「絵を見た人と時間差で会っている」1/35少年が絵を描きながら旅をする理由
トルコとジョージアを原付バイクに乗って旅をしながら、各地に壁画を描く活動をSNSにアップして話題となっていた1/35少年(サンゴーショウネン)さん。
こだわりを英語にするとSticking(スティッキング)。創作におけるスティッキングな部分を、新進気鋭のイラストレーターに聞いていく「イラストレーターのMy Sticking」。帰国したばかりの1/35少年さんに、旅しながら壁画を描くようになったきっかけや、旅をしているなかでの思い出、壁画に対する思いなどを聞いてみました。
会社の寮に描かせてもらった絵が新聞に載った
――いつ頃から「旅をして壁に絵を描く」という活動を始めたんでしょうか?
1/35少年 壁に絵を描き始めたのは去年の夏からで、1年ちょっとくらいです。それより前は旅をしながら、ネットで依頼を受けて絵を描いたり、行った場所で頼まれてチラシの絵を描いたりしていました。あるときに“壁に描いたほうが旅した現地にモノを残せるからいいんじゃないか”と思って、1年ほど前に、旅をしながら壁に絵を描く活動を始めました。
――最近のことだったんですね。一番最初に壁に描いた絵は?
1/35少年 そのときに住んでいた自宅に描いたのが一番最初です。その次は、当時働いていた会社の寮に描かせてもらったんです。そしたら、その絵を地方新聞が取り上げてくれて、その記事を読んだ人から依頼が来るようになりました。地域おこし協力隊の皆さんと一緒に、シャッターアートとかもやらせてもらいました。
それで、海外でもやってみたいと思うようになって、今回、トルコを旅をしながら壁に絵を描いていくことにしたんです。絵を描いてお金をいただくというよりは、絵を描く代わりにご飯をいただいたり、宿泊させてもらったりしながら旅をしていました。
――ところで、もともと仕事などで絵を描いたりしていたんですか?
1/35少年 いえ、仕事はエンジニアをやっていて、現場で配線をいじったりしてました。高校も電気科、大学も数学科で絵とは関わりがなかったです。
――美術系の学校ではなかったんですね。子どもの頃は絵を描くことが好きだったとか?
1/35少年 好きなアニメの絵を描いたりはしてましたけど、どちらかというと外で遊ぶことが好きで、絵をずっと描いてるというタイプではなかったです。
――どのタイミングで絵に興味を持ち始めたんでしょうか?
1/35少年 マンガとかアニメはずっと好きでした。高校の頃に二次創作の絵を描き始めたんですが、学校の成績がヤバくなって“絵を描くと勉強がおろそかになるな”と思って、学生の頃は一旦描くのをやめて勉強に専念してました。
――本格的に絵を描き始めたのはいつから?
1/35少年 大学卒業してからです。卒業したら自由に絵が描けると思って、二次創作の同人誌とかを作り始めました。同時期にプラモデルも作り始めて、プラモデルを題材にした漫画を描いたりしていました。コミティアとかに出したりしていましたね。その頃にバイクの漫画を描いている“せきはんさん”の絵に影響されて、原付に乗り始めました。
――「バイクの絵を描こう」ではなく「乗ってみよう」だったんですね(笑)。
1/35少年 そうですね(笑)。そこから免許を取って原付に乗り始めました。以前から廃墟が好きだったので、原付に乗って廃墟探索に出かけてました。廃墟巡りのために原付を買ったようなものですね。その頃は東京に住んでたので、群馬とか栃木の廃墟をキャンプしたりしながら巡ってました。
廃墟に行きたいから、その手段としてバイクに乗るようになって、だんだんとそれが旅になっていったって感じですね。旅をしていると、10代の頃から一人で海外旅行をしてる方とかに出会うことも多いんですけど、私は全然そんな感じではなく、学生時代は“家から一歩も出なくていい”と思ってましたね。
モンゴルを旅する予定がトラブルでトルコに変更
――そんな1/35少年さんが、トルコに一人で絵を描きながら旅するようになるなんて……。
