3COINSのメンズコスメで四十過ぎのオッサンがベースメイクを始めてみたら

爪切男「午前三時の化粧水」

3COINSのメンズコスメで四十過ぎのオッサンがベースメイクを始めてみたら

ドラマ化もされた『死にたい夜にかぎって』で鮮烈デビュー。作家としての夢をかなえた爪切男が、いま思うのは「いい感じのおじさん」になりたいということ。これまでまったく興味がなかったのに、ひょんなことから美容と健康に目覚め……。中年男性が本気で挑む美容と健康にまつわるエッセイ連載です。

前回は健康診断の結果を経て、人生はじめての胃カメラ体験をしたエピソードでした。
今回は3COINSのメンズコスメブランドで初めてのベースメイクに挑戦。
(イラスト/山田参助)

第41回 おじさんはコスメティックに生きたいの

(イラスト/山田参助)

(イラスト/山田参助)

 久しぶりに化粧をしてみたいと思い立ったのだ。
 
 そうはいっても、ちゃんとメイクをした経験なんてほとんどない。ヴィジュアル系バンドにドハマりしていた高校生の頃に、顔中にファンデーションを塗りたくって登校していたぐらいのもんである。
 メイクの基礎など知らず、ニキビ跡を消そうとただひたすらにファンデーションを塗り重ねた結果、首は肌色なのに顔だけ真っ白という見事な白浮き肌の出来上がり。敬愛するBUCK-TICKの櫻井敦司の艶肌を目指したつもりが、その姿は志村けん扮するバカ殿様に他ならなかった。
 抑えきれない感情の暴走と未熟な自己表現こそが青春だと定義するならば、あの白塗りメイクは私の人生における数少ない青春だったように思う。

 今回挑戦するのは、そのような分かりやすいメイクではなく「ベースメイク」である。日々の洗顔、化粧水、保湿などのスキンケアではどうしようもできないシワ、シミ、くすみをカバーして、綺麗な素肌に見せるためのメイク、それがベースメイクである。
 基本となる工程は化粧下地、ファンデーション、フェイスパウダーの3つ。
 ファンデーションのノリを良くし、肌色の調整と共に紫外線や乾燥から肌を守るための化粧下地。色ムラや赤みをカバーし自分好みの肌を演出するためのファンデーション。そしてフェイスパウダーを用いて、化粧崩れを防止するといった流れである。
 文章にして書いているだけで正直面倒臭い。それに加えて、いったい何から買い揃えればいいのか皆目見当もつかない。メイク用品は、一個何千円もする代物も多いので失敗は許されない。
 デパートの化粧品売り場やドラッグストアに足を運ぼうかとも思ったが、メイク用品を購入するのは、化粧水やシートマスクを買うよりも恥ずかしい。「四十過ぎの小太りのオッサンがメイクをする」という現実が、ここにきて大きくのしかかってくる。もう通販に頼るしかないかと諦めかけたとき、私は救世主に出会った。

 近所にある3COINS(スリーコインズ)で、GENAU(ゲナウ)というメンズコスメブランドが今年の2月から発売されていたのである。スリーコインズなんて普段はあまり近づかないのだけど、恋人から頼まれたおつかいで立ち寄ったときにゲナウの存在に気付いてしまった。

 男性が初めてメイクをする際に必要なアイテムが安価で手に入るということで、ローション、ゲルクリーム、コンシーラーペンシルなどがラインナップされている。全てが300円というわけではないのだが、高い物でも800円というなんとも手頃な価格である。そういえば最近、ダイソーを代表とする100円均一ショップで売られているコスメ用品の中にとんでもない逸品が含まれているとYouTubeやテレビで目にしたことを思い出す。
 高級品でもなく、100均でもなく、それよりちょっとだけお高いスリーコインズというのが、人とはちょっと違うものを使いたいという私らしいセレクトのような気がする。ちなみにゲナウとはドイツ語であり、「ちょうどいい」という意味らしい。『ノッキン・オン・ヘブンズドア』に『善き人のためのソナタ』といったドイツ映画が大好きで、モーブスというドイツブランドの靴を愛する私とは浅からぬ縁を感じる。時代はドイツだ。よし、ゲナウ、君に決めた。

 とはいえ、メイク用品だけ購入するのはやっぱり気恥ずかしいので、彼女に頼まれたおつかいの品に加え、特に必要のない生活用品を大量に買い込んでカモフラージュを図る。結局出費がかさんでいる気もするが、そこは考えないようにする。

