新社会人向け「有料着席サービス」入門 - 朝の「湘南4号」にも乗車

●関東・関西などJR・私鉄各社「有料着席サービス」導入例
4月に入り、2024年度が始まった。各企業で入社式が行われ、新社会人なら新たな日常生活が幕を開ける頃だろう。勤務先や就業時間にもよるが、今後、つねに混み合っている通勤電車に身を投じていくことにもなる。できることなら混雑を避け、着席して快適に通勤時間帯を過ごしたい思う人もいるのではないだろうか。

関東エリアにおいて、JR東日本は普通列車グリーン車を各方面へ多数運行しており、将来的に中央快速線・青梅線にもグリーン車が導入される。加えて、通勤時間帯に全車指定席の特急列車も運行している。大手私鉄各社も近年、有料座席指定列車の導入が進んだ。関西エリアでも、京阪電気鉄道の「プレミアムカー」が普及し、JR西日本も通勤時間帯を中心に全車指定席の特急列車や新快速「Aシート」などを運行。今夏、阪急京都線にも「PRiVACE(プライベース)」が導入される。

そこで、各地で運行される「有料着席サービス」の導入例を紹介するとともに、JR東日本が東海道線で運行している特急「湘南」に乗車。利用状況や車内での過ごし方などについて探った。
○JR各社で運行している「有料着席サービス」導入例は

「有料着席サービス」を提供する列車のうち、全車指定席の列車は通常のきっぷに特急券・指定券等を追加することで、指定した座席に必ず座れる。通勤時間帯、他の車両が混雑していても、指定席なら高確率で混雑を避けて移動できる。特急券・指定券等は各駅の券売機で購入できるが、「えきねっと」や「J-WEST」といった各社のチケットレスサービスを利用することもできる。

現在、JR東日本の関東エリアにおいて、東京駅または新宿駅から運転される在来線特急列車は基本的に全車指定席となっている。車両は普通車とグリーン車の2種類あり、距離ごとに料金を挙げると以下のようになる。

営業キロ50kmまで : 普通車760円・グリーン車1,530円
営業キロ100kmまで : 普通車1,020円・グリーン車1,790円
営業キロ150kmまで : 普通車1,580円・グリーン車3,850円
営業キロ200kmまで : 普通車2,240円・グリーン車4,510円
営業キロ300kmまで : 普通車2,550円・グリーン車6,210円
営業キロ400kmまで : 普通車2,900円・グリーン車6,560円

「えきねっとチケットレスサービス」で特急券を購入すると、これらの料金から100円値引きされる。一方、事前に特急券・指定券等を購入せず、車内で精算する場合(普通車のみ可能)は260円加算される。大船駅、横浜駅、新宿駅から成田空港方面へ向かう特急「成田エクスプレス」も、今年3月のダイヤ改正で特急料金が改定され、成田空港駅および空港第2ビル駅を利用しない場合は上記の特急料金が適用されるようになった。

指定席ではないが、東海道線・宇都宮線・高崎線と常磐線、横須賀線・総武快速線の快速・普通列車は2階建てグリーン車を2両連結している。ダイヤ改正を実施した3月16日以降、普通列車グリーン車の料金が改定された。通常料金(紙のきっぷ)とSuicaグリーン料金で分けられ、通常料金は50kmまで1,010円、100kmまで1,260円、101km以上で1,810円、Suicaグリーン料金は50kmまで750円、100kmまで1,000円、101km以上で1,550円に。総じてSuicaグリーン料金のほうが、紙のグリーン券よりも260円安い。

もっとも、普通列車グリーン車は自由席に区分されるため、グリーン料金を払っても座席の指定はできない。他の一般車両(普通車)より混雑を避けられる可能性はあるものの、着席が確約されるわけではないため、初めて乗る際は注意してほしい。

JR西日本は関西エリアにおいて、平日の通勤時間帯に大阪・京都方面へ運行される通勤特急を「らくラク」シリーズに統一した。3月16日のダイヤ改正で列車の新設や名称変更などが行われ、現在は3つの列車が運行されている。

「らくラクびわこ」 : 平日の朝に米原駅から京都・大阪方面、夜間に大阪駅から草津・米原方面の列車を運行
「らくラクはりま」 : 平日の朝に網干駅から大阪・京都方面、夜間に京都駅から姫路・網干方面の列車を運行
「らくラクやまと」 : 平日の朝に奈良駅から天王寺・新大阪方面、夜間に新大阪駅および天王寺駅から奈良方面の列車を運行

