井上尚弥vs.ルイス・ネリは、こうなる!『5・6東京ドーム決戦』

挑戦者のルイス・ネリ(メキシコ)が来日、いよいよ決戦ムードが高まってきた。5月6日、東京ドーム『Prime Video Presents Live Boxing 8』のメインエベントで4団体統一世界スーパーバンタム級王者・井上尚弥(大橋)の初防衛戦が行われる。

大方の予想は「井上優位」だが果たしてどうなる?「イノウエの弱点を見抜いた」と話すネリのファイトプランとは? 〈「井上尚弥はM・ジョーダンのような特別な存在ではない! 俺はヤツの弱点を見つけた」“悪童”ネリに秘策はあるのか?『5・6東京ドーム』から続く〉
○■井上尚弥の驚異の戦績

「井上尚弥、圧倒的優位」の声が大きい。
それは米国のスポーツブックの掛け率にも表れている。
「10-1」「12-1」といったオッズが並んでいるのだ。フェイバリットはもちろん井上。
これまでのモンスターの闘いを考えれば、当然の見方だろう。

試合を予想するにあたって、まずは両選手の過去5戦を振り返ってみたい。
26勝(23KO)無敗の絶対王者、井上の直近の試合は次の通り。

○vs.マーロン・タパレス(フィリピン)10ラウンドKO〈2023年12月26日、東京・有明アリーナ〉
○vs.スティーブン・フルトン(米国)8ラウンドTKO〈2023年7月25日、東京・有明アリーナ〉
○vs.ポール・バトラー(英国)11ラウンドKO〈2022年12月13日、東京・有明アリーナ〉
○vs.ノニト・ドネア(フィリピン)2ラウンドTKO〈2022年6月7日、さいたまスーパーアリーナ〉
○vs.アラン・ディパネン(タイ)8ラウンドTKO〈2021年12月14日、東京・両国国技館〉

ドネアとの再戦でバンタム級における3つ目のベルトを奪い、バトラーに勝利し同級4団体王座統一。スーパーバンタム級転向後もフルトン、タパレスにKO圧勝、僅か2戦で「2階級4団体世界王座統一」を成し遂げた。
世界の強豪を相手に危なげなく闘い、KOの山を築いている。改めて言うまでもないが、これは驚異の戦績である。

○■井上より明らかに劣るネリの近況

35勝(27KO)1敗の戦績を誇り、バンタム、スーパーバンタムの2階級を制覇しているネリの直近5試合も見てみよう。

○vs.フローイラン・サンダール(フィリピン)2ラウンドTKO〈2023年7月8日、メキシコ・メテペック〉
○vs.アザト・ホバニシャン(アルメニア)11ラウンドTKO〈2023年2月18日、米国・ポモナ〉
○vs.デビッド・カルモナ(メキシコ)3ラウンドKO〈2022年10月1日、メキシコ・ティファナ〉
○vs.カルロス・カストロ(米国)10ラウンド判定〈2022年2月5日、米国・ラスベガス〉
●vs.ブランドン・フィゲロア(米国)7ラウンドKO〈2021年5月15日、米国・カーソン〉

3年前にネリは初黒星を喫した。フィゲロアとのWBA、WBC世界スーパーバンタム級王座統一戦でボディブローを喰らいマットに沈んだ。屈辱的な敗北。だが、再起後は4連勝と復活を遂げている。ただ、いずれも世界戦ではなく井上と比すればレベルの低い相手との闘い、さらに試合間隔も開いておりマッチメイクに恵まれなかった観もある。

井上とネリの過去の試合映像を何度も見返した。
現時点において両者の間には、やはり実力差がある。
スピード、テクニック、パワー、タクティクス。そのすべてにおいて井上が上回っていると感じる。ネリには爆発力があるが、接近戦でのパンチの精度はモンスターに劣る。

○■ネリの「秘策」とは

ただ、気になることが一つある。
「イノウエのウィークポイントを見つけた」
4月23日、帝拳ジムで公開練習を行った際にネリはそう口にした。
多分、これはフェイクだろう。井上に決定的な弱点があるとは思えない。
気になったのは、その言葉ではなくネリの妙な落ち着きである。おそらく彼は試合でやるべきことをすでに決めていると私は感じた。

ネリはクレバーな男だ。総合力で自分がボクサーとして井上よりも劣っていることを良く理解している。だから真正直に闘おうとはしないだろう。
実力差があっても、時に闘い方次第で勝敗がひっくり返ることもある。そこにネリは、すべてをかけるつもりだ。
彼は言った。
「私は、これまでにイノウエと闘ってきたボクサーたちとは違う。多額なファイトマネーと引き換えにベルトを置いていった奴らとはね」
さらに、こうも口にしている。
「この試合は必ずKO決着になる。私が勝っても、イノウエが勝とうとも」

ネリは決めている。
1ラウンドに勝負をかけることを。
井上にリズムを掴まれた後に勝機はない。ならば、その前に一撃を喰らわせるしかないとの考えだ。おそらく彼は、最終ラウンドまで闘うスタミナを度外視して序盤から猛ラッシュをかける。
ここで、つまりは井上が距離感を掴みペースを刻む前にネリが一撃を見舞うことに成功したならば、戦況は一変しよう。そんな千載一遇のチャンスに賭ける策だ。

井上優位は変わらない。
しかし、もしネリの策が嵌ったならば、34年の刻を経て東京ドームでスーパーアップセット(大番狂わせ)が起こるかもしれない。
開始ゴング直後のファーストコンタクトに注目だ。

なお今回もテレビでの生中継はなく、試合の模様は「Prime Video」で生配信される。

▼ネリ、井上尚弥が“タパレスと10Rまで闘った事”を引き合いに「過大評価されている」と主張 弱点やミスについても言及『Prime Video Presents Live Boxing 8』公開練習

文/近藤隆夫

近藤隆夫 こんどうたかお 1967年1月26日、三重県松阪市出身。上智大学文学部在学中から専門誌の記者となる。タイ・インド他アジア諸国を1年余り放浪した後に格闘技専門誌をはじめスポーツ誌の編集長を歴任。91年から2年間、米国で生活。帰国後にスポーツジャーナリストとして独立。格闘技をはじめ野球、バスケットボール、自転車競技等々、幅広いフィールドで精力的に取材・執筆活動を展開する。テレビ、ラジオ等でコメンテイターとしても活躍中。『プロレスが死んだ日。~ヒクソン・グレイシーvs.高田延彦20年目の真実~』(集英社インターナショナル)『グレイシー一族の真実 ~すべては敬愛するエリオのために~』(文藝春秋)『情熱のサイドスロー ~小林繁物語~』(竹書房)『ジャッキー・ロビンソン ~人種差別をのりこえたメジャーリーガー~』『柔道の父、体育の父 嘉納治五郎』(ともに汐文社)ほか著書多数。
『伝説のオリンピックランナー〝いだてん〟金栗四三』(汐文社)
『プロレスが死んだ日 ヒクソン・グレイシーVS髙田延彦 20年目の真実』(集英社インターナショナル) この著者の記事一覧はこちら

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