樋口恵子 近ごろ目立つ「老いてきょうだい仲の悪さ」。「きょうだい仲よくを味わってもらいたい」と思う親がすべき<つとめ>とは

(写真提供:Photo AC)
厚生労働省が公表している「令和4年簡易生命表」によると日本の平均寿命は、男性が約81歳、女性は約87歳だそう。それもあって91歳で評論家として活躍している樋口恵子さんは、「これからはおばあさんだらけの時代になる!」と宣言中。その樋口さんいわく、「近ごろは老いてきょうだい仲の悪さが目立つ」そうで――。

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介護と相続で険悪に

昔から「きょうだいは他人の始まり」と言われますが、近ごろ老いてきょうだい仲の悪さが目立ちます。

「ふつうの仲」だったきょうだい仲が険悪になる理由は二つ。親の介護と相続問題です。

介護は、どうしてもそれまで同居していた人、近所に住んでいた子どもに負担が多くかかります。

地域の事情にもよりますが、昔のように「長男が責任者!」「長男の嫁が介護してあたりまえ」と決めつけるわけにはいきません。いろいろな例を見ていると、たしかに気の弱い子、親を振り切れない子がいわゆる「貧乏くじ」を引いていることがあります。

人生案内欄にて

私は日刊紙の人生案内欄で回答者を務めています。最近、親の一周忌を二人しかいないきょうだい一緒に出せそうもない、というご相談を受けました。

争いの種はやはり介護と相続。ご相談は二人姉妹の妹さんから。

お葬式は長女の家から出しました。妹の立場からみると、姉はお金にきびしく、老いた母にいろいろ請求したようです。妹が見かねて口を出したらきょうだい仲は険悪に。妹から見ると、相続も姉が勝手にことを運んだとしか思えません。

苦情を言ったら大げんか。一周忌も近いのになんの知らせもない。問い合わせていいものかどうかというご相談でした。

母上の死後、妹さんがついに爆発。口もきかない間柄になってしまったけれど、妹さんは何とか一周忌を機に仲を取り戻したい感じが伝わってきました。

同じ子どもでも「お葬式を出す側」はどうしても責任が重い。親の看取りでの姉の尽力にまず感謝し、一周忌をどうするか、お伺いを立てる手紙を出してみては? それでご返事が来なかったら、深追いせず、妹は自宅に写真など飾って故人を偲べばよいのではないか、と回答しました。

きょうだい仲は、親の年忌を別々に出すところまで険悪になっているようです。

「平等」というのはなかなかむずかしい

幼いときからの、親の偏愛への恨みつらみを述べる子どもの相談文をあちこちで見かけます。

親の側に立って言いわけをさせてもらえば、「平等」というのはなかなかむずかしい。上の子のときはまだ親の給料が安く私立受験は無理、下の子のときは昇給して親は受験に夢中、というやむを得ぬ事情もあります。

私の親しい三人息子の母は、中学受験直前の1年間、受験当事者の子どもにだけ「おいしくて高価な」栄養ドリンクを与えていました。幸い三人とも合格。今は揃って世界中を駆け回って活躍しています。本人の能力、希望が理由でない限り、大学進学は公平に扱ってほしいと思います。

親のほうの心がけも必要です。私の友人の姉上はお金持ちで、宝石をいろいろ持っていましたが、とくに一つだけ飛び抜けて高価な指輪がありました。はたから見ても、長女、長男の嫁、三きょうだいの末っ子、と三人ぐらい受け取る候補者がいました。その後どうなったかについては聞いておりません。

私はこうした介護、相続をめぐるきょうだいの争いは、基本的に子ども同士の争いだと思っていました。でも、近ごろ親にも多少の責任がある場合もあると思うようになりました。

たとえば、先にあげた高価な指輪の行方は、遺言書を書いておけばよいのです。どうすれば効力のある遺言書を書けるか、たくさんの書籍が出ていますから勉強しましょう。それほどむずかしいものではありません。何も言わず書き残さず、「あとはみなさまよろしいように」というのも一つの意思表示です。

友人の一人が実の親の介護中、言っていました。「4人きょうだいの家庭はさまざまで、中には障がいのある子の親もいる。親はよく訪ねてくれる子をほめそやし、競って見舞いに来てほしいようでした。来たくても来られない子もいたのに――」

私は、重度の妊娠中毒症で、子どもは一人しかいません。さびしいことだと残念に思っていましたが、おかげで「偏愛」という事態を経験しなかったことにホッとしています。どんなにケンカをしようと一人娘に「葬式を出して」もらう以外に仕方ありません。

現在のような長寿社会。親子の時間も長くなったように、きょうだいの時間も長くなりました。一緒に育つ期間より、配偶者を得て別な家庭を営む時間のほうがはるかに長い。

「きょうだい仲よく」は変わらぬ理想だとしても、新しく創った家庭が中心であることは言うまでもありません。

親たるものの心がけ

幼いころから最も身近な存在であり、ときには宿命のライバルであったきょうだい。

それでも私の周辺を見ると、とくに女きょうだいの場合、老後の人間関係をしっとりとかつ賑やかな色彩を放っていて羨ましいと思います。

「きょうだい仲よく」を味わってもらいたいと思ったら、親たるもの子どもたちに無用の競争をさせず、子それぞれの間に親しさを増すように、きょうだい仲が一生の財産になるよう相つとめねば、と思います。

親業は一生の修業ですねえ。大へんですけど楽しみながら。 

※本稿は、『91歳、ヨタヘロ怪走中!』(婦人之友社)の一部を再編集したものです。

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