「らくラクやまと」はダイヤ改正で新設され、「らくラクびわこ」は改正前の「びわこエクスプレス」から名称を変更。「らくラクはりま」は運行区間を拡大した。いずれも特急形電車を使用し、全車指定席で運行されるため、より快適な列車通勤を見込める。大阪・京都方面まで乗り通すと、どの列車も指定席特急券が1,290~1,730円程度かかるが、「J-WESTチケットレスサービス」の利用で600~850円程度と大幅に安くなる。

琵琶湖線・JR京都線・JR神戸線(東海道・山陽本線)では、新快速の一部列車に有料座席指定サービスの新快速「Aシート」を連結しており、座席指定料金は840円(チケットレス600円)。大和路線(関西本線)・おおさか東線でも、平日朝などに快速運転を行う一部列車で快速「うれしート」を導入し、座席指定料金530円(チケットレス300円)で着席が保証される。これらのサービスも、大阪方面の通勤を快適にする強い味方となるかもしれない。

JR東日本・JR西日本ほどではないが、JR東海も静岡地区と名古屋地区で平日の朝と夕夜間に「ホームライナー」を運行している。静岡エリアの列車は373系を使用。名古屋地区の列車は「ホームライナー瑞浪」に383系、「ホームライナー大垣」に681系を充当している。いずれも特急形電車で、乗車する場合は乗車整理券330円が必要だが、通常の特急列車より安く乗車できるため、有料列車の中でも利用しやすいといえる。その他、名古屋駅発着で伊勢市・鳥羽方面(伊勢鉄道経由)へ運行される快速「みえ」も指定席を設定しており、指定席券530円(閑散期は330円)で確実に着席できる。

JR北海道は朝の時間帯、手稲~札幌間で特急形気動車を用いた「ホームライナー」を運行。小樽~新千歳空港間でほぼ終日にわたり運行される「エアポート」も、指定席「uシート」を導入しており、利用料金は840円(乗車券が別途必要)。「エアポート」はおもに新千歳空港駅から札幌・小樽方面のビジネス・観光輸送を担う列車だが、通勤時間帯に席を確保できれば、テーブル付き(最前部除く)のリクライニングシートに座って快適に通勤できるだろう。
○大手私鉄各社の有料座席指定サービスもバラエティ豊か

関東・関西エリア等の大手私鉄も、平日朝・夕夜間を中心に、各社でさまざまなタイプの有料座席指定列車を運行している。最初に関東エリアで通勤時間帯に走る有料特急列車を紹介。東武鉄道、京成電鉄、小田急電鉄が特急用車両を使用した列車を走らせている。

東武鉄道「スカイツリーライナー」(浅草~春日部間) : 特急車両500系「リバティ」を使用
京成電鉄「モーニングライナー」「イブニングライナー」(京成上野~京成成田・成田空港間) : 「スカイライナー」車両AE形で運転
小田急電鉄「モーニングウェイ」「ホームウェイ」(新宿~箱根湯本・片瀬江ノ島間) : GSE、MSE、EXEαなど特急ロマンスカー車両で運転
小田急電鉄「メトロモーニングウェイ」「メトロホームウェイ」(北千住・大手町~本厚木間) : 特急ロマンスカー車両MSEで運転

どの列車も座って通勤したいとき、特急用車両の設備が心強い味方になるだろう。これとは別に、一般車両を通勤時間帯に有料列車として走らせる例もある。その先駆けといえば、京急電鉄の「ウィング号」。片側2ドアでクロスシートを備えた2100形をおもに使用し、現在は平日朝に品川方面へ「モーニング・ウィング」、平日夕夜間に品川駅から「イブニング・ウィング」を運行している。

2021年以降、ロングシート・クロスシート転換車両の1000形1890番代「Le Ciel」も使用されるようになった。「Le Ciel」は多機能性に優れる車両といえるが、筆者の体感だと、座席の座り心地自体は2100形が勝っていると感じる。

ロングシート・クロスシート転換車両は近年、関東エリアで急速に増え、大手私鉄各社で座席指定列車・座席指定車両として使用されるようになった。おもに以下の列車が挙げられる。

東武鉄道「TJライナー」(池袋~森林公園・小川町間)
東武鉄道「THライナー」(恵比寿・霞ケ関~久喜間)
西武鉄道「S-TRAIN」(所沢~豊洲間など)
西武鉄道「拝島ライナー」(西武新宿~拝島間)
京王電鉄「京王ライナー」(新宿~京王八王子・橋本間)
東急電鉄「Q SEAT」(大井町~長津田間、渋谷~元町・中華街間)

