美容室で5歳児が“感電” 腕は硬直、皮膚は黒く変色し…原因は「電化製品ではない」ものだった

木曜の昼下がり、美容院で起きた感電事故

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※写真はイメージです

ある3月の木曜日。昼下がりの美容院にAさん(5歳2ヶ月・女児)はいました。そこで事故は起こりました。

手に持った「2つの鍵」

店内には母親、祖母、美容院のスタッフがいますが、Aさんが何をしているのか特に注意して見てはいません。1人で遊ぶAさんの手には、客用のロッカーの鍵が2つ。鍵は客がそれぞれ自分のものを管理することになっており、この時はAさんの手が届く場所に置いてあったようです。

鏡の横にあった「コンセント」に差し入れる

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※写真はイメージです

美容院の椅子の前にある大きな鏡の横には、100Vのコンセント(一般的な家庭用と同じ電圧)が備え付けてありました。

床からの高さ70cmほどと子供の手が届きやすい場所にあったコンセント。Aさんは両手に1つずつ鍵を持ち、その2つの穴(端子)にほぼ同時に差し込んだのです。

注:事故発生当時の様子については、怪我の状態からの推測情報も含まれます。

電源から手が離せない

静電気だとバチっとして一瞬で手を引っ込めるため、コンセントなどで感電した場合でも同じようなことを想像するかもしれません。

しかし、今回Aさんが鍵を差し込んでしまったコンセントのような低電圧(100〜200V)の場合、電源に触れた腕の筋は硬直を起こし、自分の意思で手を離すことができない状況に陥ります。そうすると、必然的に接触時間が長くなってしまうのです。

「家庭内の感電事故」死につながる可能性も

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※写真はイメージです

この事故で、Aさんは右の手のひらなどには電流斑※ができました。他にも両手指にやけど(Ⅰ〜Ⅱ度)を負ったほか、皮膚のところどころが黒く変色しました。また、2つの鍵に付いていたプラスチック製のタグは焦げ、片方は焼き切れていました。

Aさんは怪我を負いましたが、一歩間違えば命を落としていた可能性もあります。というのも、両腕の間(もしくは腕・足の間)を電流が流れると、心臓を通過することで死につながる不整脈を起こし得るのです。

※電流斑:電極と接触していた部分の皮膚に起こる潰瘍や壊死[*2]

ヘアピン、モール、ネックレスなども感電の原因に

今回の事故はロッカーの鍵で起こりましたが、他にも以下のような事故が起こっています[*3]。
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<4歳>コンセントにヘアピンを差して、手の親指から薬指の先にやけどを負う。
<5歳>コンセントにモール(針金入り)を入れ、両手の親指から中指にやけどを負う。
<4歳>コンセントとプラグの間の隙間におもちゃのネックレスと巻きつけ、手と顔の皮膚の一部がただれるやけどを負う。
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Aちゃんの事故の前年(2015年)にも、生後6ヶ月の赤ちゃんが、壊れてむき出しになったヘアアイロンのコネクター内部を口にくわえ感電。口の内部にやけどを負う事故が起こっていました[*4]。

6歳未満に多い自宅での感電

家庭内で起こる電流通過による怪我は6歳未満に多いという海外のデータがあります[*5]。

また国内では、差込プラグ・コンセント等の他の媒体を介してショートした火災が10年間で118件発生しており、1割強(17件)は1〜13歳の子供の行為者によるものでした。中でも1〜3歳が12件と多数(70.6%)を占めています[*6]。

コンセントキャップも万全ではない

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※写真はイメージです

好奇心旺盛な子供がコンセントに物を入れないようにするため、コンセントにキャップをつけているご家庭もあるでしょう。しかし、東京都消費生活総合センターには「赤ちゃんがキャップを外して、口に入れていた」という相談も寄せられています[*7]。そこには感電だけでなく、誤飲のリスクも生じるのです。

実際、アメリカの電気製品製造業協会(NEMA)によると、コンセントに差し込むプラスチックのコンセントキャップは2歳未満には効果がある反面、4歳児の47%が外せる製品、2歳・4歳児の100%が外せる製品などがあり、多くの場合短時間で取り外せると注意喚起しています[*7]。

どんなコンセントキャップでも事故を防げるわけではないことを認識した上で、キャップを用いる場合は子供が取り外し難い形状・設計のものを選ぶ、デザインは子供の興味を引かないようなものにする、などが勧められます。

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※写真はイメージです

また、キャップではなく、コンセント全体を覆うような子供には取り外せないカバーを設置するなども一つの方法でしょう。

そして、そもそも鍵やヘアピンなどの金属製のものを子供が手に取りやすい場所に置かない・落ちたままにしない・遊ばせないといったことも併せて行う必要があります。

好奇心旺盛でいたずら盛りの子供たち。目につくものは全て遊びの対象になってしまうものです。コンセントが危険であることを言い聞かせることも大切ですが、日々の生活の中で物理的に危険から遠ざける対策をしていきましょう。

(文・構成:マイナビ子育て編集部/監修:郷 正憲 先生)

この記事は、日本小児科学会の「Injury Alert(傷害速報)」を元に作成しています。







この記事の監修ドクター
郷 正憲(ごう まさのり)先生

徳島赤十字病院麻酔科 日本麻酔科学会専門医
麻酔業務のほか救急外来も担当し、様々な救急患者の初療も行う。蘇生講習会のICLSコースではディレクター職を担う。著書に「看護師と研修医のための全身管理の本」がある。

参考文献
[*1]日本小児科学会 Injury Alert(傷害速報)「No.065 コンセントに鍵を差し込んだことによる手掌電撃傷」
[*2] 清水宏「あたらしい皮膚科学第3版」(中山書店)p.224
[*3] 消費者庁「Vol.568 コンセントでの感電事故に注意!」
[*4] 日本小児科学会 Injury Alert(傷害速報)「No.042 ヘアアイロンの電源コードによる口腔内電撃傷」
[*5]Baker MD, et al. Household electrical injuries in children. Epidemiology and identification of avoidable hazards. Am J Dis Child. 1989;143(1):p59-62
[*6]東京消防庁「こどもの電撃熱傷を伴う火災に注意して!」(2007〜2016年のデータ)
[*7]東京都生活文化局消費生活部「いたずら防止用コンセントキャップに関する調査」




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