かつてAV界の頂点を極め、そしてすべてを失った男。その破天荒な人生のすべて

『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版) 著者:本橋信宏


今回はじめて明かされる衝撃の告発が連発!

「ナイスですねーーー!」

村西とおる。BVDのパンツをはいてバブルの時代を走り抜けた男。かつてAV界の頂点を極め、そしてすべてを失った男。その破天荒な人生のすべてを語る本がついに登場した。『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版)である。著者、本橋信宏はかつて村西の自伝『ナイスですね』(JICC出版)の書き手もつとめ、村西とは浅からぬ関係を持つノンフィクション作家。まちがいなく決定版の伝記である。一読巻を措く能わず。

村西とおる、本名草野博美は1948年、福島県に生まれる。19歳のときに上京して池袋でバーのボーイとして働く。ほどなく百科事典のセールスマンの仕事をはじめるとこれが大成功。全巻セットで20万円という高額の英英辞典を最低週に5冊は売るという強腕を発揮してたちまちトップセールスマンにのし上がる。ほどなくゲーム機(スペースインベーダー!)のリース業をはじめると、北海道の自衛隊基地周辺のPXを中心に置いてこれまた大成功。

1980年、新しいゲーム機を仕入れるためにやってきた東京で、村西はビニ本を発見する。これだ! と見込むとゲーム機で稼いだ現金をすべて投じて札幌にビニ本屋を設立、「北大神田書店」というグループを立ち上げる(北海道と言えば北大だ! と無意味に大学名をつけ、これに書店の本場は神田神保町だからとなんの関係もない神田の地名を取ったのだという。のちに各地に進出すると「名大神田書店」「阪大神田書店」と謎の名前のグループとなった)。当初は東京で仕入れたビニ本を売っていたが、やがて自分でビニ本や裏本を作るようになる。ブームの真っ最中で狂ったように売れ、しまいに3億円で印刷所を買って製造から販売まですべてやるようになったという。調子に乗って出版社まで設立、『FOCUS』に対抗して隔週の写真週刊誌『スクランブル』を刊行(本橋はこの雑誌の編集長であった)。だが乱脈経営によりグループは崩壊、村西はわいせつ図画販売の罪で逮捕されてしまう。

だが、そこからが本番だった。

執行猶予つきの有罪判決を受けた村西は、ビニ本時代の同業者たちがAVに進出しているのを知る。そのあとを追うようにしてビニ本版元の男と組んでクリスタル映像を立ち上げた村西は、ビデオ監督に乗りだす。監督の仕方など何も知らなかったが(フレームもパンも知らなかったので「今度下から上にずーっとあげていって」と指示して女優に呆れられたという)、しゃにむに撮りつづけるうちに、「ナイスですね!」に代表される独自の言語感覚が評論家やユーザーに届くようになり、ついに黒木香との出会いによってビッグ・バンが起こる。『SMぽいの好き』(86年)は黒木香という特異な女優の持ち味が、村西によってクローズアップされた結果生まれた奇跡の1本であった。村西はダイヤモンド映像を設立。卑弥呼、田中露央沙、松坂季実子ら専属女優を抱え、我が世の春とばかりに稼ぎまくる。だが、やがて……。

この驚くべき浮き沈み人生。だがもちろんこれはごくその一部に過ぎず、その合間にはたび重なる逮捕がある。ハワイで逮捕されたときには実に懲役370年を求刑され、さしもの村西も檻の中で朽ち果てることを覚悟した。あるいはジャニーズ事務所との抗争がある。村西はジャニーズ事務所への刺客として北公次を見つけ出し、マジシャンとして復活させようとする。

だが、それもまだ、公にできる氷山の一角でしかない。本書には、本橋が「今回はじめて明かす」とする衝撃の告発がいくつも掲載されている。なぜ村西は堂々と裏本帝国を経営できたのか? なぜ執行猶予中に逮捕されたにもかかわらず、不起訴処分で済んだのか? いずれもここでは書けない事実なので、ぜひ実物をあたっていただきたい。前者については「北海道だからな……」と納得する向きもあるかもしれない。とってつけたように「警察と検察は頭がいい役人が集まっている」とリップサービスしてみせるのが逆におそろしい。

村西は口舌の徒である。スーパーセールスマンとなった理由を、本橋は村西の「応酬話法」に求める。相手が何を言おうともそれを言いくるめてしまう無限の屁理屈。それはAVでは女優を口説くために使われ、「人たらしの名人」として多くの人をたぶらかすのに用いられる。村西とおる自身が、ある意味では「信用できない語り手」なのである。あるいは本橋もまたその魔術にかかった人なのかもしれない。村西とおるについては高槻彰監督による伝記映画『ナイスですね 村西とおる』が作られている(2017年公開?・ALL REVIEWS事務局注:公開は確認できず)が、それは人たらしの魔術師との苦闘を描いたセルフ・ドキュメンタリーと言ってもいいかもしれず、本書と併せてぜひ観ていただきたい。

【書き手】
柳下 毅一郎
映画評論家、英米文学評論家。1963年生まれ。訳書にR・A・ラファティ『第四の館』(国書刊行会)、キャサリン・ダン『異形の愛』(河出書房新社)、〈J・G・バラード短編全集〉(共訳 東京創元新社)など。著書に『新世紀書評大全 書評1990-2010』(洋泉社)、『皆殺し映画通信』(カンゼン)など。編書に『女優 林由美香』(洋泉社)など。

【初出メディア】
映画秘宝 2017年2月号

【書誌情報】

全裸監督 村西とおる伝

著者:本橋信宏
出版社:太田出版
装丁:単行本(712ページ)
発売日:2016-10-18
ISBN:4778315375

全裸監督 村西とおる伝 / 本橋信宏

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