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息子に見えている母の顔

息子に見えている母の顔

めくるたび、どんどん怖くなる。
『一行怪談』で知られる吉田悠軌さんの書き下ろし怪談集『日めくり怪談』から選りすぐりのお話をご紹介します。
1日5分の恐怖体験をお楽しみください。

息子に見えている母の顔

「ママの顔、お尻みたい」
 
 三歳になった息子が、突然そんなことを言い出した。
 ちょっと待て。私の顔、そんなにプックリふくれてるか?
 正直、ショックですよ。お酒は飲まないし、それなりに甘いものも控えてるし。まあ軽口をたたけるようになったのは成長でもあるから、それはそれで喜ばしい……のかな。
「お尻、お尻、変だよ、お尻みたい」
 息子の指摘は日に日にエスカレートしていく。まったくもう、変なアニメの影響だろうか。一日一回は、文句じみた口調でこちらの顔をけなしてくる。

「そういうこと、人に言っちゃダメでしょ」
 さすがにこの辺りで釘を刺しておかねば。保育園で友だちや保育士さんにまで、こんなセリフを吐かれたらたまったものではない。
「なんなの、お尻って。ママのどこがどうお尻なの?」
 真面目な顔で問いただすと、息子も一瞬は黙りこんだ。しかし、こちらの顔をじいっと見つめた後、とんでもないことを言い出したのだ。

「……お尻の穴」
 は?
「だってお尻の穴みたいだもん」
 いくらなんでもまあ……。ぷくぷくほっぺがお肉みたい、というならまだ可愛げがあるよ。だけど、よりによって穴の方かよ。勝手に勘違いしてた私がバカみたいだよ。
「あ、そう。そんなにクシャクシャなんですか」
「たまにね」
 息子はぷいっと隣室に走っていった。

(イメージ画像/写真AC)

(イメージ画像/写真AC)

 その後、二人での夕飯もなんだか話がはずまない。大人げないのはわかってるけど、さすがに私も楽しい気分じゃないし、息子は息子でどうもこちらと距離を置いている様子。
 そう、そうなのだ。よく考えてみれば「お尻発言」の時の息子はいつも、ふざけて笑っている感じではない。冗談ではなく、私の顔を本気で気持ち悪がっているような……。
 おいおい、だとしたら、それこそ、マジでやばいでしょ。そんなに母親の顔を嫌う幼児ってなによ。ダメだ泣きたくなってきた。
 
 その夜は結局、寝かしつけるまで息子とギクシャクし続けてしまった。
 さすがに気が重くて眠れず、いつもは待たない旦那の帰りを深夜まで待った。どうせ笑い飛ばされるだろうけど、これまでの件をあらいざらいぶちまけ、愚痴をこぼすためだ。
 ただ意外にも、旦那の反応は神妙なものだった。
「ごめん。隠してたけど、これ」
 なんだか青ざめた顔で、自分のスマホの画像を見せてくる。この前、遊園地に家族で行った時の写真だ。表示されていたのは、私と息子のツーショット。それを見た瞬間、思わずスマホを落としそうになった。
 
 私の顔が、のっぺらぼうになっている。
 いや違う、ぎゅうっと絞られたように歪んでいるのだ。
 目も鼻も口も、異様なまでに奥へひっぱられ、中心に集まっている。
 うずまきのような、ねじれた顔面。
 夫は黙ったまま、震える指を画面に置き、次々と画像をスライドさせていく。
 その日写された、どの私も、どの私も、同じ顔をしていた。

1日5分の恐怖体験、いかがでしたか?
『日めくり怪談』は毎日読んでもひと夏楽しめる、全62話を掲載。
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7月の『日めくり怪談』特集一覧
7月2日 夜道を歩く女性の二人組が向かう先
7月4日 設置されては撤去されるブランコの秘密
7月6日 クラスメイトの机に置かれた手紙
7月9日 誰も来ないはずの男子トイレで目にしたもの
7月13日 息子に見えている母の顔
7月15日 内線電話から聞こえてくる声
7月19日 祖母に禁じられた遊び
7月22日 僕にだけ聞こえてくる音

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