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【筑駒、灘、開成トリプル受験体験記】老いや死…オトナの感覚を求める灘中入試問題「ういてこい」って?

平成28年灘中学校の国語の入試問題より 俳句で季語「ういてこい」について問うている

 息子が筑波大学附属駒場、灘、開成中学の受験に挑みました。机上の学びだけでは太刀打ちできない、と痛感させられることが多々ありました。感じたこと、知ったことを紹介します。
灘中の「ういてこい」
 灘中学校(神戸市東灘区)の国語の入学試験では俳句がよく取り上げられる。
 灘中学・高校の大西衡教頭(国語科)は、「日本の伝統や文化を、日常の暮らしのなかで気をつけて見つけてほしいという思いからです」と出題の狙いを説明する。
 平成28年は季語「ういてこい」の季節を問うた。次のような問題だ。
 「俳句をよく読んで、最も適当なものを後のア〜エから選び、記号で答えなさい」
 ういてこいういてこいとて沈ませて 京極杞陽
 長子(ちょうし)次子(じし)稚(わか)くて逝(ゆ)けりういてこい 能村登四郎
 ういてこい瞬(またた)きひとつせぬひまに 佐藤和枝
 ア 春、木にぶらんこをかける遊び。
 イ 夏、水に入れて遊ぶ子供のおもちゃ。
 ウ 秋、風船を空に飛ばす行事。
 エ 冬、川に住むとんぼの幼虫。
 「ういてこい」は、行水のたらいなどに浮かべて遊ぶブリキやセルロイドで作られた金魚の玩具のことだ。浮人形(うきにんぎょう)ともいう。理科玩具の「浮沈子(ふちんし)」のことを指す俳句もある。
 いずれにしろ、「ういてこい」は夏の季語なので、答えは「イ 夏、水に入れて遊ぶ子供のおもちゃ。」だ。
 「ういてこい」は、現代の子供の周りではなかなかお目にかかれない玩具だが、大西教頭は「小学生の語彙にないものでも勉強してほしいという考えから出題した」と話す。
体験する言葉
 季語の勉強の難しさの1つは、旧暦と新暦のずれだ。例えば「枝豆」も「七夕」も、俳句では夏ではなく初秋の季語だ。
 それでも、戸外で遊び、実際の季節に触れている子供のほうが理解は早いだろう。
 例えばツバキは、春の季語だが、つぼみが花開くのを見て、「寒いのに鮮やかな花だなあ」と愛でた体験があればこそ「寒い冬に咲く花、でも漢字は木ヘンに春。春の季語だ」という理解の仕方はできる。
 わが家の場合、そもそも「ツバキって何?」。1月の入試直前、ツバキが咲く近所の庭を探して、「これがツバキ」と一緒に見に行くところから始めなくてはならなかった。
 こうして季語となるものを体感したり体験し、暦のずれがあるものは、あとから調整すればよい。
 灘中のこの俳句の問題から、体験して言葉を知ることが大切だと改めて考えた。
 「ういてこい」の場合、「ういてこい」そのものを知らなくても、「浮く」と「沈む」という言葉から正答を絞り込めそうだ。
 それには、海やプールやあるいは風呂場で、子供自身が波間に漂ったり、玩具を浮かべたりといった体験があることが重要になってくる。
 大西教頭は「こういう雑題を出すのは、あくまで日本の伝統や文化に触れてほしいからです」。「触れる」=「体験」が大切だと繰り返す。
大人でも難しい人生の機微
 「灘中ってね、老いとか死とかムツカシイお話がよく出題されるの」
 灘中の入学試験の前夜、神戸市内のホテルで、息子がこう言いだした。
 過去問題集から詩の問題を1つだけ解いて眠ろう、と選んだ詩は、辻征夫(つじ・ゆきお、1939〜2000年)の「棒論」。道に木の棒が落ちていたので胸が痛んだ。不要部分として捨てられたものかもしれないと、シンプルな内容がつづられている。
 定年退職したのか、左遷されたのか。あるいは別の事情があったのか。登場人物の説明はないが、「暗い」「行方不明」「混とん」といった文字が並ぶ詩から、「可能性」や「希望」を読みとらせようという問題だ。
 大人でも解釈が難しい人生の機微への理解を小6男児に求める灘中の試験問題に改めて驚かされた。
 「ういてこい」の問題に出てきた俳人、能村登四郎(のむら・としろう、1911〜2001年)の俳句も、玩具を季語に使いながら無邪気な遊びを描いているわけではない。
 長子(ちょうし)次子(じし)稚(わか)くて逝(ゆ)けりういてこい
 長男を6歳で、続いて次男も亡くしたあとに作られた。風呂場に残されたおもちゃを描いているわけで、消えていった小さな命を思うと胸が詰まる。
 子供が6年生になると、とかく親は塾のテストの結果に一喜一憂しがちだ。
 が、健康に育ち、懸命に鉛筆をにぎる子供と同じ目標に向かって進むことができる幸せをこそ思うべきなのだろう。灘中の国語の問題を見直しながらふと気づいた。(文化部 牛田久美)=不定期で掲載の予定
 ●灘中学・高校 1927年、酒造りで有名な灘五郷の嘉納(かのう)家、山邑(やまむら)家などの篤志を受けて旧制灘中学校として創立。「柔道の父」ともいわれる講道館館長、嘉納治五郎(かのう・じごろう)が顧問に就任。校是は「精力善用 自他共栄」。各教科の6〜7人が担任団を編成し、卒業まで担任持ち上がり制で6年完全中高一貫教育を行う。生徒数1215人。兵庫・神戸の私立男子校。