《視聴者は好意的な評価》『ちびまる子ちゃん』『サンモニ』『笑点』…長寿番組の交代はなぜスムーズに受け入れられたのか?成否の鍵を握る“色”

まる子の新声優は菊池こころ(『ちびまる子ちゃん』公式Xより)

 この春、長寿番組のリニューアルが注目を集めた。声優や司会の交代は、SNSなどで何かと批判されがちだが、『ちびまる子ちゃん』『サンデーモーニング』『笑点』は否定的な声は少数派。なぜ3番組における声優や司会の交代はスムーズに視聴者に受け入れられたのか? コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。

【写真】関口宏に代わり新MCに起用された膳場貴子アナの険しい表情。

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 21日、アニメ『ちびまる子ちゃん』主人公・まる子(さくらももこ)の声優が菊池こころさんに交代しました。

 前任のTARAKOさんは1990年の放送開始から34年以上にわたって声優を務めてきただけに、視聴者の反応が注目されましたが、「違和感なかった」「思っていたよりよかった」などとおおむね好評。日本中の人々に浸透していた声からの変更は、なぜ受け入れられたのでしょうか。

 また、今春は『サンデーモーニング』(TBS系)の総合司会が関口宏さんから膳場貴子さんに交代。関口さんは1987年の番組開始から36年以上にわたって総合司会を務めてきましたが、膳場さんへの交代後、批判のような声はあまり聞こえてきません。

 さらに、『笑点』(日本テレビ系)の大喜利メンバーも、林家木久扇さんから立川晴の輔さんに交代。木久扇さんは歴代最長となる55年にわたってレギュラーを務めた番組の顔でしたが、晴の輔さんに対する声も好意的なものが多くを占めていました。

 なぜこの3人は好意的に受け入れられたのでしょうか。さらに、長寿番組の出演者交代で成否の鍵を握るポイントは何なのでしょうか。

「継ぐ」価値、はっきりとした若返り

 なぜこの3人は好意的に受け入れられたのか。

 まず今回の3人に共通していたのは、「“継いでくれること”の価値が高い」という背景。『ちびまる子ちゃん』のTARAKOさんは3月4日に亡くなってしまい、『サンデーモーニング』の関口宏さんは80歳、『笑点』の林家木久扇さんは86歳の高齢であり、「誰かが継ぐことでこの先も番組は続けていける」という前提があります。

 番組をよく見てきた人々ほど「続いていくことが最も重要」なだけに、よほど「前任者へのリスペクトや視聴者への配慮が感じられなかった」というケースを除けば、「まずは見守ろう」という温かい目線が前提。一方で「最近はあまり見ていない」という人ほど愛着が薄いためか、意地悪な目線からコメントするケースが目立ちます。

 実際、まる子の菊池さんにも「毒気が薄れて物足りない」「声が若返りすぎ」などの声がありましたが、あくまで少数派。これは「長年続いていたものが変わったら、必ず何かしら言われる」という一定の反応に過ぎず、好意的な声に飲み込まれた感がありました。

 また、晴の輔さんに対しては、「正統派」「知的」などの肯定的な声が、「つまらない」「鼻につく」などの否定的な声をやや上回っていた印象を受けましたが、それ以上に大切なのは木久扇さんの名前があがらなかったこと。否定的な声が飛び交うときは、「前任者を引き合いに出して叩く」ことが定番だけに、それが出なかった時点でそれなりに新任者としてすでに認められている様子がうかがえます。

 さらに、長寿番組の出演者交代で批判を受けにくいポイントとしてあげられるのが、はっきりとした若返り。TARAKOさん(享年63歳)から菊池こころさん(41歳)は22歳の若返り。関口宏さん(80歳)から膳場貴子さん(49歳)は31歳の若返り。林家木久扇さん(86歳)から立川晴の輔さん(51歳)は35歳の若返り。いずれもすでに実力者であり、40・50代の年齢でありながら、視聴者にフレッシュな印象を与えています。

 そもそも長寿番組は常にマンネリと戦いながら放送を続けているだけに、出演者の交代は必ずしもネガティブなことではありません。「はっきりとした若返りを感じてもらうことで、番組の魅力にあらためて気づいてもらおう」というエンタメとしての狙いもあります。

まずは前任者の色にうっすら染まる

 次に長寿番組の出演者交代で成否の鍵を握るポイントは何なのか。

 視聴者に「前任者のイメージを引きずらず、新しいキャラクターとして見てください」と言っても、なかなかそうしてもらえないのが実際のところ。だからこそ制作サイドや新任者には、視聴者が「前任者と似ているか、似ていないか」「前任者より上手いか、下手か」という観点にとらわれすぎないような工夫や配慮が求められます。

 視聴者が「似ているか、似ていないか」「前任者より上手いか、下手か」にとらわれすぎると、「それが引っかかって物語やコーナーに集中できない」という思考に陥り、結果として違和感につながってしまうのが難しいところ。そのため新任者には「まず番組の主旨や魅力を伝えること」を優先させるような姿勢が求められます。

 長年親しまれてきた番組にいきなり加わる以上、視聴者の支持を得やすいのは「最初から自分の色を出そうとしない」という良い意味での没個性。「前任者の色にうっすら染まるところからはじめて、グラデーションのように少しずつ自分の色を加えていく」という段階を踏もうとする姿勢が伝われば受け入れられやすい傾向があります。

 逆に最初から「前任者に負けないように、自分の色を前面に出す」という人は、「悪目立ちして叩かれてしまう」というリスク大。最も優先すべきは長年見続けてきた視聴者であり、次に前任者で、新任者は3番目に過ぎないという現実を理解して臨めるかが問われています。

 今春の3人はこの点で上々のスタートを切れたのではないでしょうか。そもそも誰に交代しても多少の違和感があるのは当然なだけに、少なくとも「いずれ慣れてくるまでの間、視聴者に受け流してもらえそう」というラインはクリアしているように見えます。

【木村隆志】
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者。雑誌やウェブに月30本前後のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組に出演し、番組への情報提供も行っている。タレント専門インタビュアーや人間関係コンサルタントとしても活動。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』『独身40男の歩き方』など。

 

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