ねこの悩みを聞き最適な柄・色を塗る職人「猫塗り屋」 話題の漫画の作者に思いを聞いた

漫画のワンシーン【画像提供:清水めりぃ(@zatta_shimizu)さん】

漫画のワンシーン【画像提供:清水めりぃ(@zatta_shimizu)さん】

 ねこのさまざまな悩みを受け止め、いちばん愛される柄・色に塗る職人とねことの物語を描いた漫画「猫塗り屋」(KADOKAWA刊)。2018年からツイッターで公開されていましたが、今年4月に単行本になりました。作者は、こちらもツイッター発の人気漫画「ブラック企業の社員が猫になっていた会社員・モフ田くんの場合」(KADOKAWA刊)でおなじみの清水めりぃ(@zatta_shimizu)さん。ねこへの深い愛情に包まれた今作に込めた思いについて聞きました。

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日本一の職人の元へ救いを求めやってくるねこたちの物語

「ねこのお悩みは柄の『塗り直し』で解決されちゃう!?」

“ねこラバー”なら、思わず手に取りたくなるキャッチコピーではないでしょうか。「猫塗り屋」とは、ねこの品種を守りつつ、健やかな“猫生”を支える「ねこのセラピスト」。ざっくり言うと、ねこの悩みを解決してくれるカウンセラーのような職業。

「新しい自分に生まれ変わりたい!」と相談にやってくるねこたちの悩み1つ1つを受け止め、「モヤモヤ」を解決すべく柄・色を塗り替えるお仕事なのです。

 日本一の猫塗り屋“歌国芳春(ほうしゅん)”のもとで2年ほど修業を積み、独立した“歌国白妙(しろたえ)”のもとに、救いを求めて訪れるさまざまなねこたち。でも白妙は、ねこの希望する柄・色をそのまま塗るわけではありません。

 ねこの悩みに寄り添い、一定期間だけ毛の色を変えられる「一日絵具」や「一か月絵具」「三か月絵具」などを使いながら、その子にあった解決法を示していくのです。

第1話のワンシーン。三毛ねこの「りん」【画像提供:清水めりぃ(@zatta_shimizu)さん】

第1話のワンシーン。三毛ねこの「りん」【画像提供:清水めりぃ(@zatta_shimizu)さん】

奥深いストーリーに愛猫家なら思わず涙!?

 2018年6月に公開され、単行本ではフルカラーで新たに描き直された第1話では、三毛の「りん」が「ロシアンブルーになりたい」とおねだり。「いつも三毛柄だと飽きられて捨てられちゃうかも……」。そう心配して白妙にお願いするのですが、白妙はりんを今までと同じ三毛柄に塗り直します。

 鏡を見て驚き抗議するりんに、白妙は優しくこう諭すのです。「お前は三毛柄が一番かわいいの。飽きたりしないから、一生三毛柄に塗らせてね」

 ねこを誰よりも深く愛し、敬い、大切に考えられなければそう簡単にはできないお仕事。白妙のりんを思う姿に、我が子を重ねて思わず涙してしまう方は多いのではないかと思います。

第4話のワンシーン。般若顔の個性派ねこ「はにゃ」【画像提供:清水めりぃ(@zatta_shimizu)さん】

第4話のワンシーン。般若顔の個性派ねこ「はにゃ」【画像提供:清水めりぃ(@zatta_shimizu)さん】

人間の「愛したい」「愛されたい」思いはねこと同じ

 ねこの悩みはまさに“十猫十色”。愛しの長毛彼女に好かれようと「青い瞳のモフモフペルシャになりたい」と訪れる短毛ねこがいたり、自分だけ柄が違うことを憂い「他のきょうだいと同じ黒猫にしてほしい」と懇願するサビ柄の子ねこがいたり……。その激レアさゆえに幾度も人間に追われ「真っ白に塗り替えてほしい」と逃げ込んできた三毛のオスねこも。