1/35少年 そうですよね(笑)。原付で旅をしてると、たまにキャンプ場とかで世界を放浪してる人に出会うんですよ。そういう人の話を聞いてると“ひょっとしたら海外行ってもいいのかな?”って思うようになって、興味が湧いてきたんです。
その少しあとに、コロナ禍になってしまったのでバイトをしながらお金を貯めてました。その頃に描いた壁画が初めてお金になったんです。それでようやくコロナが落ち着いてきたので、“海外でも壁画を描いてみようかな”と思って旅に出たんですよね。
――すごい行動力ですね! なかなかその発想にはならないですよ。
1/35少年 あとは、画家の淺井裕介さんに影響を受けました。この方は旅をしながら、現地で採った砂でそこに絵を描くという活動をしている方なんです。最初にも言いましたが、せっかく旅をするなら現地にモノを残せたらいいなという思いもあって、壁画を描きながら旅をすることにしました。
日本でも旅した先でアイコンを描かせてもらう、というのはやってたんですけど、デジタルデータで渡すのって、その場に行かなくてもできるから、なるべくその場に残したいなと思って壁画にしました。廃墟に行くとクオリティの高いグラフィティが残ってたりして、“誰にも見られないのに描いてる人がいるんだな”と思ったのも動機の一つです。
――旅の行き先としてトルコを選ばれた理由は?
1/35少年 最初はモンゴルに行って1年間過ごす予定だったので、モンゴルのビザを取得したんです。が、いざ行ったら現地で「ダメだよ」って言われてしまったんです。
――えっ、行ってからですか…?
1/35少年 そうです。それで急遽、モンゴルから安く行けて、良い感じの場所を探した結果、イスタンブールに決めました。なので、もともとの目的地ではなく、流れでトルコにしちゃいました。
宿泊先で「絵を描かせてもらえませんか?」
――移動に使ったバイクは現地で購入したんですよね。
1/35少年 そうです。バイクに詳しいわけではないので、現地のバイク屋さんに行って相談して、丸投げで選んでもらって買いました。
――海外で、初めて行った場所でバイクに乗るって怖くなかったですか?
1/35少年 私、公共交通機関が苦手で。電車とかバスとか調べるのが苦手なんですよ。そういうのを使うよりかはバイクがいいかな、と。自由度も高いですし。あと、日本でも原付で旅をしてたから、原付旅のほうが勝手がわかってるというのもありました。
――壁画を描く場所はどう探していったんですか?
1/35少年 基本的には宿泊した場所で交渉してました。ゲストハウスとかで「絵を描かせてもらえませんか?」って聞くと、だいたい描かせてもらえましたね。もちろん、事前に写真とかを見て調べて、描かせてもらえそうなところを選んで行ってはいました。トルコって、みんなで集まってお茶を飲む習慣があるので、街中で見つけたらそこに入って情報収集したり。
それから、イズミルっていう街があるんですけど、そこでは壁画のイベントをやっていて。街中に壁画がたくさんあるところなんですよ。そういう街なら描かせてもらえるだろうなと思って行ったりしていました。オイル交換とか修理に立ち寄ったバイク屋の壁に描かせてもらったこともありましたね。
――言葉はどうしてたんでしょうか?
1/35少年 全然わからないので、だいたいはGoogleの翻訳アプリに頼ってましたが、なんとかなりました(笑)。
――描くモノや絵のテイストなどはリクエストをもらったりしたんですか?
1/35少年 お店のロゴとかは描かせてもらいますが、自分の絵柄で描かせてほしいって交渉してました。iPadで壁の写真を撮って、自分の絵と合わせて「こんなのどうですか?」って見せて、OKもらえたら描くって感じでやってました。
――壁に描かれた絵を見ると、かなり時間がかかりそうだなって思うんですけど。
1/35少年 大きくても幅5~6m×高さ2~3mくらいですよ。描くスピードもだんだん早くなって、最後のほうは2~3日で描いてましたね。
――画材はどのように調達してたんですか?
