新型コロナのワクチンに用いられる「mRNA」とは何なのか、何ができて何ができないのか?

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新型コロナの予防効果が期待されるワクチンは、ウイルスが伝達する遺伝情報を利用した「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」と呼ばれています。この「mRNA」というのは一体どういうもので、どのような用途に適していて何が得意ではないのかなどについて、複数の製薬会社で創薬プロジェクトに携わったデレク・ロウ氏が解説しています。
What mRNA is Good For, And What It Maybe Isn’t | In the Pipeline
https://blogs.sciencemag.org/pipeline/archives/2021/06/29/what-mrna-is-good-for-and-what-it-maybe-isnt
厚生労働省によると、mRNAワクチンとは、ウイルスのタンパク質をつくるもとになる情報の一部を注射することで、そのタンパク質に対する抗体を作り、ウイルスに対する免疫ができるというもの。不活性化ワクチンや生ワクチンと呼ばれるものと比べて、遺伝情報を得られれば製造可能なmRNAはウイルスの詳細な研究を必要としないため、長い研究期間を要せずスピーディーに開発できたり、遺伝情報のみで培養や無毒化など複雑な工程を省けたりする点に優れているとされます。アメリカの製薬大手ファイザーやモデルナの新型コロナウイルスワクチンは、このmRNAを用いたワクチンです。

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ロウ氏によると、モデルナはもともとワクチンの開発会社だったわけではなく、mRNAを治療用に用いていたそうです。mRNAのワクチンとしての使用と治療用の使用ではいくつかの重要な差異があり、治療では予防としての免疫獲得ではなく特定のタンパク質を特定の細胞に伝えるため、多くの用途を考えられると同時に実現には多くの困難が伴います。
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治療用mRNAの問題点の一つは、免疫システムがもたらす記憶を利用する形と異なるため、免疫のように短期間のワクチン接種で数カ月から数年の保護期間を可能にすることは難しいという点にあります。そのため、標的となる細胞に目的のタンパク質を供給し続けるためには、mRNAを一日一回や週に一度など投与し続ける必要があり、どのくらいの頻度が適切か知るために実験が必要になります。
二つ目の問題点は、「免疫駆動ではない」部分にあるとロウ氏は言います。mRNAで細胞を治療しようとする試みは、免疫応答によるものではない仕組みを利用しようと考えられていました。しかし、外来のmRNAは免疫反応を強く引き起こすため、短期的な自然免疫システムに引っかからずに長期的な適応免疫を発生させる、というシークエンスを注意深く慎重に設計する必要があります。外部からmRNAによるタンパク質を摂取することは、想定外の免疫応答を引き起こす可能性があり、アレルギー症状や心筋炎、アナフィキラシーにつながることも想定されます。「mRNA技術は有効性への魔法の道ではありません」とロウ氏は述べています。
mRNAを治療に利用することに関してロウ氏が「最も重大で包括的な問題点」として上げているのは、特定のタンパク質を発現させることで治療できる病気は何か特定する必要があるという点です。特定が可能なものも多くありますが、手がかりが全くない病気も数多くあるとのこと。遺伝病に関しては、能力の低いタンパク質の代わりに適切なタンパク質を生成させることで症状を軽減できるため、遺伝的アプローチには大きな利点があると考えられます。しかし、必要なタンパク質や細胞の機能についての治療法としての使用はまだ実行可能なものがほとんどないとロウ氏は述べています。
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ワクチンとしてのmRNAの利用では、短い一連の注射によって、免疫系の記憶機能が持続的で耐久性のある免疫保護を生み出すことを目的としています。免疫応答がうまくいかないケースや、免疫化のための効果的な抗原を見つけるのが難しいケースもあるものの、全体としては「最も堅実な賭け」であると述べられています。

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病原体のどこをターゲットにするかというマーカーを発見すること、そのための研究として優れた抗原候補を見つけること、また理論上ではなく現実の世界において候補者をどのように選出するかということ、これらの問題は間違えると壊滅的な結果に直結する恐れがあるため、かなり難しい研究になります。mRNAによる治療の場合も、免疫応答によるワクチンの場合も、大規模な臨床試験を行うことがかなわず、開発が困難になっているそうです。
mRNAに基づいた技術は多くの力と可能性を含んでいます。その中でも感染症のワクチンは達成まで近い位置にある研究だとロウ氏は述べています。今後、いくつもの困難を克服してある程度の時間を要することにはなりますが、がんのワクチン分野など広い範囲でもmRNA技術が活躍して発展することが期待されています。
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