人種や文化を越えた《普遍的な美しい顔》とは…顔の魅力は<4つの要因>に左右されていた

(写真提供:Photo AC)
デジタル時代の今、インターネット上では過度に加工された顔があふれています。なぜ、人間は《理想の顔》に取り憑かれるのでしょうか。そのカギとなる「脳の働き」に、大阪大学大学院情報科学研究科にて身体・脳・社会の相互作用を研究する中野珠実教授が、最新科学で迫ります。中野先生曰く、人種や文化によって顔の魅力や美の基準は大きく違いますが、実は、普遍的な美の基準も存在するそうで――。

* * * * * * *

【書影】なぜ人は顔の写真加工に夢中になるのか…中野先生の著書『顔に取り憑かれた脳』

《魅力的》に感じる顔とは

私たちは第一印象の判断において、相手への信頼性だけでなく、顔の魅力度も一瞬で判断しています。その一瞬の判断を良くしようと、化粧をしたり、髪型を整えたり、と見た目をとても気にしているのです。

もちろん大前提として、見た目だけでなく、その人の人柄をはじめとした内面が重要であることは言うまでもありません。ただその一方で、魅力的な顔の価値を調べた研究もあります。

たとえば、ヘテロセクシャルな男性に魅力的な女性の写真を見せたところ、その男性の脳の中ではドーパミン報酬系が活発にはたらいていました(*1)

一方、魅力的な男性の写真を見せてもドーパミン報酬系はほとんどはたらきませんでした。このように、顔の魅力というのは、配偶者選択において特に重要な価値を持つようです。

それは人間だけでなく、さまざまな生物の配偶者選択や性選択においても、とても重要な価値を持っています。オスのクジャクの羽に代表されるように、多くの生物では、もっぱらオスがメスに選ばれるために、色鮮やかな体表や無駄に長くて豪華な羽や角を持つ傾向があります。

これは、外敵に狙われるリスクを冒してまで目立つことで、自分の強さや成熟度合いをメスにアピールしているのではないか、と考えられています。では人間の場合、どのような特徴が顔の魅力に関わっているのでしょうか。

普遍的な美の基準が存在する?

文化人類学の分野では、顔の魅力や美の基準というのは、人種や文化によって大きく異なるとされています。

確かに、平安時代は切れ長の細い目とふっくらした頬が美人の重要な条件でしたが、現代はぱっちりした目に小顔の女優が美しいと話題になったりしています。また、ファッション誌やSNSの影響を受けて、メイクの流行も大きく変わります。

一方で、人種や文化を超えた普遍的な美の基準も存在することがわかっています。

具体的には顔の魅力を決める要因として、【1】シンメトリー(左右対称)であること、【2】平均顔に近いこと、【3】若々しさ、【4】第二次性徴の特徴を有することの4つが挙げられます。

顔の魅力を決める<4つの要因>

【1】シンメトリー(左右対称)

シンメトリーな顔ほどその魅力が高くなるというのは、本当の顔と鏡像の顔の写真を合成した顔が魅力的に見えるという実験で実証されています。なぜシンメトリーの顔は魅力的に見えるのでしょうか。

生物の進化的な観点では、適応度の高い遺伝子があることの手がかり、つまり環境変化への対応や健康状態の指標となるからではないか、という考え方があります。ただその一方で、健康の手がかりとはならないという逆の報告もあります。

また、別の考え方では、脳はシンメトリーな物体の方が情報処理を一般化しやすいため、その副産物として、左右対称の顔に魅力を感じるのではないか、というものもあります。

【2】平均顔に近いこと

平均顔が魅力的に見えるというのにも、同じようにいくつかの説明があります。

まず、大勢の顔を集めると、平均の付近に最もサンプルが集まる正規分布になります。そのため、平均顔の目や口、輪郭は一番目にすることが多い形やサイズです。人間には、「よく接するものが好き」という認知バイアスがあるので、平均顔は誰よりもなじみを感じるため、好ましく思えるのではないか、というのです。

また、別の説明では、平均顔に近い顔は、集団が共通して持っている遺伝子をその人がもれなく持っていることを外に示していることになるので、理想的な配偶者として好まれるのではないかとされています。

【3】若々しさ

細胞の老化に伴い、顔にはシミやシワが増えてきます。それは、豊富な人生経験をものがたる味わい深い顔の印象をつくり出します。一方で、若い細胞がつくり出す顔には別の魅力があるようです。

男性は自分の年齢にかかわらず若い女性を好むというのは、マッチングアプリなどのデータを解析すると明白な傾向として表れます。中高年女性の筆者としては、あきれて渋い顔をしたくなるところですが、これを進化心理学的に解釈すると、受胎能力の高い女性を求める配偶者選択行動として理解されます。

【4】第二次性徴の特徴

そして、同様に、二次性徴が顔にもたらす変化も、受胎能力の高さや繁殖力を示すので、魅力的な顔の特徴と考えられているわけです。

二次性徴により、男性はテストステロン、女性はエストロゲンが大量に分泌されるようになります。すると、男性はテストステロンの影響で下顎が発達し、目と眉の間隔が狭い彫りの深い顔になります。一方、女性はエストロゲンの影響により、唇や頬がふくよかになります。

女性が「魅力的」と評価した顔の特徴とは

それでは、実際に男性はふくよかな頬と厚い唇の女性の顔に魅力を感じ、女性は彫りの深い男性の顔を魅力的に感じるのでしょうか。

この疑問をイギリスと日本の共同グループが調べて報告した研究が、1998年にNature誌に掲載されました。しかし、その結果は予想外なものだったのです(*2)。どんな実験だったのか詳しく見てみましょう。

彼らは、西洋人と日本人の男女それぞれの平均顔をもとに、二次性徴によって現れる形態的な特徴としての女性らしさを強調した顔と男性らしさを強調した顔を作成しました。そして、それらの顔の魅力度を50人の西洋人と42人の日本人に評価してもらいました。

すると、予想通り男性は、女性らしさを強調した女性の顔をより魅力的だと評価しました。一方、女性は、男性らしさを強調した男性の顔よりも、女性らしさを強調した男性の顔をより魅力的だと評価したのです。この傾向は西洋人でも日本人でも共通して見られました。

さらに、男性らしさを強調した顔は、支配的で、協調性に欠けると評価されてしまったのです。現代社会では、外敵から守ってくれる強い男性よりも、家族に対して優しく、協調性に長けた男性が好まれるということでしょうか。

このように、人がどんな顔を魅力的と感じるかについて、大勢の研究者がたくさん研究をして調べてきました。顔の好みは人それぞれ異なり、ここで挙げた要因だけが顔の魅力を決定するわけではありません。

また、なぜ特定の顔を魅力的と感じるのかに関する理由にはさまざまな推測がありますが、どれが正しいのかははっきりしていません。しかし、人間が顔の魅力に興味を持っていることは、確かであるようです。

<参考文献>
*1_ Aharon, I. et al. Beautiful Faces Have Variable Reward Value: fMRI and Behavioral Evidence. Neuron 32, 537-551, doi:10.1016/s0896-6273(01)00491-3(2001).
*2_ Perrett, D. I. et al. Effects of sexual dimorphism on facial attractiveness. Nature 394, 884-887, doi:10.1038/29772(1998)

※本稿は、『顔に取り憑かれた脳』(講談社)の一部を再編集したものです。

ジャンルで探す