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ビジネス書に訊け! 第132回 「老後に対してかなりの不安がある」人は何をすべきか

悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、老後に対して不安がある人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「いずれやってくる老後に対してかなりの不安がある。年金だってどの程度もらえるのか、減額傾向にある今、不安しかない」(40歳男性/事務・企画・経営関連)

本当に偶然なのですけれど、ついさっきまでお会いしていた方と、図らずも今回のご相談と重なることを話題にしていたのでした。

僕より少し年下の、50代前半の営業マンです。コロナ禍の影響で仕事のスタイルが大きく変わり、会社の体制も激変。まだお子さんが小さいこともあり、会社組織のなかでどう生き抜いていくべきか、いろいろ不安が多いのだとか。

50代は定年までのカウントダウンの時期でもあるため、不安なお気持ちは理解できました。対する僕はフリーランスなので、気分的にはまだ楽なのかもしれません。でも、とはいえ同じように子どもは小さいし、住宅ローンもたっぷり残っているわけです。

「せめて子どもが18歳になるまでは働かないと」
「わかります。僕も娘が20歳になるまでは働かなきゃと思ってました」

なんだかうれしかったのは、そんな会話をした結果、「家族がいるからがんばれるんですよね」という共通項を見つけることができたことです。サラリーマンであれフリーランスであれ、40〜50代になれば将来のことについて不安を感じるのはむしろ当然。

だからこそ、ただ不安感にさいなまれるのではなく、目の前にある現実を受け入れることがまず大切なのではないでしょうか? そして「いまある自分」を再確認したうえで、「では、これからどうするべきか?」について冷静に考えてみることが重要だと思うのです。「不安感に押しつぶされたらどうにかなる」というものではないのですから。

ただしご相談にもあるように、近い将来必ず訪れるであろう「お金の問題」に備えておくことは大切かもしれませんね。そこで今回は、数ある老後の悩みのなかから、お金の問題について考えてみたいと思います。
○「老後貧乏」になる理由とその対策

「普通の夫婦」の多くは、まだどちらかが生きている年齢で老後資金が枯渇する可能性が大きいーー。平均的な会社員の年収などをもとに何度か老後資金をシミュレーションしてみた結果、『老後貧乏にならないためのお金の法則』(田村 正之 著、日本経済新聞出版社)の著者はそう感じたのだそうです。

では、なぜそうしたことが起きるのでしょうか?

「さらなる長寿化」×「年金の実質減額」×「インフレ」×「金利の抑圧」=老後貧乏
という怖い方程式が、かなりの確率で成立してしまいそうなのです。(「まえがき 老後貧乏にならないために」より)

しかし、ただ怖がっていても仕方がありません。しかも老後貧乏のリスクに早く気づけば気づくほど、対策もとりやすくなるもの。

具体的には、(1)リスクを抑えながらのインフレに負けない資産運用、(2)年金増額の工夫や妻の働きなどの収入増、(3)公的医療保険など社会保障制度の徹底活用、(4)保険や住宅ローンの見なおしなど支出の削減――といった対策を総合的に実施することを急ぐべきだというのです。

そこで本書では、それらを「どうすべきか」について解説しているわけです。しかも特徴的なのは、大学生の女の子と、彼女のサークルの先輩である大学の資産形成論の講師兼ファイナンシャルプランナーとの会話形式になっている点。そのため、なにかと難しくなりやすいお金の話も、無理なく身につけられるわけです。

「実は難しくない堅実な資産運用」「間違いだらけの外貨投資」「医療と保険の知られざるツボ」など、通うとことに手が届く話題が満載。老後貧乏にならないために、まずは目を通してみてはいかがでしょうか?
○定年前後に自分で決めなくてはならないことを知る

『知らないと大損する! 定年前後のお金の正解』(板倉 京 著、ダイヤモンド社)の著者は、税理士として相続や資産運用のアドバイスなどについて、50〜60代の定年世代と多く接しているという人物。自身も50代になり、同世代の友人や知人からも、定年後の仕事やお金についての相談を受けることが増えたそうです。

そんななかでよく聞くのは、もっと早くお金のことを勉強しておけばよかった」という声なのだとか。相談業務のなかにおいても、(サラリーマン・仕事人として優秀な人でも)「お金のことはよく知らない」人がとても多いと感じるそうなのです。

サラリーマンであれば、税金や社会保険などの手続きは会社がやってくれますから、当然といえば当然なのかもしれません。とはいえ会社を退職することになったときから、さまざまなことを自分で決めていくことになるのです。しかしまったく未知のことばかりですから、「どうすればいいのかわからない」と途方に暮れてしまう人も多いということ。

そこで本書では、定年前後に自分で決めなくてはならないことについて、「知っておくべきこと」「どうすればいいのかを決めるための判断ポイント」「金銭的な損得の目安」などをわかりやすく解説しているのです。

