「武居由樹vs.那須川天心」元キックボクシング王者対決は実現するのか? その可能性を探る─。

いまプロボクシング世界バンタム級戦線が凄まじいことになっている。5月6日、東京ドーム決戦のセミファイナルで武居由樹(大橋/27歳)がジェーソン・モロニー(豪州/33歳)を破りWBO世界バンタム級王座を奪取。これにより4団体(WBA、WBC、IBF、WBO)すべてのチャンピオンベルトを日本人ファイターが独占したのだ。

今後、4人の日本人世界チャンピオンの間で王座統一戦は行われるのか? そしてファン待望の元キックボクシング王者対決「武居由樹vs.那須川天心」は実現するのか? 日本のファンを熱くするバンタム級戦線の今後を占う─。
○■日本人同士の王座統一戦はあるか

「何とかギリギリ勝つことができました。いまはホッとしています。でも、すぐ気持ちを切り替えて次に向けて頑張りたい。今日の試合内容ではまだまだなので、必ず強くなって戻ってきます」

インタビュースペースで武居由樹は、喜びを爆発させることなく静かにそう話した。
5月6日、東京ドーム『Prime Video Presents Live Boxing 8』のセミファイナルでWBO世界バンタム級王座を獲得した直後のことだ。

決してカッコよくはないタイトル奪取劇だった。
最終の12ラウンドはモロニーに一方的に攻め込まれた。レフェリーに試合を止められても不思議ではない状態で試合終了のゴングを聞く。
それでも前半のラウンドでポイントを得ていたことが功を奏し3-0(117-110、2者が116-111)で武居の判定勝ち。デビューから9戦目での戴冠、JBC(日本ボクシングコミッション)公認の日本ジム所属100人目の世界チャンピオンとなった。

井上尚弥が4団体の世界バンタム級王座を返上したのは昨年1月のこと。それから1年4カ月が経ち、世界バンタム級戦線は驚くべき状況になった。4団体のベルトを日本人選手が独占しているのだ。

〈WBA王者〉井上拓真(大橋/28歳)2023年4月獲得。
〈WBC王者〉中谷潤人(M.T/26歳)2024年2月獲得。
〈IBF王者〉西田凌佑(六島/27歳)2024年5月獲得。
〈WBO王者〉武居由樹(大橋/27歳)2024年5月獲得。

井上は、5・6東京ドームのリングで石田匠(井岡/32歳)を判定で下し2度目の王座防衛に成功した。中谷はフライ、スーパーフライと合わせ3階級制覇王者。西田は東京ドーム決戦の2日前にエマニュエル・ロドリゲス(プエルトリコ/31歳)に判定勝利しベルトを腰に巻いた。

こうなるとに日本人選手同士の王座統一戦が見たくなる。
4人でトーナメント戦を行い「4団体統一王者」を決められれば面白いが、なかなかそうはいかないようだ。
それぞれの王座認定団体が指名試合を設定するうえ、各陣営の思惑もある。
それでも今後、バンタム級はさらに活気づく。タイトル戦線にひとりの人気ファイターが絡むことになるからだ。

○■早ければ12月に「夢の対決」実現

人気ファイターとは、知名度抜群の元キックボクシング王者・那須川天心(帝拳/25歳)。
47勝無敗のキックボクシング&総合格闘技戦績を引っ提げ、昨年4月に戦場をボクシングのリングに移した彼は、これまで3戦全勝、すでに世界ランキング(WBA7位、WBO10位)に名を連ねている。

5月6日、東京ドームに姿を現した那須川は、観戦後にこう話した。
「(日本人の世界バンタム級王座独占は)素直に嬉しい。狙いやすい。それに日本人対決でボクシング界がもっと盛り上がる」

那須川が世界王座に挑戦する場合、ファンがもっとも望むのはやはり元キックボクシング王者対決だろう。
「武居由樹vs.那須川天心」。
那須川はRISE、武居はK-1のチャンピオンだった。そんな二人の対峙…これほど観る者が感情移入できるマッチメイクはない。

「天心の世界挑戦はまだ早い」
そんな声もある。日本、もしくはOPBF(東洋太平洋)、WBOアジアパシフィック王座を獲得してから世界に挑むべきとの見方だ。
正論に聞こえるが、実はそういうものでもない。
プロボクシングは競技であると同時に興行だ。それに那須川はすでに挑戦資格を持つ世界ランカー、時期尚早でもないだろう。
こんな「ドル箱カード」をプロモーターが実現させぬはずはない。帝拳、大橋両陣営も必ず実現に向けて動き出す。

ただ、すぐにとはいかないだろう。
武居の次戦は、IBFの指名試合となる。那須川のデビュー4戦目もすでに内定しており近日中に発表予定だ。
おそらくは9月になるであろう王座初防衛戦で武居がWBO世界バンタム級のベルトを守り、別のイベントで那須川が 連勝を伸ばしたならば、一気に両雄の対決気運が高まる。

早ければ今年の12月、遅くとも来年には「武居由樹vs.那須川天心」が実現すると見る。ここで武居が勝てばドラマは完結。だが、那須川が勝利したなら次は階級を一つ挙げて井上尚弥(大橋/31歳)戦へと向かうことになる。
その時は、今世紀2度目の「東京ドーム決戦」か─。

▼武居由樹、井上尚弥との“過酷なスパー”では「人生で一番ボコボコにされました」ベルト獲得への修行を明かす『Prime Video Presents Live Boxing 8』一夜明け会見

文/近藤隆夫

近藤隆夫 こんどうたかお 1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等でコメンテイターとしても活躍中。『プロレスが死んだ日。~ヒクソン・グレイシーvs.高田延彦20年目の真実~』(集英社インターナショナル)『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文藝春秋)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。
『伝説のオリンピックランナー〝いだてん〟金栗四三』(汐文社)
『プロレスが死んだ日 ヒクソン・グレイシーVS髙田延彦 20年目の真実』(集英社インターナショナル) この著者の記事一覧はこちら

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