【ネタバレあり】累計2000万部超えの『葬送のフリーレン』。最新13巻で描かれるのは勇者ヒンメルのハンパない強さと帝国の野望

『葬送のフリーレン』(山田鐘人:原作、アベツカサ:作画/小学館)

※本記事は若干のネタバレを含みます

 TVアニメの盛り上がりが記憶に新しい『葬送のフリーレン』(山田鐘人:原作、アベツカサ:作画/小学館)。そのコミックス最新13巻が発売された。

 勇者パーティが魔王を倒し、冒険が終わった”後日譚”を描いたファンタジーコミックはついに累計2000万部を突破。「次にくるマンガ大賞」2021コミックス部門3位をはじめ、複数のマンガ賞で上位に入る人気と知名度で、2021年に「第14回マンガ大賞」、2023年に「第69回小学館漫画賞」に輝いている。

 本稿では、最初に物語を振り返った後に最新巻の内容を紹介していく。なお『葬送のフリーレン』13巻までを読んでいない方には若干のネタバレがあるため、了承いただいたうえで読んでほしい。

■魔王を倒した世界を旅するエルフの物語

 主人公は、1000年以上生きるとされているエルフのフリーレン。彼女は勇者ヒンメルのパーティのひとりとして、魔王を打ち倒し、エルフやドワーフといった亜人を含む人類に平和をもたらした。

 物語は、旅を終えたフリーレンと3人が別れるところから始まる。それから50年経ち、彼女は仲間たちと再会した。勇者ヒンメル、僧侶ハイターはかなりの高齢となっており、超命種であるドワーフのアイゼンでさえ、斧を振るう力は既にないという。老いていないのはエルフである彼女だけだった。

 フリーレンは再会してまもなくヒンメルを看取り、ハイターの最期を見届けて旅に出た。やがて彼女は、自分の師匠である伝説の大魔法使いフランメの手記を手に入れる。この手記には、死者の魂と対話できる場所が記されていた。彼女はその場所、大陸北端の地・エンデへ向かうことにした。そこで、ヒンメルと再会できるかもしれないからだ。

 フリーレンは一路、北を目指す。その傍らには、亡きハイターが育てていた魔法使いフェルンと、アイゼンの弟子である戦士シュタルクがいる。

 物語は、時間が年単位で着実に進んでいく。これが本作のポイントのひとつだ。フリーレンは、何十年も昔のヒンメルたちとの旅をたびたび思い返し、彼女が生きてきた長い時間のなかで出会った人間の子孫と出会うこともある。子どもだったフェルンはもちろん、シュタルクも成長していく。

 フリーレンだけは変わらない。ただ、それは見た目だけだ。勇者パーティだった間は淡々として仲間の感情を汲むようなことはなかった彼女が、フェルンやシュタルクとの現在の旅で感情が動くようになるからだ。フリーレンの気の遠くなるようなゆっくりした成長も、本作の魅力のひとつである。

 本作は、第1話から基本的にどのエピソードでも、ほぼ永遠を生きるエルフの目から見た、短命種である人間の「人生のはかなさ」「短くてもアツい生き様」が描かれていると感じる。私はもう若いとはいえない年齢だ。だからなのか、本作を読むと有限の時間をどう生きるかを真剣に考えてしまうことも。

 ともあれ、フリーレンと仲間たちは、ときにはシリアスに、大半はワイワイくだらなくも楽しく旅をしていく。彼女の前のパーティと同じように。

■勇者は伊達じゃない、短い人生の意味、徐々に明かされる“帝国”

 最新刊では前巻に続き、フリーレンが過去へ飛ばされたエピソードの顛末が描かれる。女神の石碑にこめられていた魔力により、彼女は魔王を倒す前の旅の途中に転移。そこにはもちろん若きヒンメル、ハイター、アイゼンがいた。そんな彼らの前に、魔王直属の“七崩賢”奇跡のグラオザーム、大魔族ソリテールらが立ちふさがった。

 本巻では、フリーレンがことあるごとに語ってきた、ヒンメルの圧倒的な勇者ムーブが描かれる。魔法を中心に描いているこの世界で、彼は魔法使いや魔族よりも速く、強く、チートだ。「勇者の称号は伊達じゃない!」「これはキャラクター投票1位だわ……」としびれる格好良さだ。また“フリーレンの回想には出てこなかった”ヒンメルのせつない感情も描かれ、さらに魔物側の先につながる伏線も提示される。

 巻中からは、大陸北部を統べる“帝国”のエピソードが本格的に始まる。かつて大陸全土を統一する国家であった帝国。彼らは魔法使いに対抗できる戦士たちを有しており、魔王軍との戦争時に彼らから領土を奪い返したほどのその武力を誇る。そんな帝国の“死をも恐れぬ戦士”のひとりがフリーレンの命を狙う。その目的とは?

 このエピソードはまさに『葬送のフリーレン』な、人のはかなさと生き様が描かれており、個人的にぐっときた。

 そして帝国による、大陸魔法協会のトップ・ゼーリエの暗殺計画が発覚。TVアニメでも登場したゼンゼ、ラント、ユーベルら一級魔法使いが再登場。対魔族ではない、人類同士の本格的な戦いに突入する。ここで実は魔法使いは最強ではないと語られるのだが、これがパーティの重要性を分かりやすく説明しており『葬送のフリーレン』の世界の解像度が高まった。

 魔王を失った後の魔物たちの不穏な動きとは。帝国の野望とは何なのか。物語は、この13巻がターニングポイントになるのかもしれないと感じた。アニメを見て初めてフリーレンにハマったという方は、ぜひここまで一気に読むことをおすすめする。

文=古林恭

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