新社会人が戸惑う「どかない系おじさん」 大柄な男性には場所をゆずり、女性が接触すると怒鳴り散らす

ゆずりあい、ぶつからないように配慮するつもりがまったくない「どかないおじさん」がいる(イメージ、時事通信フォト)

 社会人になったことで初めて気づくことはいろいろあるが、そのひとつに、街で出くわす迷惑な人たちの存在がある。人混みのなか、わざと人にぶつかりながら歩く「ぶつかりおじさん」はよく知られているところだが、迷惑な場所に陣取って動かない「どかない系おじさん」もいる。以前、全国に出現する「ぶつかり男」について報告したライターの森鷹久氏が、どかないおじさんに戸惑い、怖い思いをしたという新社会人たちの声をレポートする。

【写真】吊り革を使って「どかない」

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「相談した上司に、お前が知らなかっただけだ!と笑われた時にはびっくりしました。でも新社会人で驚く人は結構いるはずですよ。一見普通に見えるのに、こんなに意地悪な人がいるのかと」

 真新しいリクルートスーツ姿の新社会人を多く見かけるこの季節。そんな新社会人にぜひ知ってほしいと訴えるのは、社会人2年目をむかえた都内の大手化学メーカー勤務・土井舞華さん(仮名・20代)だ。

「ターミナル駅や繁華街にいる”ぶつかりおじさん”がネットで話題になったことがありますが、その人たちと同じくらい面倒な人たち電車の中にいるんですよ。絶対に”どかないおじさん”って感じの人たち。電車の扉の入り口付近に立って、他のお客さんの乗り降りの邪魔になっているのになぜかどかない。すみません、と声をかけても無視だし、怒った男性客がわざとぶつかっていってケンカになったのを何回も見たことがあります」(土井さん)

 土井さんが驚いたのは、こうした”おじさん”たちの多くが、どこにでもいる普通のサラリーマンにしか見えないこと。もちろん、酔っ払っているわけでもない。さらに、こうしたトラブルを毎日とまでは言わないまでも、かなりの頻度で目撃している。通勤時に見かける光景にうんざりしているだけでなく、自身も被害を受けたと話を続ける。

「満員電車の奥の方が空いているのに、吊り革に捕まって通路を塞いでいる男性がいたんですよ。すいませんと言っても無視されました。そのうち、さらに混雑してきたとき、人波に押し出されて男性にぶつかってしまったら、すごい剣幕で怒鳴られたんです。近くにいた若い男性が代わりに文句を言ってくれましたが、なぜ邪魔になっているのにどかないのでしょうか。嫌がらせなの何なのか、単純にわかりません。朝からあんなに嫌な気分になって、仕事中も思い出したら震えが止まらなかったです」(土井さん)

「ぶつかりおじさん」と「どかないおじさん」のふたつに共通しているのは、一般的な女性と比較すると大柄な男性であるということだろう。筆者も、電車内で「どかない」系のおじさんに遭遇したことがあるが、女性の邪魔になっている時は無視を決め込む一方で、自分よりも大柄な男性が近づくと率先して体を寄せ、触れることのない位置に小さく収まった。彼らの振る舞いは姑息でどうしようもないので、くだらないと無視するのもひとつの考え方だろう。だが、実際に起きているのは怪我の可能性もある、弱者をターゲットにした暴力行為と言っても過言ではないのだ。

動かない系に加えて迷惑なこと

「通路塞いでどかない、動かない系もいますけど、足を広げてドーンと座ってる男の人も多いです。体が大きい、と言われればそうかもしれませんが、女性とかお年寄りの前だけでわざとやっているような気もします」

 神奈川県在住の社会人3年目、牧島ゆうさん(仮名・20代)は、入社後はコロナ禍の影響でリモート勤務も多かったが、昨年ようやくバスと電車を使った通勤をするようになった。学生時代にもほぼ経験がなかったバス通勤だが、ほぼ毎朝遭遇するという、我が物顔で足を広げ、およよ1.5人分の座席を占拠する男性客の存在に辟易している。

「どんなに混んでいようと、2人がけの席を1人で使っているんです。みんな怪訝な目で見ていますが、誰も注意しようとはしません。ただ一度、作業着姿で金髪の若い男性が乗った来た時は、そっと詰めていたんですよね。結局弱いものの前でそうするしかできないのかと、情けなくなりました。電車の中にも同じような男性が結構いて、例外なく、女性や高齢者の前だけで強がっているように思います」(牧島さん)

 筆者が「ぶつかり男」について記事を書いたときも、そして今回も同様に「(歩きながらスマホの)ぶつかり女だっている」、「どかない女もいる」というような反論があるだろう。確かに、少なくはあるものの、若い新社会人の男性から同様の声が上がっている。都内のキー局勤務で社会人2年目・森田翔也さん(仮名・20代)が振り返る。

「どかないというより逆で、混雑しているのに、手に大荷物を持って、吊り革にも捕まらず、スマホから目を離さず、周囲の人にガンガン当たりまくってる女性とかいますよね。小柄だから、こちらが気が付かずに当たって怪我なんかさせないか心配です」(森田さん)

 こういう声がないわけではないが、迷惑な「どかない系」は、圧倒的に”おじさん”が占めているのは誰もが持つ印象だろう。そして、問題の始まりを忘れてはいけない。新社会人たちが驚いているのは、その迷惑な人たちが男か女かということより、こうした厚顔無恥な人々が、社会には意外と多くいるという現実なのだという。

「ぶつかりおじさんにしても、どかない人にしても、面と向かって人を困らせたりして、なぜ普通の顔していられるんだろうと素朴に思いますよ。周りの人たちからも怪訝な顔で見られて恥ずかしいとか思わないのか。毎朝使う路線で、身近な人が使っている可能性だってあるのに、周囲からどう見られても良いのか。いろんな人がいるという、これも社会勉強かもしれませんが。ちょっと病んでますよね」(森田さん)

 このような理不尽を新社会人に「社会勉強」と思わせざるを得ない社会を作った我々にも、その責任には大いにあろう。しかし、やはり新社会人もまた、この病的な現状に慣れ、日常として受け入れるようになっていくのか。

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