高齢者は本当に家を借りにくい?終の棲家は必要?人気建築家が<家に人生を捧げがちな日本の住まい方>を見直して気づいたこと

人生のセカンドステージを迎えたら、暮らし方を見直してみませんか(写真提供:Photo AC)

子どもがもうすぐ独立、このまま独身で生きようかと考えている、親がそろそろ要介護、定年退職が見えてきた、…など、人生のセカンドステージを迎える時期だからこそ、住まいの観点から新しい生き方を考えてみませんか。小さな家・二拠点生活・古民家・空き家活用など、時代に合った「住まい方」に挑戦した、50代以降の女性達を多数紹介した書籍「人気建築家と考える50代からの家」より一部を抜粋して紹介します。

【書影】人生の節目で一旦立ち止まり、理想の未来と家を考えるきっかけに…湯山重行さん著書『人気建築家と考える50代からの家』

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人生のステージごとに家を着替える

ここ数年の物価高騰で、モデルハウスに行くと新築住宅は否応なく3000万円からという時代になった。住宅ローンを組むと返済期間は30年を超えてしまう。

30代で購入した場合、ようやく支払いを終える頃がリタイアのタイミングだから、体が元気なうちにと今度はバリアフリー工事が必要になって、これまた出費がかさむ。

これでは家に人生を捧げ、支配されるようなものである。日本は災害大国でもあるので、水害、風害、地震があれば補修もままならない。精神的にも負担が大きい。

だから、「家を持つのはちょっと先に」「人生の大部分を賃貸で」という選択肢もアリだ。自分と家族の価値観や健康も時の流れとともに変化する。

家だってその都度、変化したほうが楽しいに決まっている。若いうちはヤドカリのように住み替えるほうが自分の人生にその都度、アジャストできる。

日本を脱出して世界を覗きたい衝動に駆られるときだってあるだろう。そう考えると、賃貸暮らしも悪くない。

社会人になったら、とりあえずワンルームを借りて住む。パートナーが加わったら50平方メートル程度の住まいを借りる、子どもを養う必要が出たら一戸建てやファミリー向けの住まいに移る、子どもが巣立ったらまた50平方メートルぐらいの家に戻ってみる。

家は借りたほうが楽なのか?

高齢になると賃貸物件を借りにくくなるという心配もあるが、既に日本の人口の3分の1は老人であるから、貸す側も高齢者はお断りと言っていられないようになるだろう。

中古住宅だって手の届く価格帯で豊富に存在しているから、リタイアメント前後に購入するのも手だ。

小さくてちょっとオシャレな中古住宅やビンテージマンションを手に入れ、家具や食器などにこだわってみる。

趣味を極めてみる。そんなふうに自分のセンスで生きるのがカッコいいと思う。

まだ若い方であれば、早めに中古マンションを購入し、ちょっと住んだあとに賃貸に出すという方法もある。

不動産投資に興味があり、長期的に考えて動くことができるなら、将来家を購入するときの足しになるし、住む家がない場合のセーフティネットにもなろう。

家も服のように人生のTPOに応じて何度も着替えようではないか。

家は小さくていい

日本人はみな同じような姿カタチで髪形、生き方までもが似たり寄ったりだと評されてきた。だが、この一体感があったからこそ、みなで心通わせ一緒に田んぼや漁場を守り育んできた。尊い先人たちの足跡である。

時代は過ぎ、インターネットが普及しグローバル化の波がやってきた。さまざまな国からの訪問者、就労者、移住者が増え、今では彼ら彼女らの文化や発信する言葉、振る舞い、バックボーンを徐々に受け入れることにも慣れてきた。

ときどきハッと気付かされることもある。彼らの着眼点や観念の角度だ。信仰であったり、戦争観をきっかけに、テレビで観ていた正義のヒーローが絶対ではなく、世の中は立ち位置によって変わるのだと。