 紆余曲折の末、今回購入したのは以下の品々。

今回、購入した商品。

今回、購入した商品。

 クレイ洗顔フォームとアクネゲルクリーム、アクネケアローションを少々お高い800円で購入。目の下のクマやシミを消すためのコンシーラーペンシルと化粧下地、日焼け止め、ファンデーションの効果を兼ね備えたBBクリームを500円で、メイク用品とは別に、泡立てネットに、ハンドクリーム、ロールオンフレグランスを300円で買い揃えた。これだけ買っても5千円を超えないのだから素晴らしい。株の売買でもそうだが、やはり初期投資は少額から始める方が失敗をしたときのショックが少なくていい。本当はリップスティックも欲しかったのだが、人気商品らしく品切れとなっていた。残念ではあるが、メンズメイク商品が注目を集めているのはちょっと嬉しくもある。

 その日の夜、さっそく実践に入る。おニューの洗顔ネットでしっかり泡立てた洗顔フォームで顔を洗い、そのあとにローション、ゲルクリームを丹念に塗り込む。BBクリームで下地を整えてから、コンシーラーペンシルで、気になる顔のシミを隠していく。なんとも地味な行程だが非常に楽しい。こういうコツコツ作業はあんまり得意じゃないのだけれど、何時間でもシミ消しに没頭できそうだ。

BBクリームを塗ります。

BBクリームを塗ります。

コンシーラーでシミ消し中。

コンシーラーでシミ消し中。

 しみじみ思う。こういうことを毎日毎日繰り返している女性ってとんでもない生き物だなぁ。デートに行く前などに「支度が長すぎるんだよ」なんて失礼なことを言っていた過去の自分を殺したくなる。メイクってしっかりやりたいよね。うん、今ならわかるよ、その気持ち。過去の恋人たちに犯した罪が消えることはないが、顔のシミなら少しは消せる。皮肉なもんだ。これから先もずっと、シミ消しをするたびに、私は彼女たちのことを思い出すんだろう。

メイク前。

メイク前。

メイク後。

メイク後。

 そんなこんなで、ベースメイクが終了。
 メイク前とメイク後の比較写真が上の写真になるが、いかがなもんでしょうか。あまり変化がないように見えるだろうが、顔のシミが全然目立たなくなっているのである。写真では伝わりにくいのが悔しい。やり過ぎ感を出さないように、自然なツヤと血色を意識して仕上げただけでもこんなにも効果があるなんて。ベースメイクおそるべし。
 皆さんからすると、サイゼリヤの間違い探しのイラストぐらい違いがわかりにくいかもしれないが、自分の中では明確な違いを感じている。
 
「すごいじゃん! シミが消えてるよ!」と、メイクを指南してくれた恋人が自分のことのように感動している。
 そうか、こういうちょっとした変化に気付いてもらえたら確かに嬉しいよな。髪を切ったとかそういうレベルじゃなくて、ちょっとしたメイクの変化にも気付けるイカした男になりたいぜ。それとは逆に、メイクをあまりしない人のことをだらしない人だとか思うのもやめたい。こんな大変な作業、できない日もありますわいな。自分でメイクをしてみて心からそう思う。

 私のメイク技術がおぼつかないために、劇的ビフォーアフターのような結果にはならなかったが、私は充分満足している。高校生のときのような皆の目に留まりやすい派手なものではなく、自己肯定感が少し上がるぐらいの自然なメイクを心がけていくことにしよう。幸いにも私の傍には、生活の些細な変化だけでなく、メイクの良し悪しにも敏感に気付いてくれる素敵な恋人もいるのだから。

 メンズコスメにおいて大事なこと、それはやはり「始めやすさ」なのだと思う。ゲナウをはじめ100円均一ショップのコスメ用品は、気楽に試せるメイク入門編として最適なのではないか。ほら、音楽だってそうでしょう。スラッシュ・メタルとかハードコア・パンクとかちょっと凝った激しい音楽を聴いてる人も、最初はボン・ジョヴィやミスター・ビッグから聴き始めたもんでしょう? いろいろ言いますけれど、なんだかんだいってB’zのことがみんな好きでしょう?
 とまあ、音楽に限らず、どんなジャンルでも新規参入者に優しい、手頃なものって絶対に必要だと思う。
 格式ばったちょっと敷居の高い高級キャバクラよりも、気楽にお酒が飲める場末のガールズバーの方が居心地が良いことってありませんか。
 それに定価が安いのに、めちゃくちゃ優れモノを見つけたときの喜びっていったらない。たとえるなら、テレクラで顔も見ずに待ち合わせた女性がとんでもなく性格の良い子だったときの喜びにも似ている。
 以上のようなたとえから、このエッセイがスリーコインズの企業案件でないことだけは分かっていただけたら幸いです。
 さあ、今日もメイクを始めよう。まずは洗顔からだ。
 ボン・ジョヴィの「リヴィン・オン・ア・プレイヤー」を口ずさみながらご機嫌で顔を洗う私なのであった。

ボン・ジョヴィを熱唱しながら顔を洗う爪切男。

ボン・ジョヴィを熱唱しながら顔を洗う爪切男。

当連載は毎月第2、第4日曜更新です。次回は4月14日(日)配信予定です。お楽しみに!

ジャンルで探す