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コロナ禍で増える自転車通勤、もし事故に遭ったらどうなる? - 社労士が解説

新型コロナウイルスの感染拡大は減速の気配が見えず、都市部では通勤ラッシュに不安をいだく声も多く聞かれます。そんな中、満員電車の「蜜」による感染リスク回避のため、自転車で通勤する人をよく見かけるようになりました。今回は、自転車通勤中に万が一事故に遭った場合の、労災保険などについて解説します。

○そもそも労災保険とは

労災保険とは、従業員が業務上の事由または通勤によってケガをしたり、病気にかかったり、障害あるいは死亡した場合に、従業員や遺族を保護するため必要な保険給付を行う保険制度です。

この労災保険は、正社員はもちろんのこと、パートやアルバイト、日雇い労働者などすべての従業員が適用を受けることができます。

たとえば、通勤中に転倒し、足を骨折して休業、無給となった場合は、労働基準監督署に対して労災申請を行うことで、治療費とあわせて休業中の給与補償として、原則平均賃金の80%が休業給付として支給されます。このように労災保険は、従業員が安心して働くためのセーフティーネットとしての機能を担っているのです。
○通勤災害の3つの要件

ただし、通勤中のケガであれば何でもかんでも通勤災害として認定され、労災保険給付を受けられるという訳ではありません。労働基準監督署が、労災保険法上に定める通勤としての要件を満たしている場合に、通勤災害として認定するのです。その要件は大きく3つあります。

1. 職場と自宅の往復行為であること

通勤とは職場と自宅の往復行為であり、事故当日が就業の予定、または現実に就業していたこと。仮に職場の同僚とプライベートでの食事やカラオケ、サークル活動のために職場に行くような行為は、通勤としては認められません。

2. 通勤経路が合理的であること

「合理的な経路」とは、自宅と職場の間を移動する経路として、第三者から見ても「通常この経路を使うよね」と判断できる経路です。つまり、実際に使用した経路が、職場に届け出た経路と異なる場合であっても認められるわけです。ただし、たとえばダイエットやリフレッシュなどでの遠回りや、特段の理由もなく普通はまっすぐ通る道をわざわざ遠回りをした場合などは、合理的な経路とは判断されません。

3. 通勤の手段が合理的な方法であること

「合理的な方法」とは、鉄道・バス・自動車・自転車など、第三者から見て「通常この通勤方法はあり得るよね」という方法であれば、職場に届け出た方法と異なる場合であっても、合理的な方法として判断されます。特段の事情もなく、スケボーの利用などは合理的な経路として判断されにくいです。

なお、これらの要件をすべて満たしていたとしても、通勤中に友人と会食する、ショッピングをするなどの、仕事とは関係のない立ち寄りをした場合は、立ち寄をした時点からそれ以降の帰路でケガをしても労災として認定されません。ただし、病院や日用品の購入、あるいはコンビニで夕飯を買って帰るなどの日常生活上必要な行為で最小限度であれば、立ち寄り後も「通勤」と判断されます。

結論としては、職場に届け出ている経路・手段ではなく、さらに禁止されている自転車通勤であったとしても、合理的な方法として問題はなく、また寄り道などをしないで通常考えられる合理的な経路での通勤であれば、通勤災害として認定される余地は十分にあります。法律上も「職場の就業規則等に基づいて届け出た経路及び方法」でなければならないというような要件はありません。

仮に、届け出た通勤経路および方法でないことを理由に、職場が労災申請の協力を拒否し、会社の証明をもらえないとしても、従業員自身で労働基準監督署に直接相談して労災申請を進めることができます。あくまでも、会社への届出と労災保険の認定は別問題として判断されるのです。なお、最近首都圏でよく見かけるシェアリングバイクを利用している場合も同様です。
○加害者になってしまったら

次に、自転車通勤中に事故の加害者となってしまった場合はどうなるのか。通勤災害は、通勤中に自転車で滑って横転したなどの自損事故や、被害者として交通事故に巻き込まれた場合のケガに限らず、従業員自身が加害者として起こした通勤中の事故に対しても、通勤災害として労災保険給付を受けることができます。

ただし、第三者にケガをさせているので、被害者のケガの治療費や休業補償、後遺障害が残った際の補償などについては、加害者として被害者の治療費などを負担しなければなりません。

自身が損害賠償保険に加入していれば、損保会社は保険契約の範囲以内で、加害者に代わって被害者の治療費等を支払います。しかし損保に加入していなければ、加害者である従業員が被害者の治療費などを全額支払うことになるだけでなく、被害者に経済的な負担を請求されるケースもあります。
○シェアリングバイクの場合は、どうなるのか?

結論は、シェアリングバイク事業者自体が必ずしも損害賠償保険に加入しているとは限らないために、利用するシェアリングバイク事業者の損害補償保険の加入状況によって異なります。利用するシェアリングバイク事業者が損害補償保険に加入している場合は、被害者への賠償や利用者のケガなどに対し補償がされます。

シェアリングバイク事業者の多くは、利用料を支払う際に保険料も同時に支払う仕組みを取っており、補償内容は対人・対物、死亡・後遺障害、入院・通院補償等、事業者の加入する損害賠償保険によって異なります。また、補償金額も保険内容によって異なりますが、補償限度額を超える損害については、利用者の自己負担となります。

仮に保険未加入のシェアリングバイク事業者であれば、加害者自身が、全額自己負担することになります。いずれにせよ、シェアリングバイクの利用契約時に、損害賠償保険の有無、内容をよく確認する必要があります。
○懲戒処分の対象となる場合も

従業員が通勤中に事故を起こした場合、職場側も民法上の使用者として民法第715条の「使用者責任」によって責任を問われる場合もあります。

近年では、自転車事故による1億円近い高額の賠償金が課せられるケースも増加してきており、このような事態にならないためにも通勤中の自転車事故に備え、従業員個人、職場ともに損害賠償保険の加入をお勧めします。

事実、自転車通勤者には損害賠償保険の存在を知らない人、あるいは自転車には強制保険がなく、全て任意保険であるために未加入の人も多くいます。なお、今では全国で自転車損害賠償責任保険等への加入を義務化している都道府県は15カ所、努力義務としている都道府県は11カ所あり、東京都でも2020年4月1日から自転車利用者、保護者、自転車使用事業者及び自転車貸付業者による自転車損害賠償保険等への加入の義務化が始まるなど、個人賠償責任保険への加入意識が高まりつつあります。

最後に、通勤災害としての認定を受けられるかという点では問題ありませんが、労災とはまったくの別問題として、会社として自転車通勤を禁止している場合は「禁止行為の違反」となりますし、通勤費の不正受給といった問題もあります。このような行為は会社の服務や給与規定違反として懲戒処分の対象となる可能性があるので、今一度就業規則を確認してみてください。

○執筆者プロフィール:山本倫央

社労士。大槻経営労務管理事務所所属。2002年社会保険労務士試験合格後、介護事業運営会社の人事総務に従事。介護現場の職場環境改善を目指して、2007年9月に社会保険労務士法人大槻経営労務管理事務所入所。2009年に社会保険労務士登録。2015年に特定社会保険労務士に登録。「クライアント様に耳を傾け、真剣に向き合う」を信念のもとに実務を積み重ね、現在はクライアントの依頼にスピード感覚持ち、最適なアドバイスをするよう心がけている。

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