良い悪いではなく、現実を素直に受け止めて真正面から向き合い、そして分かち合うことが大切だと。

次の目的地に向かって切符を手に入れたら一安心とばかりに、人生のレールの上を猪突猛進するのではなく、自分の足で、自分で決めた人生の目的地に向かう。

多少の失敗はするかもしれないけれど、「なあに、今までの経験を生かし上手に乗り越えられるだろう」と進めば、自分だけの青い空と爽快な人生が眺められるに違いない。

そうと確信したなら話は早い。身軽なほうがフットワークも軽いから荷物も身に着ける物も必要最小限でいい。それらを包み込む家も小さくていいだろう。

人生の冒険にはお金もかかるから、多少の軍資金も残しておきたい。ますます小さな家で十分になってきた。はるか遠くを目指したくなってくれば、家を引っ越す必要も出てきそうだ。やっぱり家は小さくしておこう。

終の住処は昔の話。たどり着いた理想郷で、愛おしいくらいかわいい小さな家で暮らしてみよう。マトリョーシカのようにだんだんコンパクトになる人生も潔い。

終の住処はいる?いらない?

75歳まで存分に生きたとして、そのあとはどうするのか?最終的に終の住処が必要になるではないか?そんな声も聞こえてきそうである。

たしかに高齢になると賃貸物件が借りにくくなる。「老後に住む家がない」と騒ぎ立てるメディアの記事も見かける。

しかし、だからと言って今住んでいる家を終の住処とするのは、人生の可能性を狭めることになるのであまりお勧めしない。

仮に30代・40代で子育てしやすい家を購入したとする。しかし、子どもは20年もしないうちに巣立ってしまう。残った家が夫婦二人暮らしにマッチしているかといえば、そうでない場合も多い。

もし、今お住まいの地域が気に入っていて、老後も住み続けたいと考えているなら、今の家で老後も快適に暮らせるかどうかを考えてみよう。

「ちょっと大きすぎるかもしれない」「段差が多くて老後は大変になるかもしれない」などの不安があるなら、同じ地域で住み替えをするという選択肢もアリだと思う。

終の住処を考える(写真提供:Photo AC)

まずは家の資産価値を調べて、値段が付くようなら売却。しばらくコンパクトなマンションを借り、じっくり終の住処となる物件を探す。

またはそのまま賃貸を続け、身体の不自由を感じ始めたら高齢者向けの施設に移ってもいいだろう。

子どもに不動産を残したいという考えもあろうが、今や売却ができずに空き家となれば、資産ではなく「負動産」になりかねない。

そう考えると終の住処を持たずに生きる、すなわち終活として生き方をコンパクトにし、子どもの負担を最小限にすることは理にかなっていると思ったりもする。

とはいえ私も建築家なので、終の住処はいらないと断言するつもりはない。予算が許せば新築もいいものだ。

コンパクトな家なら、今の大きな家を大規模リフォームするのと大して変わらない金額で建てられることもある。

私のクライアントにも老後に暮らしやすい家を新築して、第二の人生を謳歌している方がいらっしゃる。そして、全員が幸せそうだ。

高齢者は家を借りづらいというが…

高齢者が賃貸物件を借りづらくなる理由は、孤独死や認知症になってしまうリスクが高いからだ。

仮に孤独死をされた場合、発見時の状態によっては、すぐには次の入居者を募集できなくなる。

また、相続人や引き受け人が見つからない場合は、貸主側が探すことになり、残置物も勝手に処分ができない。

こうした問題は身寄りのない単身の高齢者に起こることが多いのだが、働き盛りの子どもがいれば連帯保証人になってもらうか、子ども名義で賃貸借契約をすれば多くのケースで問題なく審査は通るはずだ。

最近では高齢者歓迎の物件や高齢者専門の賃貸情報サイトもでき始めている。老後に賃貸で暮らすのも大アリな時代になりつつある。

※本稿は『人気建築家と考える50代からの家』(草思社)の一部を再編集したものです。

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