「ボブ・ディランはすごい!」といわれても…、そんな疑問にやさしくていねいに答える

ボブ・ディラン

『ボブ・ディラン』(新潮社)著者:北中 正和

「ボブ・ディランはすごい!」といわれても、いまひとつピンとこないという人は多いと思う。ぼくもそうだ。たしかに「風に吹かれて」は名曲だけど、ほかはよく知らない。美声とはほど遠いダミ声だし。ましてや、なんでノーベル文学賞?

そんな疑問に北中正和はやさしくていねいに答える。ディランの音楽をコンパクトに伝える新書だ。

デビューから60年余りのディランの軌跡は、誤解とレッテル貼りと非難、そして再評価の連続だった。たとえば、「フォークのプリンス」と持ち上げて、彼がエレキギターを弾くとブーイングを浴びせた。

象徴的なのは1970年発表のアルバム「セルフ・ポートレイト」。評論家は音楽誌で「このクソは何だ」とこき下ろした。ところが43年後、未発表音源も含めた「アナザー・セルフ・ポートレイト」が出ると、同じ評論家がこんどは大絶賛したというのだ。ディランの名声が高まって評論家が日和ったというわけはない。43年前は意図が分からなかったのだ、評論家も音楽ファンも。たしかにいま聴くと、いい。

ディランはいつだって、ぼくらの先にいる。

【書き手】
永江 朗
フリーライター。1958(昭和33)年、北海道生れ。法政大学文学部哲学科卒業。西武百貨店系洋書店勤務の後、『宝島』『別冊宝島』の編集に携わる。1993(平成5)年頃よりライター業に専念。「哲学からアダルトビデオまで」を標榜し、コラム、書評、インタビューなど幅広い分野で活躍中。著書に『そうだ、京都に住もう。』『「本が売れない」というけれど』『茶室がほしい。』『いい家は「細部」で決まる』(共著)などがある。

【初出メディア】
毎日新聞 2023年3月25日

【書誌情報】

ボブ・ディラン

著者:北中 正和
出版社:新潮社
装丁:新書(192ページ)
発売日:2023-02-17
ISBN-10:4106109867
ISBN-13:978-4106109867

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