今回はそのなかから、退職金の手取りを最大化する方法のひとつをご紹介しましょう。退職金の手取りは、定年間際からでもちょっとした工夫で数十万〜数百万単位で変えることができるというのでで注目したいところ。

そのコツは、「税金を低く抑えること」。ポイントは、「もらい方」と「非課税枠のフル活用」だそうです。

退職金を一括で受け取った場合には、「退職所得控除」という大きな非課税枠が用意されています。この非課税枠は勤続年数が長いほど多くなります。仮に勤続35年の場合の非課税枠は1850万円。ここまでは退職金をもらっても税はかかりません。また、非課税枠を超えたとしても、超過分の半分だけが課税対象です。
ちなみに1850万円を給料でもらったら、400万円程度の税金と280万円程度の社会保険料が取られてしまいます。社会保険料も税金に負けず劣らず大きな負担です。
でも、一括でもらう退職金なら社会保険料もかかりません。(14ページより)

このように、本書では退職金の手取りを最大化するためのワザが紹介されています。他にも「ねんきん」で損しない方法、働き損にならない働き方など、あらゆる角度からお金の活かし方が明らかにされているため、参考にする価値は大いにありそうです。
○"貧困老後"の現実を知り、解決策を考える

『今なら間に合う 脱・貧困老後』(サンデー毎日取材班 著、毎日新聞出版)は、綿密な取材を重ねることによって、「高齢化社会の貧困」の実態を明らかにした書籍。そのため決して明るい内容とはいえず、「ローン、管理費が払えない!」「預貯金が底をつく恐怖」「生活苦・介護疲れが引き起こしや犯罪」など、見出しを見ただけで気が重くなってくるようなトピックスが多数紹介されています。

ただし、将来に不安があるからこそ、こうした“現実”があることを冷静に受け止めることも大切なのではないでしょうか? そしてそのうえで、先にも触れたように「では、自分はどうすべきか?」を考えていけばいいのです。いや、考えていかなければならないのです。

本書でも、ただ絶望的な事例を並べているだけではなく、第5章で「どうするべきか?」の部分に言及しています。強調されていることのひとつは、「制度を知る」こと。

日本の社会保障制度や福祉制度のほとんどは申請主義だ。知らないと利用することができない。困った時、追い詰められた時に、頼れる制度について知人や役所に尋ねる“癖”をつけておきたい。(170ページより)

たとえば、自分の年金受給額を日本年金機構から届く「ねんきん定期便」で確認したり、病気になったときの医療費をシミュレーションしてみるなど、高齢期の収入や医療費についての知識を持っておくことは重要。

不十分だとはいえ、日本の公的医療保険は機能しているのです。現実問題として、高額療養制度などを利用し、そこに自身の貯金を加えれば、病気も乗り切れる可能性が高いということ。また、医療費の助成制度も覚えておいたほうがよさそうです。

1カ月の医療費の自己負担額が高額になってしまう場合、自己負担額を軽減できる「高額医療制度」がある。例えば医療費が100万円かかった場合でも、健康保険で3割負担となり、窓口で支払う料金は30万円となる。この30万円に対し高額医療費が適用となり、実際には約8万円の支払いで済むことになる。支給までの約3カ月は窓口で払う当座の現金が必要になるが、入院前に「限度額適用認定証」を申請しておけば、窓口での一時負担が軽くなる。(37〜38ページより)

これはほんの一例ですが、自分の力でどうしようもできなくなった場合でも、福祉精度を利用するという手段があるわけです。著者は多くの高齢者を取材した結果として感じたのは、本来であれば生活に困ったときに利用すべき、公的な福祉精度を利用することをためらう人の多さだそうです。

それらを利用するのは当然の権利なのに、「恥ずかしい」「後ろめたい」という意識が強いということ。その気持ちも理解はできますが、生きるための権利を行使しやすい空気をつくっていくことも、また重要なポイントであるようです。

老後についての不安を解消するためには、お金や制度についての正しい知識を得ることが最大のポイントです。そして、そういう意味で、この3冊はなんらかの助けになってくれるはず。もちろん制度については重複する部分がありますが、そこは“基本”と捉えたうえで、各々の主張や考え方を吸収していけば、不安解消に役立つのではないかと思います。

印南敦史 作家、書評家。1962年東京生まれ。音楽ライター、音楽雑誌編集長を経て独立。現在は書評家として月間50本以上の書評を執筆。ベストセラー『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)を筆頭に、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書に学んだライフハック――「仕事」「生活」「心」人生の質を高める25の習慣』(サンガ)ほか著書多数。12月14日発売の最新刊は『それはきっと必要ない: 年間500本書評を書く人の「捨てる」技術』(誠文堂新光社)。6月8日「書評執筆本数日本一」に認定。 この著者の記事一覧はこちら

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