1/35少年 現地調達ですね。室内ならアクリル系の絵具、屋外の場合はシリコン系の塗料を現地で買ってました。日本より塗料は安かったですね。DIYが浸透してて使う人が多いんだと思います。ホームセンターはあまりないんですが、大きめの街だと金物屋みたいな個人商店がたくさんあって、そこにペンキが売ってるので調達してました。
旅で起きたトラブルや印象的な出会い
――旅の途中にトラブルはなかったですか?
1/35少年 バイクを買ったときに、お店の人がご厚意でちょっとイジってくれたんですけど、その改造が不完全だったみたいで、ずっと原付の調子が悪かったことです。それが途中で旅をやめた理由の一つですね。変な改造はしてもらうもんじゃないなと思いました(笑)。
――思い出に残っている出来事はありますか?
1/35少年 シワスっていう街にいたときに、ちょうどトルコの大統領選があって。カフェに絵を描かせてもらいながら大統領選の行方を見てたのが印象に残ってます。あれはちょっとドキドキしましたね。
あとは、ジョージアでお世話になったホテルで3か所に絵を描かせてもらったことですね。そのホテルを運営してる人が、タトゥーアーティストだったんです。その方から「好きな絵を描いてくれよ」って言われて、自由に描かせてもらいました。さらに、ペンキ代も全部出すし、宿泊もいつまででもいいし、冷蔵庫にあるものも好きに食べていいって言われたんです。そこに1か月半くらい滞在しました。
ジョージアのトビリシに淺井裕介さんが廃墟に描いた絵があるというので、そこを目指して行ってたんですが、行ってみたら廃墟自体が取り壊されちゃってて見れなかったんです。でも、街を巡っていたら淺井さんが書かれた別の絵を見つけました。そんなことも印象的でしたね。
淺井さんの作品みつけた……!ロープウェイ廃墟が解体していたときは絶望したが……っ! pic.twitter.com/eMET3ZfWLA
— 1/35少年【サンゴーショウネン】 (@summerboys35) August 17, 2023
――すごい! 海外旅ならでは…って感じがします。
1/35少年 そういえば、モンゴルで小学生と描いたのは楽しかったですね。モンゴルのビザを取るときに、現地の人と連絡を取り合ってたんです。その現地の人の紹介で小学校に行かせてもらって、子どもたちと一緒に絵を描かせてもらいました。
――子どもたちはどんな反応でしたか?
1/35少年 めちゃくちゃにぎやかでした。モンゴルってゲルで生活してる方が多くて、学校の数もあまり多くないので、小学生が寮生活してるんですよ。私も寮に泊めてもらって1週間くらい生活したんですけど、子どもたちがとにかく元気で、部屋まで来てみんなで歌ったりとかして。絵を描いてるときも、授業が終わった子どもたちが周りに集まってくれて。日本から持ってきた絵の具とかは、そこで全部奪われました(笑)。「これもらっていい?」って言うから“まあ、いいか”と思って。
宝探しのように壁画を見に行ってほしい
――今回の海外旅、どのくらいの期間になったんですか?
1/35少年 7か月くらいで、絵は20くらい書きましたね。
――だいぶ描きましたね! その絵を聖地巡礼みたいに、いろんな人が訪れてくれるとうれしいですよね。
1/35少年 そうですね。私も人の絵を探すのを宝探しみたいな感じで楽しんでます。インスタに絵の写真をアップしたら、海外の方が何人か見に行ってくれたみたいで、それはうれしかったです。私の絵が旅に出るきっかけになったらいいなと思いますね。
そこに絵があるということは、過去に私がそこにいたわけで、絵を見に来てくれた人と時間差で会ってる、そんな感覚が生まれるんじゃないかと思います。壁画は好きな文化ですね。日本にももっと増えたらいいなと思います。
――日本人の感覚からすると、街に壁画がたくさんあったり、描かせてくれるところがあるというのが驚きです。
1/35少年 海外は日本よりもストリートアートがある街が多いですね。都会に行ったらそういうのを見るのも楽しみでした。街に絵を描いていい場所があるのは楽しいですよね。じつは、日本でも壁画で町おこしとか島おこしをしているところがあるんですよ。高井神島っていう壁画で島おこししている離島に行ったときは、民宿をやってるおじいちゃんからタコとハギもらいました(笑)。
――豪快ですね(笑)。
1/35少年 離島は楽しいですよ。それから、地域おこし協力隊の方が、壁画で町おこししたりもしているので、今度はそういうところで小学生と一緒に描いてみたいですね。私の絵柄的にも“学校とかに合うかな”と思っているので。私が描いた絵の上から、小学生が好きに描いていくとか、もっと自由に絵を描いてほしいなと思ってます。
室内と屋外で絵を描く際に気をつけていること
――最初から今のようなテイストの絵を描かれていたんですか?