 そのどれもがねこだけに限ったことではなく、人間と結び付くものばかり。

「『美人、イケメンになりたい』『誰かと出会いたい』などの根源の部分に『愛されたい』『愛したい』といった渇きがあって、ねこちゃんもそれは同じように思っているのではないかと考えています。猫塗り屋のメインテーマになっているものは“愛”。そこは変えずに、1冊分通して描かせていただきました」と清水さんは言います。

 2018年7月に公開された第4話では、生まれつき般若のような顔で人間から疎まれ長い間つらい思いを抱えて生きてきたねこが登場。「いっそ消えてしまいたい」。そう願っていたら、気付けばその通りの透明な姿になっていたとか。

 こうして誰の目にも触れることがなければ、見た目のせいでいじめられることもない……。そう思っていたものの「猫生で一度でいいから誰かに愛されたい」「『あの時だけは幸せだった』そう思える一瞬が欲しい」と白妙のもとへやってきたのです。

 この告白に心を大きく動かされた人はとても多かったと清水さんは言います。誰かに愛され必要とされてこそ、自分が自分でいられる。幸せを感じられる。私たち人間も同じですよね。人は1人では生きられない。そして幸せになりたいと願わない人はいないはず。

 白妙に塗り直され「はにゃ」ちゃんと名付けられたそのねこは、その後白妙の紹介でほぐし屋さんの飼いねこに。

「個性的でかわいいもの!」

 般若のようなお顔を個性として受け止めてくれたほぐし屋さんの言葉に、はにゃちゃんはこれまでにない喜びや幸せを感じたことでしょう。

「素直で健気なはにゃちゃんが好き! とおっしゃってくれる方も多くて、とてもうれしいです。たくさん愛されているので、きっともう二度とあのような姿になるようなことはないと思います。」と清水さん。はにゃちゃんの幸せそうな顔を見ると、とても幸せな気持ちになります。

第11話のワンシーン。「ピーチさん」【画像提供:清水めりぃ(@zatta_shimizu)さん】

第11話のワンシーン。「ピーチさん」【画像提供:清水めりぃ(@zatta_shimizu)さん】

どんな色柄でも、生まれも育ちも関係なくねこは愛されるべき

 どのストーリーにも清水さんのねこへの優しい気持ちが感じられますが、特に印象深かったのは、第11話の「ピーチさん」というねこが出てきたお話。

 モデルねことして活躍していた白ねこのピーチさんは、その見た目にこだわりすぎたゆえ、ちょっとした見た目の変化を機に以前とはまったく違う風貌に……。

「『どんな色でもどんな柄でも、生まれも育ちも関係なくねこちゃんは愛されて然るべき』。もしこの時点でピーチさんにこのセリフを言ってくれる人が身近にいれば、あんなことは起こらなかったかもしれません」

 清水さんは「どうやって渇きを潤すか」という部分で、毎回苦心していたといます。ピーチさんの苦しさを描いていた時、清水さん自身もとてもつらかったそう。

 ピーチさんを責めることなく、ただただ気持ちに寄り添う白妙。そしてピーチさんの心がほどけていくシーンは何度見ても心がキュッと掴まれます。白妙の温かい言葉に、そして傷付いたピーチさんを全力で助けたいと奮闘する弟子の田宮くんの優しさに、ピーチさんはどれだけ救われたでしょう。

「猫塗り屋」を読み終えた後、誰もが我が子の柄・色をより一層愛おしく感じるのではないでしょうか。「そのままでいいんだよ。そのままが大好きなんだよ」と言って、愛するねこを抱きしめてあげたくなる。そんな素敵なお話でした。

「ねこはその姿、性格、仕草すべてがかわいい。別に見た目なんて気にしなくていいのに、どうしても気にしてしまうねこちゃんが現れる。けれど『そんな悩みは、本来持たなくていいものなんだよ』という気持ちで話を描いていました」と清水さんは言います。

 読み進めるほどねこのことが愛おしくなる「猫塗り屋」の世界。自身もねこ2匹と一緒に暮らす大のねこ好きだからこそ、全編を通して温かくねこ味(人間味)のある世界観が広がっているのだろうと思います。その不思議ワールドにどっぷり浸かってみてはいかがでしょうか。ねこを愛するすべての人に贈りたい一冊です。

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