努力する自分を決して否定しないゆりやんレトリィバァ 映画出演作で光るその内面

(c)『スパゲティコード・ラブ』製作委員会

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 圧倒的な存在感を持つ芸人として注目を集めるゆりやんレトリィバァさん。最近も45キロのダイエット成功や雑誌「GQ JAPAN」(コンデナスト・ジャパン刊)が主催するアワードで「メン・オブ・ザ・イヤー・ベスト・コメディアン賞」を受賞するなど、話題は尽きることがありません。一方、磨き続けている芸からは努力家の一面も感じる機会も増えました。熱心に勉強して習得した英会話、それを武器に米国のオーディション番組に乗り込んだ度胸と強い意志は、そうした内面があってのものなのでしょう。映画出演作『スパゲティコード・ラブ』では、それを“別の角度”から感じられるようです。映画ジャーナリストの関口裕子さんに解説していただきました。

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他の芸人では考えられないユニークな個性

 独特な笑いで場をさらうピン芸人、ゆりやんレトリィバァ。独創的な物語の世界観を醸すのがうまく、主人公として笑いを展開させるその芸風から、映画やドラマへの出演も多いような気がしていた。しかし意外にも、映画への出演は丸山健志監督『スパゲティコード・ラブ』(11月26日公開)がほぼ初めてなのだ。

 ゆりやんは2019年、米国のオーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント(America’s Got Talent)」に出場。合格には至らなかったが、海外での活動に向けて本気で動いているという意志表示と存在感で大きなインパクトを残した。

 確かに英語を使ったハリウッド女優なりきりのネタなどはある。ただ、日本で行っているそれらのお笑いがグローバルを意識してのものかというとそんなこともない。むしろ日本の仕事も、海外での仕事も、彼女は同じものと感じているのではないか。

 下ネタも臆さず、ツッコんでくれる相方という助けも持たず、ボケてボケまくる。「アメリカズ・ゴット・タレント」で着用した星条旗柄の際どい水着がなぜかまったくいやらしさを感じさせないように、他の芸人では考えられないユニークな個性を持っている。

 その個性が下ネタも、収めてくれる相方を持たないがゆえに浮遊するボケも、ゆりやんにしか生み出せない独特の笑いへと変えていく。

『スパゲティコード・ラブ』の中でゆりやんが演じたのは、ストレスによってピーナツバターを食べるのが止められない引きこもりの目黒梅子。失恋のショックで同様に引きこもっている安アパートの隣人、渋谷桃子(佐藤睦)が電話しまくった挙げ句に友人をなくし、怪しげな電話占いに大金をつぎ込む一部始終を耳にしている。

人生に迷いながらクリエイターを目指す13 人の若者を描いた群像劇

『スパゲティコード・ラブ』は東京を舞台に、存在意義や居場所、愛について模索する13 人の若者を描いた群像劇だ。その多くがクリエイターを志す。登場人物たちと同世代の10代、20代でクリエイター志望の方が観ると、胸が張り裂けるように痛む作品かもしれない。その年齢を遥か過ぎても、一生フタをしたつもりで胸の片隅にひっそりくすぶらせていたものの存在を思い出させられる作品なのだから。

 不要不急が叫ばれた時代に生み出された、“ものを創り出そうとする者たち”の映画。そんな現代を生きる彼らの痛みを、SNSというコミュニケーションツールが増幅させる。ものを創り出すということ、SNSでつながるということ。その2つについて考えてみること。それこそがこの映画を作ろうとした理由なのではないか?

 13人の誰もが「寂しいなと一瞬だけ思う。一瞬だけど。でもその一瞬は本当に寂しい」と思っている。「幸せになりたい。でもやり方が分からない」と。

 モデルの綾瀬夏美(香川紗耶)が言う「顔で1か月、セックスで3か月。それ以上つなぎ留められるものが私には何もない」。カプセルホテル暮らしの大森慎吾(清水尋也)は、「森の奥で倒れた木の音はないのと同じ」だと思っており、Facebookに5000人のフォロワーを持つ自分も森の奥で倒れる木だと思っている。路上ライブを続けるミュージシャンの桜庭心(三浦透子)は、「大好き」な気持ちが「執着」を生むのだと考え、すべてを手放そうとする。

(c)『スパゲティコード・ラブ』製作委員会

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登場人物らを見守る存在として配役されたゆりやん

 梅子を演じるゆりやん本人は、この13人の誰とも似ていないように感じる。

 子どもの頃から憧れであった芸人になるため、大学の単位を3回生までにすべて取得。NSC(吉本総合芸能学院)に入学するが、その入学金もアルバイトをして貯め、用意していた。NSCは首席で卒業。卒業生による「NSC大ライブ2013」にも優勝し、優勝特典であるその年の4月以降のスケジュールがすべて仕事で埋められた手帳を手にし、順風満帆なスタートを切った。

 挫折や失敗もあるというが、それは自己否定的なものではなく、「どうやったらウケるのか?」というネタについての悩み。芸人であるという根本は揺らがない。そんなゆりやんが、自己肯定できる確かなものをめぐって、グラグラしっぱなしの『スパゲティコード・ラブ』の世界を構成する一人となっている。

『スパゲティコード・ラブ』は丸山監督のキャスティングがとても興味深い。たぶんゆりやんは役柄同様、そんな登場人物らを見守る存在として配役されたのではないか。

丸山監督がゆりやんに“演じさせよう”としたものは何だったのか

 ゆりやんは今年、話題を呼んだTBS日曜劇場「ドラゴン桜」に、英語の特別講師である由利杏奈として登場した。由利杏奈は生徒たちに「(英語が)うまくなるコツは適当とモノマネやで」とオーバーアクトぎみに語る。

 その自信に満ちたさまは、リスニングに構える生徒たちを一段引き上げることになった。この英語勉強法は、自身が学生の時に自己流にやっていたものなのだそう。

「適当」。もちろんゆりやんは適当な人物ではない。適当ではないが、そんな風に肩の力の抜くことこそ、人生経験を積んでもなお、かなり難しいことのように思う。

「アメリカズ・ゴット・タレント」でインパクトを残しても、米国での仕事につながった気配はまだない。彼女自身も試行錯誤なのだろう。でも「劇場に出るのが楽しくて仕方ない」というゆりやんは、そこで面白い芸を披露しようと努力する自分を決して否定することはない。

 丸山監督がそんなゆりやんに“演じさせよう”としたものは何か? そんな風に考えながら観ると、『スパゲティコード・ラブ』はかなり面白い。13人の個性ある若手俳優の現代の在りようとしても、見逃したくない作品であるし。

『スパゲティコード・ラブ』 11月26日(金)渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開 配給:ハピネットファントム・スタジオ (c)『スパゲティコード・ラブ』製作委員会

◇関口裕子(せきぐち・ゆうこ)
映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」取締役編集長、米エンターテインメントビジネス紙「VARIETY」の日本版「バラエティ・ジャパン」編集長などを歴任。現在はフリーランス。

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