1/35少年 いや、最初は二次創作が主だったので、今のような感じではなかったですね。マンガを描いてみようと思ったこともあったんですが、どうも難しくて。イラストを中心に描いていくことにしました。
――絵柄はマンガっぽい感じではありますよね。アナログな感じで暖かみがあるという印象です。具体的にどんな作品に影響を受けたとかありますか?
1/35少年 マンガだと圧倒的に『サイボーグクロちゃん』です。それから『まんがサイエンス』ですね。横内なおき先生とあさりよしとお先生がめっちゃ好きです。理系に進もうと思ったのも『まんがサイエンス』を読んだのがきっかけです。
――学生時代の進路選びでも影響を受けたんですね。そう言われてみると、絵柄が近い感じがしますね。丸みを帯びた感じとか。
1/35少年 円が好きなんですよ。ちゃんとパース定規でかっちり線を引いてた時期もあったんですけど、直線をかっちり引くより丸いほうがいいなと思って、最近はフリーハンドで描いてます。
――最初は紙やデジタルで絵を描いていたと思いますが、壁に描くって感覚が全然違いますよね。そういった意味での苦労とかはありましたか?
1/35少年 壁画はバランスが大事になってくるので、背景の写真を撮って、そこにちゃんと合わせるということをしています。壁に何も目印がない場合は、マスキングテープでマス目を作ってから、それに合わせて描くようにしてます。あとは、背景の色も違うので、そこに色味を合わせたりもしますね。
それから、主線を黒で描くとキツイ感じに見えてしまうなと思って、主線の色を紺とか、真っ黒じゃない色にするようにしてます。特に室内は黒だと圧が強い感じがするので。
――室内と屋外でも全然違いますよね。
1/35少年 全然違います。室内はちょっと柔らかめの色にして、屋外はパッキリした色にするって意識して描いてます。でも、屋外だと描いてるときに太陽の光で色が全然わかんなくなったりしますね(笑)。
――そんな苦労もあるんですね。暑かったりしたら外で描き続けるのも大変ですよね。
1/35少年 そうですね。外で描くのは天気にも左右されるので、屋外のほうがしんどいですね。あと、壁の材質も気にしないといけないです。さらっとした壁ならいいんですけど、ザラザラした壁だと塗料がうまく乗らないんですよ。あと、木の壁も樹脂とかが染みだしてきちゃったりとかして。そのへんは試行錯誤しながらやってましたね。
――今後やりたいことはありますか?
1/35少年 今、パネル作品を作っています。壁画は私の作品ですけど、持ち運びができないので個展がやりづらいんですよ。だから、持ち運びできる作品を作って個展を開きたいです。
――楽しみにしてます! ちなみに、次に行ってみたい国はありますか?
1/35少年 行きたいのは台湾です。台湾をぐるっと一周したいです。来年くらいには行こうと思ってます。私の絵柄のテイストが台湾に合うと思うんですよ。あと、台湾ならカブをレンタルできるので、バイクで回りやすいかなと思って。ただ、台湾はバイク社会なんで、ちょっと運転は怖いですね(笑)。あと、来年の夏は日本を巡りたくて、五島列島に行ったことないので行ってみようかなと思ってます。
12/14 17:00
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