サウジアラビアの石油マネーが「eスポーツ」を狙う理由とそのリスクとは?

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2023年時点で1870億ドル(約27兆5000億円)規模にまで成長したといわれる世界的産業「ゲーム」にサウジアラビアが参入し始めていることが伝えられています。企業買収、投資を繰り返し、ゆくゆくはムハンマド・ビン・サルマン皇太子を全世界で最も強力な「公認ゲーマー」にするとまでささやかれているサウジアラビアの現状について、ニュースメディア・The Vergeのルイス・ゴードン記者が解説しています。
Saudi Arabia’s plan to become the crown prince of gaming - The Verge
https://www.theverge.com/2023/12/1/23948992/saudi-arabia-gaming-investment
サウジアラビアは以前からサッカーやプロレス、ゴルフ業界を支援していて、特にサッカーでは有名選手を何人もサウジアラビアのプロチームへ勧誘したとのニュースが盛んに報じられました。サウジアラビアの金銭的支援はスポーツに限ったことではなく、近年では映画やゲームといった文化・芸術に手を広げているとのこと。
中でもサウジアラビアのeスポーツ企業・Savvy Games Groupはモバイルゲーム開発会社のScopelyを49億ドル(約7200億円)で買収し、さらにeスポーツ組織のESLとFaceitを15億ドル(約2200億円)で買収するなど勢力を広げています。

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こうした動きの背景には、サウジアラビアの年間GDPの40〜50%を占める石油への依存に対する危機意識があります。そのためにeスポーツ、ひいてはゲーム業界を手中に収めるような産業の多角化を図る必要があるとの見解もあります。
Savvy Games Groupのブライアン・ウォードCEOによると、サウジアラビアはゲームの「強国」になることを目指しており、国をゲーム開発とeスポーツの中心地に変貌させ、その過程でおそらくムハンマド・ビン・サルマン皇太子を全世界で最も強力な公認の「ゲーマー」にするつもりだとのこと。
この投資はサウジアラビアが進める経済の多様化・社会の変革計画の一環であり、化石燃料からの脱却が急速に進む世界において王国の経済を維持しつつ、国内に富をもたらすという努力が見られるといいます。とりわけ、こうした投資に熱心なのがサルマン皇太子だそうです。

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しかし、ゴードン記者に言わせれば、eスポーツへの投資は「リスクの高い賭け」だとのこと。なぜなら、eスポーツは年々人気が高まっているものの収益性に乏しく、スポーツのような安定した市場を生み出せていないからです。
一方でeスポーツを推し進める側は資金不足にあえいでいるため、多額の投資を断る道理はありません。純粋な投資であれば良いのですが、ゴードン記者はTwitterとYouTubeでの政治活動を基にサウジアラビア政府が男性に死刑判決を下した事例、ジャーナリストのジャマル・カショギ殺害にサウジアラビアが関与したとされる事例などを踏まえ、懸念すべき国家が資金力で勢力を拡大しているという点を危惧しています。
ゴードン記者は「サウジアラビアの産業多角化は主に権力のためです。国内での権力の維持、国外での権力の拡大、そしてすでに際限のない富を持つ王朝のさらなる富裕化が、この背景にあるのです」と指摘しました。

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