U2、エンヤだけじゃないアイルランドの魅力。ハロウィーンはケルトの収穫祭「サウィン」が元に。小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の「怪談」にも通じる

「セント・パトリックス デー」パレード(写真提供◎中脇さん)
新型コロナ下での生活も3年となり、これまでよりストレスを感じて暮らしている方も多いのではないでしょうか? ステイホームでも、一人でもできる、自分を癒したり元気づけたりする習慣をもっていることは、精神の安定や免疫UPにも役立ちます。Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅなどのヒット作品に携わり、アーティストやクリエイターの成功とメンタルの関連性について研究を続けている音楽プロデューサーの中脇雅裕さんの連載「美しくそして健康に 音楽のあるHappy Life」。第25回は「アイルランドのお話」です。

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【写真】緑のものを身に着けて、イベントに

知れば知るほど面白い国

実は最近、アイルランドとご縁があって、アイルランドに関係するイベントやパーティーに良く参加させていただいています。

ご縁をいただく前は、アイルランドについて知っていたことと言えば仕事柄、音楽やエンタメ、例えばU2、エンヤ、シン・リジィなどのミュージシャン、リバーダンスといったステージパフォーマンス。あとはギネスビールとかアイリッシュウィスキーなどのお酒。ケルトという文化がアイルランドにはあったということくらい。

しかし、アイルランドは知れば知るほど面白い国なのです!

来月3月17日はアイルランドのお祭り「セント・パトリックス デー(St. Patrick's Day)」。これを祝う様々なイベントが東京、大阪、横浜など日本各地で行われることもあり、今回はこのアイルランドの魅力についてお話ししたいと思います。

アイルランド(正式名称:アイルランド共和国/The Republic of Ireland)です。イギリスの西となりに位置する国で、北アイルランドを除くアイルランド島全体を占めます。首都はダブリン。英語とアイルランド語が公用語です。この英語とアイルランド語は全く違った言語です。ちなみにアイルランドのことをアイルランド語では「エール」と言うそうです。

面積は約7万300平方キロメートルで、人口は約500万人です。これはすごくざっくり言うと北海道が国になった感じですね。ちなみに北海道の面積は83,423.84平方キロメートル、人口は5,088,470人です(2024年1月31日時点)。

首都はダブリン。そして欧州連合(EU)のメンバー国で、ユーロを公式通貨としています。

また、アイルランドは軍事的中立政策を掲げており、北大西洋条約機構(NATO)には加盟していません。

このアイルランド、実は今や世界でもトップクラスの裕福な国で「1人当たりのGDPランキング」はなんと世界第2位で117,979ドル(2024年2月15日時点)。ちなみに日本は37位で34,555ドルです。

EUの中では最も貧しい国と言われた時代もあったそうですが今や、世界でもトップレベルの豊かな国なのです。

ケルト文化

アイルランドの歴史は古く、初めてアイルランドに人類が現れたのは、紀元前7500年ごろ旧石器時代とされています。そしてその後、紀元後600年ごろにキリスト教が入るまで、多神教的なケルト文化がアイルランドで発展しました。

このアイルランドのケルト文化は、ドルイド教と言う宗教が基本になっていたようです。このドルイド教は、神官が儀式やお告げを行っていたと考えられていて、太陽と大地の古い神々を信じ、あらゆる生き物の中にも神の存在を見いだしていた多神教でした。

また「自然」と「宇宙」と「自己」を一体化し、「霊魂の不滅」や「輪廻転生」などのキリスト教徒とは全く違った考え方をしていました。

日本の神道に近い考え方ですね。

ケルト渦巻

特に興味深いのがケルトのシンボル「渦巻模様」です。この「渦巻模様」は「ジャイア」と呼ばれていて「全てには上も下もなく、大きな渦の中に平等に存在している」という考え方を表しているのだそうです。

これは「始まりも終わりもない世界」や「霊魂の不滅」や「輪廻転生」そして「全てのものが交わり流れる象徴」でもあるそうです。

これはローマやギリシャ、ゲルマンなどの他のヨーロッパ圏が使う「直線」による明確さや、まさにピラミッド型のヒエラルキーを元にした社会の作り方とは全く異なる文化です。

そして、このケルト文化は今でもアイルランドの人々のアイデンティティーとして根強く生きています。

例えばアイルランドでは世界に先駆けて2015年LGBTの結婚が国民投票によって認められました。カトリックの国としては異例中の異例です。これも「渦巻模様・ジャイア」が象徴する「全てには上も下もなく、大きな渦の中に平等に存在している」というケルト文化の考え方が国民に生きているからと言われています。