「THライナー」は東武鉄道の車両を使用して東武スカイツリーラインから東京メトロ日比谷線へ、「S-TRAIN」は西武鉄道の車両を使用して西武池袋線から東京メトロ有楽町線などへ直通する。東武東上線の「TJライナー」、京王線の「京王ライナー」は本数が多く設定され、とくに帰宅時間は利用しやすい。東急電鉄の「Q SEAT」は平日夕夜間のみ設定され、他の路線と比べて乗車時間も短いが、確実に混む東急線内で、混雑を避けて帰路につける。「Q SEAT」を除き、いずれも朝は都心方面へ、夕夜間は都心から各自社線エリアへ運行している。

関西エリアにおいて、近鉄(近畿日本鉄道)は名阪特急「ひのとり」をはじめ、多くの路線で有料特急列車を走らせている。ビジネス・観光利用だけでなく、朝夕の通勤においても利用価値が高い。南海電鉄も南海線の「ラピート」「サザン」、高野線の「こうや」「りんかん」といった有料特急列車を運行。泉北高速鉄道へ直通する「泉北ライナー」もあり、特急料金は一律520円(乗車券が別途必要)。泉北ニュータウンから大阪方面への通勤に便利な列車として活躍している。

近年、関西エリアで「有料着席サービス」を普及させた立役者といえば、京阪電気鉄道の「プレミアムカー」だろう。現在、特急と快速急行に使用される8000系・3000系の6号車に連結され、通常の乗車券とは別に、乗車区間に応じた「プレミアムカー券」が必要で、料金は400~500円。「プレミアムカー」の座席は横3列(1列+2列)のリクライニングシートで、これまで以上の快適さで移動できるようになった。同社は平日の通勤時間帯に全車指定席の「ライナー」も運行。乗車の際に必要な「ライナー券」の料金は300~380円(乗車券が別途必要)となっている。

同じく京阪間を結ぶ阪急京都線でも、2024年7月から有料座席指定サービス「PRiVACE(プライベース)」が導入される。特急・通勤特急・準特急の大阪方から4両目に専用車両を連結し、横3列(1列+2列)のリクライニングシートでくつろぎつつ、無料Wi-Fiサービスや電源コンセントなども利用可能に。2列配置の隣の席はパーテーションで仕切られる。座席指定料金は500円とのこと。どのくらいの利用率になるか不明だが、阪急京都線のユーザーも着席が保証されたサービスを受けられるようになる。

その他、愛知県や岐阜県で路線網を張り巡らせる名鉄(名古屋鉄道)も、終日運行している特急・快速特急の一部車両を特別車としたほか、全車特別車の「ミュースカイ」を中部国際空港方面へ運行している。特別車を利用する際、1回450円の「ミューチケット」が必要。ただし、平日の9時から16時59分までと、土休日に運転される列車の「ミューチケット」はネット予約で300円(中部国際空港駅利用時を除く)となる。特急や快速特急の一般車は多くの乗客で混雑するため、座って快適に移動するなら特別車に頼ったほうが良いかもしれない。

全国のJRグループ・私鉄各社で終日運行している有料特急列車等も、朝夕は実質的に通勤で利用できるだろう。どの列車も自動券売機で特急券・指定券を購入できるほか、特急停車駅のホーム上に改札機が設置されている場合もある。券売機が対応していない場合は、駅窓口を訪ねてみてほしい。

●朝の上り「湘南4号」に乗車、鉄道ファン目線の楽しみも
ここからは、通勤時間帯に運行される「有料着席サービス」の一例として、東海道線を走る特急「湘南」についてレポートしたい。同列車は2021年3月、「湘南ライナー」を格上げする形で、特急列車として運行開始した。朝は小田原駅・平塚駅から東京駅または新宿駅へ、夕夜間は東京駅または新宿駅から平塚・小田原方面へ運行されている。途中の茅ケ崎駅と藤沢駅に全列車が停車。それ以外の停車駅は列車によってさまざまだが、どの列車も戸塚駅や主要駅の横浜駅、川崎駅を通過しており、都内の品川駅または大崎駅まで停車しない。

特急「湘南」を含め、JR線の指定席特急券は各駅に設置された指定席券売機から購入できる。利用する方面と乗車駅・降車駅、何時台の列車に乗るかを決めていくと、その時刻から近い順に発車する列車と、普通車またはグリーン車のボタンが表示される。乗る列車と席種を決めた後、着席する座席も選べる。最後に、乗車区間の乗車券も一緒に買うか、特急券のみ購入するかを選び、その金額を精算すれば特急券が発券される。乗車日より前でも特急券は買えるので、慣れないうちは前日までに購入しておいたほうが焦らずに済むだろう。

今回、筆者は上り「湘南4号」(小田原駅6時20分発、東京行)に平塚駅から乗車した。前日に乗車券・特急券を購入したが、発券した時点でどの号車も窓側を中心に半分以上の座席が埋まっていた。空席が少なくなる中、筆者は8号車の窓側の席を確保した。

