「一丁前に…」子どもを軽口で“イジる”父親、共通点は『ある行動』が決定的に苦手なことだった

小児脳科学者の成田奈緒子さん、公認心理士の上岡勇二さんは、脳科学、心理学、教育学のエビデンスに基づいた独自の理論、「ペアレンティング・トレーニング」(よりよい脳育てのための生活環境づくり)を確立してきました。今回は、こちらの理論を基にした、「科学的に正しい、子どもの脳をよりよく育てる言葉がけ」について、著書『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SBクリエイティブ)の一部を再編集してお届けします。

子ども部屋を覗いて言った言葉

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※写真はイメージです

Case

 ×「(子ども部屋をのぞいて)ちゃんと勉強してる? 」
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 「勉強を頑張るあなたに、夜食をお作りします」

Episode「自分の部屋を干渉されてうざい」コウタロウ(中1)

広めの家に引っ越したため、自分の部屋をもらったコウタロウ。自分の部屋にいることが多くなりました。何をしているかさっぱりわからなくなったので、心配し始めた父親。「ちゃんと勉強してる? ゲームしてるんじゃないよな?」などと毎日子ども部屋をのぞくようになりました。

そんなある日─。いつものように部屋をのぞいた父親に、「うぜえんだよ!」とコウタロウの怒りが爆発。

コウタロウは部屋に鍵をかけ、それ以来、父親は部屋を二度とのぞくことができなくなってしまいました。

子ども部屋には一切干渉しない

私たちは、子どもに部屋を与えたのであれば、そこは子どもの「治外法権」スペースにして一切干渉しないというのを基本的なスタンスとしています。

ちゃんと勉強してる? ゲームしてるんじゃないよな?」と言われると、子どもは自分が信頼されていないと感じます。部屋を与えた以上、あれこれ詮索はせずに、子どもを信頼して任せるしかありません。

私たちのところに来た親御さんの中にこんな方がいました。

中学生の子どもがいないときに部屋に勝手に入って、掃除をして、こっそり引き出しを開けて、スマホのロックを解除して、LINEでのやりとりを読んでいるというのです。「子どもが心配だから」と言い訳をされていましたが、これこそが「ペアレンティング・トレーニング」でいうところの、「信頼と心配」の割合の配分間違いです。

中学生の年齢では、「信頼」が50%以上にならなければなりません。

親は心配な気持ちを抑え、「頑張って信頼する」ことで心配を減らしていきましょう。親がこそこそ部屋を調べていることは、子どもにすぐに察知されます。親が子どもを信頼しないと、子どもの親に対する信頼も構築できません。

親から信頼されていない」というメッセージは、同時に「お前はダメな人間だ」というメッセージとして子どもに伝わります。それは、子どもの脳へのストレスとなり、コウタロウのように反抗的になってしまったり、親とのコミュニケーションを拒否するようになってしまったりするでしょう。

もし、どうしても様子が気になるのなら、部屋をのぞいて「勉強を頑張るあなたに、夜食をお作りします」と言ってみるのはどうでしょう。信頼しているということを示すために、「勉強を頑張るあなたに」と、勉強をしていることを前提に声をかけるのです

「何でも作ってあげるよ」「じゃあ、鍋焼きうどんをお願いします!」「え~、鍋焼きうどんは面倒くさいなあ」「今、何でもいいって言ったじゃん」などと、勉強中のブレイクタイムの楽しい会話で、子どもの脳育てを促す知恵も絞ります。

そんなふうに声をかけられたとしたら、もし勉強していない場合には、「ヤベッ!」と思い、慌てて勉強するようになるのではないでしょうか。

父親は否定的な言葉で子どもの注意をひきがち

ところで、「ちゃんと勉強してる? ゲームしてるんじゃないよな?」といった否定的なコミュニケーションを取るのは、私たちの見ている限りでは圧倒的に父親が多いです。

父親が否定的な言葉を投げかけるのは、相手がわかりやすく反応してくれるからだと思っています。父親は母親に比べて、子どもとのコミュニケーションが不得手な人が多いので、軽口を言うことで子どもの注意をひきたいのです

たとえば、就職活動中の子どもが面接をするためにスーツを着てリビングをうろうろしていたら、父親は「おっ、一丁前に社会人面してるな」などと、子どもをイジることが多いです。母親なら、そのような言い方はあまりしません。「スーツを着ると、すごく大人っぽく見えていいね」などと、子どもがうれしい気持ちになるような言い方をすると思います。

子どもに対して、否定的な言葉を使っていないか。特に父親は一度振り返ってみることをおすすめします。

子ども部屋は「寝るだけの部屋」にする

子ども部屋は、できるだけ「寝るだけの部屋」にしましょう。

たとえば、リビングに家族全員の机を置いて、親も勉強や作業をする姿をきちんと見せる。さらに、だらだらするのではなく、時間を決めて効率的に集中して取り組んで、終わったらくつろぐ姿も見せる。自然と、子どもにも同じ習慣が身につくので効果的です。

意外に思うかもしれませんが、欧米には「勉強部屋」的なものはほとんどありません。生まれたときから個室で寝かせるので、それぞれの寝室はありますが、これはほぼ「寝るだけの部屋」です。寝室以外には、「リビングルーム」と「ファミリールーム」と呼ばれる部屋があって、「ファミリールーム」にしかテレビがないという家が一般的です。

ベッドがあって、テレビもあって、パソコンもあって、エアコンまで完備されている。フルスペックの日本の「勉強部屋」のスタイルは、日本独自の文化のような気がします。「寝るだけの部屋」にしてしまえば、子どもが部屋にこもって、エアコン完備の快適な空間で、ゲームをしたり、テレビを見たり、パソコンで遊んだりすることは物理的にできなくなります。そうすれば、「ゲームしてるんじゃないか?」「変なサイトを見てるんじゃないか?」などと気をもむことも一切なくなります。

ただ、そうは言ってもやはり、勉強部屋があった方がいいと考える方も多いでしょう。その場合には、ベッド、机、必要最低限の家具しか置かないようにすることをおすすめします。そして、部屋を与えたからには、そこは子どもの「治外法権」と思って、介入することは一切やめましょう。

そこはあなたの場所なので、立ち入らないし、掃除もしませんので、自分で整えてください」と信頼して任せた方が、子どもたちは案外きれいにするものです。

このように、子ども部屋の問題は、親が子どもをどれだけ信頼して任せられるか否か試金石でもあるのです。

(著:成田奈緒子、上岡勇二『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(‎SBクリエイティブ)より/マイナビ子育て編集部)

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成田奈緒子

成田奈緒子(小児科医・医学博士)
小児科医・医学博士。公認心理師。子育て科学アクシス代表・文教大学教育学部教授。 1987年神戸大学卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。2005年より現職。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)など多数。近著に『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(共著、SBクリエイティブ)がある。

上岡勇二

上岡勇二(臨床心理士・公認心理師)
臨床心理士・公認心理師。子育て科学アクシススタッフ。1999年茨城大学大学院教育学研究科を修了したのち、適応指導教室、児童相談所、病弱特別支援学校院内学級、茨城県発達障害者支援センターで、家族支援に携わる。著作に、『改訂新装版 子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング 育てにくい子ほど良く伸びる』(共著、合同出版)、『子どもが幸せになる「正しい睡眠」』(共著、産業編集センター)、『ストレスは集中力を高める」(芽ばえ社)。近著に『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(共著、SBクリエイティブ)がある。

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