このケルトの神話もユニークです。神や妖精と人間が結婚し子どもが生まれたり、人がいろいろな動物に生まれ変わったり…。これも「大自然の中で、生きとし生ける全てのものの魂が絶えず巡っている」やはり「渦巻模様・ジャイア」が象徴するケルトの世界観がしっかり出ています。

ケルト神話

アーサー王

このケルト神話で1番有名なのが『アーサー王物語』でしょう。この『アーサー王物語』舞台はイングランドですがケルト=アイルランドの文化を色濃く映していて「フィン・マックール」と「フィアナ騎士団の物語」というアイルランドの神話がベースとも言われています。

岩から引き抜かれる王の剣の話や、魔術師マリーンの魔法、円卓の騎士(円卓の騎士はケルトの平等性の象徴だそうです)が有名な『アーサー王物語』。

この『アーサー王物語』をはじめケルト神話は、その後の『ハリー・ポッターシリーズ』や『指輪物語』『ロード・オブ・ザ・リング』などのファンタジー作品や『ファイナルファンタジー』などのゲームにも大きな影響を与えています。

またケルト文化では、神や妖精、人の住んでいる世界は近く、その境界線が曖昧であるという考え方をしていたそうです。

この考えを象徴しているのが「ハロウィーン」です。

実はハロウィーンとは、ケルトでの大晦日(10/31)に行われる収穫祭「サウィン」が元になっているそうです。大晦日、1年の終わりは、この世とあの世の境界線がなくなり、死者やモンスターが異世界からやってくるとされていました。そこでお化けに仮装して、モンスターたちの目を欺いたのが始まりと言われています。

ハロウィーン

アイルランドで育ち、ケルト文化に親しんでいた小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が日本で「怪談」を書いたのも、妖怪や幽霊が人間と共にいる日本の考え方に共感を持ったのからなのかもしれません。

日本で「ハロウィーン」が受け入れられている理由も、ひょっとしたらこの辺りの考え方に共通点があるからでしょうか。

セント・パトリック

さて、そんなアイルランドの源流であるケルト文化も5世紀に、キリスト教伝道師のセント・パトリックがキリスト教をもたらしたことで大きく変化します。

このセント・パトリックはイギリスに生まれましたが、16歳の時アイルランドの海賊に誘拐され奴隷として売られ6年間羊飼いとして働かされたそうです。そしてある日、脱出に成功。戻ったセント・パトリックは神学を学び宣教師になります。諸説あるそうですが、ある時、神様から「アイルランドへ戻って布教しなさい」というお告げを受け、セント・パトリックはアイルランドに戻ってキリスト教をもたらし、アイルランドの守護聖人として広く尊敬されています。

このセント・パトリックには数多くの伝説的とも言える話が残っています。

セント・パトリックの像

まず、セント・パトリックが布教に向かった当時、アイルランドにはケルト文化そしてドルイド教が根付いていました。そのため伝道師が赴いてもなかなかキリスト教を布教できなかったそうです。

そこでセント・パトリックは本来ドルイド教で火を焚いてはいけない日に、あえて火を焚いて注目を引いたそうです。そして、そのことで罰を受けるかと思いきや、当時のアイルランドの王がセント・パトリックのカリスマ性に感嘆し「まことの神から遣わされた」と信じたといいます。

これによりアイルランドにキリスト教がもたらされました。そしてセント・パトリックは12万人もの人々をキリスト教に改宗させたと言われています。

こんな逸話もあります。アイルランドにはなんと蛇がいないのだそうです。

そのアイルランドに蛇がいないのはセント・パトリックが追い出したからという話があります。

かつてアイルランド南部の湖に賢い蛇がいました。セント・パトリックはその蛇を箱のなかに閉じ込めて湖の中に投げ捨てたといいます。その時セント・パトリックは蛇に「明日になったら出してやる」と約束した上で蛇を箱に閉じ込めたそうで、その湖で漁師たちは箱に閉じ込められた蛇の「もう明日になったかな?」という哀れな声を聞いたという話が残っています。

また、セント・パトリックは太鼓を鳴らして蛇や危険な生き物たちをアイルランドから海へと追いやったそうです。これ以後、これらの危険な生き物はアイルランドの地に触れるだけで死んでしまうのだそうです。

