DV被害者の20人に1人が「命の危険を感じた」と回答。ストーカー被害が最も「危険になる瞬間」とは

2023年1月16日夜、JR博多駅前近くの人通りのある場所で女性が殺害されました。捕まったのは女性の元交際相手。ストーカー被害の実際をDV被害者支援の立場から解説します。

元交際相手によるストーカー殺人事件が発生

博多駅の近くで、多くの人の目もある中、30代の女性が元交際相手に惨殺されました。男は女性に馬乗りになって、包丁で女性の上半身を十数回執拗に刺し続けたとのことです。

女性はストーカー被害を何度も警察に相談し、男に対しては女性への接近禁止命令が出されていたとのことですが、事件を防ぐことはできませんでした。

別れた後に、相手がストーカー化するというのは、DVがある関係の場合、よく見られます。それは結婚している場合も、一緒に暮らしていないカップルの場合も同じです。

かつて愛した女性に対し、なぜそのようなことができるのでしょうか。

そもそもDVとは

DVというのは、親密な関係にある(あった)パートナーに対し、暴力による恐怖を用いて服従させ、相手を思い通りに支配・コントロールすることです。そのために、さまざまな種類の暴力が使われます。

最初に行われやすいのが、過剰な束縛や監視といった「社会的DV」と、暴言や罵倒、無視などの「精神的DV」です。

加害者は「愛しているから束縛する」と言い、被害者もそう思っていることが少なくありません。「社会的DV」には、異性の連絡先を消されたり、携帯やSNSをチェックされたり、GPSを入れられたりといった被害が多いですが、束縛や嫉妬をされるというのは、常に不信感を向けられているということですから、苦しくなって当然です。

「彼が不機嫌になるから」と、友人や実家とのつきあいを自粛しているうちに、いつしかそれが常態になり、以前のように友達と会ったりすると「ルールを破った」と責められるようになることも少なくありません。DVは、被害者が我慢すればするほどエスカレートしていきます。

「LINE通話をつなぎっぱなしにすることを強いられ、プライバシーがない」「SNSのプロフィール写真を彼との2ショットにするよう強要される」といったこともよく聞くようになりました。従わないと、人格否定や罵倒、脅迫といった「精神的DV」や、「性的DV」「身体的DV」といった形で制裁が加えられる。ストーカー行為は、その延長線上にあると考えられます。

相手を殺害するというのは、「身体的DV」の最も酷いものですが、身体的DVは、他の色々な手段を使っても相手が思い通りにならなかった場合に、最終手段として使われることがほとんどです。

そのため、それまで身体的DVがなかった場合でも、別れ話に逆上して暴力を振るうといったことが起こりえます。

内閣府の調査によると、「命に危険を感じたことがある」というDV被害者は、全女性の20人に1人といわれています。身体的DVの中でも「首を絞められたことがある」「刃物で脅されたことがある」といった場合は、かなりDVがエスカレートしていると考えていいでしょう。

別れの前後が危険度MAX

DVは「別れの前後が最も危険」になります。そのため、「別れ話は、ファミレスなどの人目のあるところで、第三者を交えて」というのが鉄則です。

しかし、「いつも彼から別れると言われているので、別れ話はスムーズに進むはず」と思う女性が少なくないようです。ですが、DV加害者の「別れる」という言葉は、多くの場合、脅しに過ぎません。別れると言ったら相手は自分にすがってくるはず、と思っています。支配の強化の手段として、別れを持ち出しているのです。

そのため、女性の側が別れを告げると逆上します。DV加害者は相手を自分の所有物のように思っているので、相手が自分の意思を持っている人間だということが認められないし、下に見ていた相手から自分が振られるのは我慢がならないのです。「飼い犬に手を噛まれた」と表現した加害者もいます。

別れた後にストーカー化するDV加害者は少なくありませんが、それは愛情が残っているからではなく、執着です。相手が自分の所に戻れば、自分のプライド(男の沽券)が保たれる。そのためには、恐怖を与えることも辞さないのです。

なぜ、ストーカー行為はエスカレートするのか

DV加害者は「相手が俺を怒らせた」と暴力を正当化します。自分は怒りたくなかったのに、相手のせいで暴力を振るってしまった、という理屈です。つまり、自分のことを加害者ではなく被害者だと思っています。また、被害者も、痛みと恐怖の中で何度も繰り返し「お前が悪い」と言われているうちに、「殴られたのは自分のせい」だと思うようになっていきます。一種のマインドコントロールです。

相手に腹が立つことはあるでしょう。しかし、冷静に話し合うなどの方法もあるのに、暴力という手段を「選んで」いるのですから、DVは100%加害者の責任です。しかし、加害者が自分こそが被害者だと思い、被害者が自分を加害者だと思う。「加害と被害の逆転」は、DVにとてもよく起こります。

自分が加害者ではなく「被害者」だと思っているというのが、ストーカー加害者の特徴でしょう。自分がそれまでにしていたことは棚に上げて「ひどい振られ方をした」と相手を恨み、ストーカー行為を続けることを「相手への愛情ゆえ」と正当化します。

もはや愛情ではなく執着なのだという自覚はなく、被害感だけが膨らんでいく。そのために、ストーカーの最終形は「お前を殺して、俺も死ぬ」だといわれるように、加害が極端化しやすいのです。

事件の報道を見て、不安になった方へ

博多の被害女性は、警察に何度も相談し、できる対策は取っていたと思われます。しかし、事件は防げなかった。被害者に落ち度はありません。繰り返しますが、暴力は100%加害者の責任だからです。

彼女は、警察から転職や転居を勧められていたそうです。しかし、子どもを抱えたシングルマザーが、収入を断ち、加害者の追手が及ばない新天地に引っ越すというのは、そうそう決断できることではありません。子どもの学校の問題もあります。また、ここ最近はストーカー被害も止んでいたとのこと。これからは、子どもと両親とおだやかな生活が送れるのではないかと安堵していた矢先の事件だったのではないでしょうか。

被害者には小学生の娘さんがいらっしゃるとのことで、お子さんへの手厚いケアが望まれます。今後の捜査の進展によって、加害者の「言い分」も報道されることでしょうが、そのことが、お子さんやご家族をさらに傷つけることのないよう、しっかりとしたサポートが必要です。

事件の報道を受け、パートナーとの関係に不安を感じた人、友人の被害を心配に思われた方が、たくさんいると思います。

ぜひ、その不安をそのままにせず、地域のDV相談窓口につながってほしいと思います。

・内閣府 DV相談プラス
・#8008に電話をすると、地域の配偶者暴力相談支援センターにつながります。

※参考:男女間における暴力に関する調査報告書令和3年3月(内閣府男女共同参画局)
(文:福田 由紀子(臨床心理士))

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