものがあります。
返還に反対派の作家であるティスタ・オースティン氏によると、トマス・ブルースがエルギン・マーブルをパルテノン神殿から持ち出した意図は、古典芸術を後世に残すために、ギリシャの骨董(こっとう)品を収集するとともに彫刻を汚損や破壊から守るためだったとのこと。

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実際にパルテノン神殿は、これまでに記念碑が撤去されたり、かつてギリシャを支配していたトルコ人によって軍需品店として使用されたり、建材として使用されたり、残された彫刻を観光客に販売したりといった扱い方がなされてきました。
一方でギリシャ政府は1980年代以降、社会主義文化大臣メリナ・メルクーリ氏などの下で大英博物館からエルギン・マーブルを回収するキャンペーンを行っており、1816年にイギリスによるエルギン・マーブルの購入が正式に承認されたにもかかわらず「展示されているエルギン・マーブルはギリシャから盗んだものだ」「略奪されたものだ」といった主張がなされています。

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また、オースティン氏は、アクロポリス博物館の展示環境が大英博物館のそれに大きく劣っていると批判し、「トマス・ブルースによってエルギン・マーブルが深刻な損傷や劣化から救われたという事実に議論の余地はありません」と述べています。
一方「返還すべき」と主張する作家のアーマン・ダンゴール氏は「1801年に作られた『エルギン・マーブルの持ち出し許可証』は存在の事実が疑わしく、トマス・ブルースが大英博物館にエルギン・マーブルを売却したのは、単に破産を免れようとしただけで、エルギン・マーブルを後世に残すための行為という主張は後から考えられた都合のいい神話です」と指摘しています。
また、ダンゴール氏によると、ギリシャ政府はエルギン・マーブルの返還の見返りとして大英博物館に対し、さまざまな展示物の貸出を行う予定とのこと。さらにダンゴール氏は「大英博物館は、まずオリジナルのエルギン・マーブルをアクロポリス博物館に返還し、その後現代のテクノロジーを用いてエルギン・マーブルのレプリカを作るべきではないでしょうか」と提案しています。

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これらの議論に対してオースティン氏は「アクロポリス博物館はギリシャ芸術の発展を紹介しており、大英博物館は世界文化を紹介しています。大英博物館で人気のあるエルギン・マーブルのコーナーを破壊したところで、ギリシャとイギリスにとって互いに得は生まれません。ギリシャは他の古代遺跡の保存にもっと注力すべきで、エルギン・マーブルの返還に膨大な予算を費やすべきではありません」と批判しています。
一方でダンゴール氏は「『エルギン・マーブルは大英博物館に残すべき』と主張する人々は、トマス・ブルースの行動が合法という意見だけでなく、『芸術を保護する高貴なものだった』という感情論に基づいています」と指摘しています。また「アクロポリス博物館は、収蔵された作品を安全かつ適切に保存しています。エルギン・マーブルを返還することで、大英博物館に新たな展示スペースが生み出されるだけでなく、イギリスの道徳的なイメージと国際的な地位を高める後押しができるはずです」と述べています。

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