ネット記事につくコメントからはかくも多様な「人類の愚かさ」について学べる

正義を唱えることで快楽が発生するとも(イメージカット)

 誰もが発信者となることが可能になったことで、社会課題が生まれていることも事実である。コラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

【写真】他山の石にしたい

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 今日もネット上には、大量のニュース記事とともに大量の匿名コメントがあふれています。あれを書き込んだり評価のボタンを押したりするエネルギーを合算したら、小さな町で必要な電力を毎日発電するぐらいのことはできるかもしれません。

 じつに不毛でもったいない話です。ただ、せっせと書き込んだり誰かのコメントをちまちま評価したりしている人は、それぞれにそうせざるを得ない理由があるのでしょう。精を出せば出すほど気持ちが荒みそうに見えるのですが、まあ大きなお世話ですね。

 うっかり読んでしまう側としても、漂うマイナスオーラを受け取って不愉快になるだけでは、それこそ不毛でもったいない話。パッと見にはトホホでしかないコメントたちですが、じつは多くのことを教えてくれます。ネットニュースのコメント欄は、人類が抱える多様な愚かさを知る最高の教材と言っても過言ではありません。

 たとえば「ラーメン屋で無料サービスの大盛りを注文して残すのはマナー違反だ」というニュースがあったとしましょう。そこに付きそうな架空のコメントを元に考えてみると、次のような「愚かさ」を学べる可能性があります。

●コメントその1「急にお腹が痛くなった人はどうするんだ。それでも残しちゃいけないのか」

 このコメントからは、特殊な前提条件を勝手にくっ付けて「屁理屈で勝った気になる愚かさ」を学べます。そもそも、そんな話はしていません。もしそうなったら自分で判断すればいいだけ。自分の主張の的外れっぷりに気付いていないところが、また厄介です。

●コメントその2「無料サービスのライスのことを書いていないから、記事として不十分だ」

 あくまで「無料サービスの大盛り」の話なのに、別の話を持ってきて得意気にダメ出ししています。しかも、話の本筋とは関係ありません。「とりあえず人の話にイチャモンを付けて賢さを示したい愚かさ」にあふれたコメントと言えるでしょう。

●コメントその3「有料で大盛りにしたはずだから、残そうがどうしようが客の自由だ」

「無料サービスの」と書いてあるのに、世の中には「読解力が残念すぎる愚かさ」を備えた人が少なくありません。そういう人ほど、強い口調で自信満々にコメントし、しかも、「えっ、そうかな?」と首をかしげたくなる意見を言い出します。

●コメントその4「自分は大盛りが無料になるような大衆的な店には行ったことがない」

 金持ちアピールなのかグルメアピールなのかよくわかりませんが、どうやら「隙あらばマウンティングしたくなる愚かさ」に突き動かされているようです。そして、この手の人は「見出しだけ見てコメントする愚かさ」を兼ね備えていることもしばしば。

●コメントその5「こんな当たり前のことをわざわざ記事にするな」

 当たり前だと思うならスルーすればいいのに、わざわざコメントするところに「ちゃんとわかっているオレを示したい愚かさ」が見え隠れします。「自分はこんな記事をありがたがるヤツらとは違う」という「セコイ選民意識という愚かさ」もありそうですね。

●コメントその6「法律で禁止されてはいない。ダメなら注意書きを店内に貼っておけ」

 こういうタイプも、よくいます。「法律で善悪を判断できると思っている愚かさ」も見苦しいですが、注意書き云々を問題にする「人に決めてもらわないと何も自分で判断できない愚かさ」を平気でさらしてしまうところも、かなり恥ずかしいと言えるでしょう。

●コメントその7「『ラーメン屋』と呼び捨てにするのは失礼だ。『さん』を付けるべきだ」

 重箱の隅をつついて、どっちでもいいことを鬼の首を取ったかのように指摘している光景も、しばしば目にします。思考力の器がかなり小さめで、それを「無自覚に露呈してしまう愚かさ」を持っているからこそできることだと言えるでしょう。

 ほかにも「大盛りの量による」といった謎の条件付けをしてきたり、この手の話になると「また失礼クリエイターがでっちあげた嘘マナーだ」と、何でもかんでもマナー講師を悪者にすればいいと思っていたりするパターンも。マナー関係だけでなく、政治にせよ経済にせよスポーツにせよ、どんなジャンルでも同様の光景は見られます。

 ただ、けっして他人ごとではありません。これらの愚かさは多くの人が持ち合わせていて、ふとした拍子に顔を出します。リアルな場面で、無意識のうちに似たようなことをやっているケースも多々あるでしょう。せっかく多くの人が、恥をさらしながら貴重な反面教師になってくれているのですから、くれぐれも気を付けたいものです。

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