和田秀樹 人生100年時代において「ストレス」はムダでしかない!「このまま人生を終えていいのか」という疑問に対する私の答えとは

和田先生「家がストレスの原因になったときの精神的負担は計りしれない」(写真提供:Photo AC)
内閣府が公開している「令和4年版高齢社会白書」によると、65歳以上のひとり暮らしの人口に占める割合は、令和2年には男性15%、女性約22%と年々増加傾向にあるのだとか。そのようななか、6000人の死に立ちあってきた高齢者専門の精神科医・和田秀樹先生が語る「ほんとうに幸せな暮らしかた」とは。和田先生は、「家という場所がストレスの原因になったときの精神的負担は計りしれません」と言っていて――。

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【写真】「奥さんへの依存で夫婦関係は悪化する。本当に助け合わないといけなくなるまでは別行動すべし」と語る和田先生

「人生100年時代」だからストレスは人生のムダ

60歳ともなれば、夫婦関係も見直したほうがいいでしょう。ストレスを抱えながら夫婦生活を続けていくことは、人生のムダです。

現代は「人生100年時代」といわれています。

残りの人生もその人の面倒を看て暮らしていくのかをよく考える必要があります。家という場所がストレスの原因になったときの精神的負担は計りしれません。

熟年離婚や卒婚という言葉も、考えれば、自然の成り行きで生まれた言葉といえます。人生50年時代であれば、死ぬまで夫婦で暮らすことに問題は起こりませんでした。

しかし、寿命が大幅に延びたうえに、価値観が多様化した現在では、人生100年を添い遂げるべきとする婚姻制度は、明らかに無理があるのです。

若くして結婚した場合、乏しい人生経験で自分に最良の人を見つけるのは、そう簡単なことではありません。

何十年も同じ誰かと暮らしていくことは、そもそも人間の本能から見ると、かなり難しいことです。

行動に移したほうがいい

「このまま、自分の人生を終わっていいのか」という疑問は、誰をも悩ませています。考えた結果、離婚や卒婚に踏み切ることになっても、そのほうが悔いが残らないと判断したら行動に移したほうがいいのです。

世間的には、成熟を迎えた年代であり、もう大きな変化とは無関係な歳だと思われがちですが、60歳というのは、人生でほぼ最後の大転換期です。

『死ぬまでひとり暮らし ─ 死ぬときに後悔しないために読む本』(著:和田秀樹/興陽館)

やり残したこと、悔いが残ることがあれば、今こそ片付けておくべきときなのです

夫婦という身近な関係だからこそ、できるだけぶつからないように余計に気をつかいます。すると、どうしても遠慮が入り込んでくるのです。

つねに相手の機嫌を損ねないように言葉や行動に注意しながら、小さくなって暮らすことを強いられます。

そんな老後は、つまらなく惨めに思えます。

親の金をあてにする子どもたち

私は、老後に家族、特に子どもとの関係で苦労する高齢者を嫌というほど見てきました。下手に財産がある親だと、子どもはかなりの確率でそれをあてにするようになります。

親のお金なのに「いつか自分が手にするお金」と勘違いするのです。

節約のためといって、同居を強いてきた子どもと一緒に暮らし、遠慮しながら息をひそめて暮らしている人もいました(写真提供:Photo AC)

こうなると、子どもは親の行動にいちいち制限をかけるようなことをいってきます。

ひとりで設備のいい老人ホームに住もうとしたら「そんなにお金をかけて、貯金がなくなったらどうするの。お父さんの老後が心配」などと、もっともらしいことをいってランクの低い老人ホームをすすめてきたりするのです。

節約のためといって、同居を強いてきた子どもと一緒に暮らし、遠慮しながら息をひそめて暮らしている人もいました。

ストレスの素

妻との死別をやっとの思いで乗り越え、素敵な女性と巡り合い、再婚を決めたのに「財産目当てに違いない!」と猛反対され、泣く泣く諦める人も少なくありません。

よしんば、その相手が財産目当てだったとしても、日本の法律では、死んでからでないと、財産を相続できませんから。実際、老後の面倒を看てくれるのに。

こんなふうに、自分のやりたいことを邪魔してくるのが子どもや家族なら、それは足かせでしかありません。

家族や子どもとの関係も一つの人間関係です。他人ではないぶん、甘えが入ります。実はそこに、ストレスの素が隠れているのです。

いつまで経っても「自分には責任があるんだ」と考える必要はありません。責任は十分果たしてきました。

家族や子どものほうも、本当はもうかかわって欲しくないと思っている可能性さえあります。もう、それぞれ違う道を歩んでいるのだと割り切って、ある程度距離を置いたほうがいいのです。

高齢に近づくということは、背負い込んできたものから一つずつ自由になることです。代わりに、自分で毎日の暮らしを楽しむ知恵や工夫が必要になってきます。

もうノルマの連続の人生ではないのですから、慌てず急がず、好きなように暮らしていきましょう。

※本稿は、『死ぬまでひとり暮らし ─ 死ぬときに後悔しないために読む本』(興陽館)の一部を再編集したものです。

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