そのためかアイルランドの材木で建てた建築物にはクモが寄り付くことは決してないと、ケンブリッジ大学の書物にも記載があるそうです。

セント・パトリックス デー

461年の3月17日にセント・パトリックは天に召されるのですが、友人や信者に「私が死ぬことを悲しまず、天国へ行く私のために祝って欲しい、そして心の痛みを和らげるよう、何かの雫を飲むように」という言葉を残したそうです。そのためアイルランドではウイスキーがよく飲まれるようになったそうです。

そして、このセント・パトリックが亡くなった3月17日は「セント・パトリックス デー」としてセント・パトリックの遺言の通り、世界中でアイルランド系の方々を中心にフェスティバルやパレードが行われています。

日本でも各地でこの「セント・パトリックス デー」のイベントは行われていますが、特に東京ではこのイベントが盛大に行われます。2020年から2022年はコロナの影響で中止されていましたが、昨年から復活。

私も代々木公園で行ったイベントに行かせていただきましたが、大変盛況で2日間の開催でなんと10万人の方が集まったそうです。

グリーン アイルランド・フェスティバル

そして、今年は昨年までの「アイラブアイルランド・フェスティバル」から名称を変えて「グリーン アイルランド・フェスティバル」として3月16日17日代々木公園パノラマ広場で開催されます。主催は在日アイルランド商工会議所(IJCC)。

この「グリーン アイルランド・フェスティバル」のネーミングの由来ですが、セント・パトリックはアイルランドでとても身近な存在だったシャムロック(グリーンの三つ葉のクローバー)を使って三位一体を説いたと言われています。

シャムロック クローバー

キリスト教の三位一体、つまり父である神と、神の子であるイエス・キリストと、聖霊の三つは一体のものであり、この三者は、唯一の神がそれぞれの姿で現れたものだという教義を三つの葉が一つになっているシャムロック(三つ葉のクローバー)を使って説いたのです。

その逸話からシャムロックはアイルランドの国花となり、そしてそのグリーンが国のシンボルカラーとして国旗の色にも取り入れられています。

ちなみにアイルランドの国旗は三色旗。左から緑・白・オレンジとなっています。

この色の意味は、先ず左端のグリーンがカトリック教徒、ケルト住民などの「伝統文化」を指し、右端のオレンジがプロテスタント教徒、イングラド系住民、つまり「新しい文化・イノベーション」を表し、真ん中の白が「両者の調和と協調と友情」を示しているそうです。

アイルランド国旗

さらにアイルランドは「エメラルドの島」と呼ばれていて、年中、緑が絶えることのない島だそうで、これらのことからアイルランドはグリーンという色をとても大切にしています。

そしてそこからセント・パトリックス デーのイベントを「グリーン アイルランド・フェスティバル」と名付けたそうです。

この「グリーン アイルランド・フェスティバル」ではアイルランドの音楽やダンスなどのエンタメなどを楽しみことができる他、たくさんのブースも出店しアイリッシュ ウィスキーやアイルランドの代表的なビールであるギネス ビール、そしてアイルランドの食事も楽しめます。そして普段はなかなか目にする事のないアイルランドのグッズなども手に入れることができます。

そしてこの時期、代々木公園あたりは、お花見も始まる頃。今年は昨年を大きく上回る2〜30万人の人手が予想されているそうでかなり盛り上がりそうです。

第29回 セントパトリックスデーパレード東京

また3月17日には13時から表参道で「第29回 セントパトリックスデーパレード東京」というパレードが行われます。これはアイルランドのシンボルカラーのグリーンを身につけた1500名ほどのパレードで、それぞれの参加グループがバンド演奏などをしながら楽しくパレードします。

左から在日アイルランド商工会議所会頭の土屋さん、在日アイルランド大使のコールさん(写真提供◎中脇さん)

ご案内した東京のイベントが日本では最大規模ではありますが、この3月17日近辺では日本各地でセント・パトリックスデー関連のイベントが行われているそうです。

是非是非、皆様もこのセント・パトリックスデーを祝うイベントにお出かけになりませんか。

お出かけの際は何かしらグリーンのものを身につけて行かれると一体感を感じられて楽しいかと思います。

詳しい情報は駐日アイルランド大使館がリリースしている情報のリンクを貼っておきますのでチェックしてみてください。

このアイルランドの話題。まだまだ音楽、ダンス、文学、食など言い尽くせておりませんので、次回も「グリーン アイルランド・フェスティバル」のレポートと共にお届けしたいと思います!

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