乗車当日、上り「湘南4号」は6時37分に平塚駅へ到着。定刻通り6時40分に発車した。この時点で、8号車の車内に乗客はほとんどいなかったが、これから先、次第に乗客が増えていくと思われる。その証拠に、座席上のランプに注目すると、多くが黄色に点灯していた。

関東エリアを走るJR東日本の特急列車は、各座席の上にランプを備え、空席のままだと赤色、予約された区間が近づくと黄色、利用中は緑色に変わる。実際、平塚駅を発車した「湘南4号」が茅ケ崎駅、辻堂駅、藤沢駅、大船駅と停車するにつれて、8号車にも多くの人が乗ってきた。大船駅を7時0分に発車すると、以降は品川駅までドアが開かなくなる。

東海道線の特急「湘南」「踊り子」はE257系2000番代(9両編成)・2500番代(5両編成)を使用。過去に中央本線の特急「あずさ」「かいじ」や房総方面の特急列車で活躍したE257系が転用され、車内外をリニューアルした。座席は青緑色のモケットが特徴的で、背もたれのリクライニングと、座面のスライドが可能。背面テーブル、ドリンクホルダー、ポケットやフックも使用できる。ただし、改造車両であるためか、電源コンセントは窓側のみ設置されていた。

他の乗客の様子を見てみると、スマートフォンを見ながら時間を潰す人が多い中、朝食や仮眠の時間に充てる人もいたようだった。朝食のおにぎりやバッグなどを置くため、背面テーブルも活用していた様子。平日朝の普通列車は6時台からでも座れなくなる可能性が高い。そう考えると、追加料金が必要とはいえ、混み合う時間帯に座って移動できることの恩恵は大きいだろう。
○特急列車同士で抜きつ抜かれつ、「湘南4号」は東京駅へ

ところで、「湘南4号」は鉄道ファン目線でも面白い場面が見られる。同列車が東海道線の辻堂駅から藤沢駅へ走っている途中、なんと後から発車した「湘南22号」(小田原駅6時30分発、新宿行)に抜かれた。「湘南22号」は小田原駅を発車後、東海道貨物線を走行し、茅ケ崎駅と藤沢駅のみ停車する。都内に入ると大崎駅と渋谷駅に停車し、終点の新宿駅には7時44分着となっている。

茅ケ崎駅と藤沢駅は東海道貨物線上にも「湘南」専用ホームがあり、そちらにも多くの人が並んでいた。なお、朝の上りは「湘南22号」から「湘南26号」までの3本が新宿行として運転される。

「湘南22号」に抜き去られた「湘南4号」はその後、大船駅に停車。同駅を7時0分に発車するのだが、進行方向右手に注目すると、横須賀線を走行する「成田エクスプレス7号」が「湘南4号」と同時刻に大船駅を発車する。そのため、少しの時間だが特急列車同士の並走も体験できた。

今回は「湘南4号」の走り出しが若干早かったようで、根岸線が磯子方面へ分かれるまでに「成田エクスプレス7号」を抜き去って行った。「成田エクスプレス7号」は「湘南4号」が通過する戸塚駅と横浜駅にも停車し、東京駅に7時48分、終点の成田空港駅には9時2分に到着する。

一方、「湘南4号」は「成田エクスプレス7号」を抜き去った後、東戸塚駅から保土ケ谷駅へ走行中に横須賀線の普通列車を追い抜き、横浜駅を通過する際、先行していた高崎行の普通列車も追い抜いた。横浜駅から先は京浜東北線と並走し、東海道線よりこまめに停車する列車を横目に、都内へ向けて快走する。「湘南4号」をはじめ、朝の通勤特急・ライナーは早い時間帯に運行するものも多いが、このような列車同士の離合を眺めることも、乗車中の楽しみになるかもしれない。

多摩川を渡って都内に入り、「湘南4号」は7時26分に品川駅到着。筆者の近くの席に座っていた乗客を中心に、8号車からも数人が降りて行った。終点の東京駅には、定刻通り7時35分に到着。駅周辺がオフィス街のため、東京駅で降りる人もいれば、別の路線に乗り換える人もいるだろう。乗換えの場合、ここから先は必ずしも「座って通勤」とはいかないが、都心までの乗車で混雑を避けられることは大きなメリットといえる。

今回は朝の時間帯に乗車したが、終業後の帰宅時間帯に特急列車や座席指定列車に乗るのも良い判断だろう。仕事で一日疲れた後、座って帰れる席が確約されているという安心感は大きい。ただし、着席保証の恩恵にあやかるには、各社規定の指定料金または特急料金が必要となる。まずは生活費に余裕があるときに一度試してみて、少しずつ「有料着席サービス」を使いこなしてほしい。

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