インフルエンザ(後編)抗ウイルス薬・解熱剤は使うべき?

感染症の専門家である谷口清州先生に、身近な感染症についてやさしく解説していただくこのコーナー。
前編「【谷口先生の感染症講座】インフルエンザ(前編)A型とB型、何が違う?」では、インフルエンザウイルスの型の違いについてご紹介しました。
後編はワクチンや治療薬についてのお話です。

インフルエンザにかかる人、かからない人

世の中には「ワクチンを打っていないけれど、インフルエンザには全くかからない」という人が確かに存在します。一方、「毎年必ずかかって5日間寝込む」という人もいます。この違いは、それぞれがこれまでに獲得した免疫の内容によるものです。

インフルエンザウイルスに対する免疫はピラミッドのように積み重なっていきますから、かかればかかるほど、いろいろなウイルスに対する抗体ができて、かかりにくくなります。となると、毎年インフルエンザにかかる人のほうが、より強固な免疫機構を持っているはずです。それなのに、なぜ毎年のようにインフルエンザに感染してしまうのでしょうか?

もちろん、毎年流行するタイプが違うことに加え、ウイルスが少しずつ変異するために「完璧な免疫」を作れないから、ということもありますし、これまでに獲得した免疫が邪魔をして、流行中のウイルスに対して十分な免疫を作れないということもわかっています。

また、人間はひとりひとりが違いますので、生まれ持った免疫の反応性、そのときの体調(栄養状態が偏っていたり、睡眠不足だったり)によって、免疫の働きが低下していることもあります。もちろん、流行中のウイルスに接触する機会の多さや、個人の手洗い・マスクなどの予防習慣も影響します。

そのほか、「ワクチンを打っても抗体ができにくい人」というのも存在します。
ヒトの免疫反応は受け継いだ遺伝子によって大きく異なり、例えば麻疹(ましん、はしか)ワクチンの場合、日本の人口の3%は抗体ができません。
つまりこの人たちはワクチンを打っても、麻疹にかかってしまうことになります。

インフルエンザウイルスに対しても、同じように個人の反応性の違いというものも想定されており、もともと抗体ができにくいという可能性もあります。

インフルエンザワクチンは「ハズレ」でも意味がある?

現行のインフルエンザワクチンには、A型とB型それぞれのウイルスで、その年に流行しそうな4種類が入っています。はずれることはもちろんありますが、もしはずれたとしても、その人が持っている抗体で対処できるようなウイルスが流行すれば防御が可能となり、軽症化が期待できます。

最近のアメリカのデータによれば、多少流行とマッチしていなくても、ワクチンを打った人は、打たない人に比べて肺炎や心筋梗塞・脳梗塞など、重い合併症のリスクを軽減できるということが報告されています。つまり、「はずれたとしてもワクチンには意味がある」と言ってよいでしょう。

抗インフルエンザウイルス薬との付き合い方

「インフルエンザに感染したら、病院で抗ウイルス薬をもらって飲んだほうがいいか?」という話題は、感染症関連の学会でもよく議論されます。

少なくとも欧米では、本来インフルエンザというのは、健康であれば自然に治る疾患と考えられています。そのため、やたらに薬を使わず、外出を控えて家で寝ていればよいと言われています。

これまでのところ、抗ウイルス薬の効果というのは、「使わないときに比べて熱を1日早く下げること」とされています。
薬を飲むことによって、3日間続くはずだった熱が、2日で下がるということです。つまり、「薬を飲んだほうがいいか」というのは、この「1日の発熱期間の短縮」をどう考えるかということになります。

とはいえ、子どもや高齢者など一定数の人たちには重症化のリスクがあります。
アメリカのデータによれば、基礎疾患がなくても、5歳以下の子どもであればインフルエンザ発症による死亡リスクがあると言われていますし、インフルエンザウイルスに対する免疫は、ある程度の年齢になると急激に衰えることも知られています。
子どもや高齢者、基礎疾患がある方などに対しては、薬を使うメリットはあると言えるでしょう。

一方、薬を使うことによるデメリットもあります。
タミフルやリレンザなどを服用すれば熱は2日で下がりますから、お勤めされている人は仕事に出掛けたくなるでしょうし、子どもであれば外で遊びたいと言い出すかもしれません。しかし、熱が下がったからと言って人の多い場所へ出掛けると、ほかの人にうつしてしまう可能性があります。症状が治まってもウイルスはまだ体の中に存在しているからです。

また、当然のことながら、抗ウイルス薬を使用することによって薬の効かない耐性ウイルスが出現するおそれがあるということも、頭に入れておくべきでしょう。

熱が高いと脳炎・脳症になる? 解熱剤は飲むべきなのか

特に子どもがインフルエンザウイルスに感染すると、「熱が高いと脳炎や脳症になるかもしれないから、解熱剤を飲ませたい」とおっしゃる親御さんが多くいらっしゃいます。しかし、「高熱が原因で脳炎や脳症になる」という認識は誤りで、「脳炎・脳症になったから高熱が続く」のです。

脳炎というのは、ウイルスが脳細胞に侵入・増殖して、脳の中枢神経に障害が出て、けいれんや意識障害などの神経症状がでることを言います。例えば日本脳炎などのウイルスは脳で増え、脳の中枢をダメにしてしまいますから、体温の調節ができなくなり、42度を超える熱が出ることもあります。「熱が高いと脳炎になる」のではなく、「脳炎になったから熱が高くなる」のです。

一方、脳症というのは、脳以外で起きている感染によって、炎症作用や生体機能の調節などに関わる伝達物質が過剰に分泌されることにより、間接的に脳に障害が起こることを指します。この過剰な防御反応により、必要以上の高熱が出るのです。

すなわち、脳炎・脳症の原因というのは、発熱していることではなく、その発熱を起こしている疾患や病原体なのです。

そもそも、熱が出るのは体の防衛反応です。免疫を活性化して、ウイルスの増殖を抑制するために、免疫機構が自ら発熱を引き起こしているのです。

だからといって、子どもが高熱でつらそうにしていても解熱剤を使ってはいけない、ということではありません。解熱剤は病気を治すわけではなく、あくまでも一時的に症状を抑えるだけ。しかしながら、高熱のためにとてもつらい思いをしているとき、あるいは水分や食事がとれないときは、解熱剤で少しでも楽になって水分などが取れれば、それは決して悪いことではないのです。

もちろん、お子さん自身が元気なら、熱が38.5度あったとしても無理やり下げる必要はありません。ただし、熱性けいれんを起こしたことがあるとか、発熱が悪影響を及ぼすような疾患がある場合には、この限りではありません。

もし、インフルエンザで解熱剤を使う場合、アスピリン製剤を使用するとライ脳症という重篤な神経疾患を引き起こすことがありますので、アスピリンは決して使ってはいけません。通常、解熱剤にはアセトアミノフェン製剤を使用するよう勧告されています。
ただし、お子さんの場合は体重によって使用量が異なりますので、以前に処方されたものなどを安易に使用するべきではありません。

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