800馬力「V10エンジン」搭載の「爆速ミニバン」!? ファミリーは乗れない? 車内にエンジンむき出しのド迫力仕様「エスパスF1」とは

F1に搭載されていたV型10気筒エンジンを、ファミリーカーの「ミニバン」にぶち込んだモンスターモデルがかつてありました。しかも街のチューニングショップなどではなく、メーカー自らの手で製作されたマシンなのです。

常識外れな“爆速マシン”を製作した自動車メーカーとは

 世界最大級とも称されるカスタムカーのイベント「東京オートサロン2024」が幕張メッセ(千葉市美浜区)で2024年1月12日から14日まで開催されます。
 
 例年、様々なカスタムショップからアッと驚くチューニングカーやドレスアップモデルが登場しますが、そんな衝撃を上回る常識外れな“爆速マシン”が、メーカー自らの手でつくられたことがあります。

エンジン車内にむき出し…! 乗ったらどうなるの!? ルノー「エスパスF1」の内装

エンジン車内にむき出し…! 乗ったらどうなるの!? ルノー「エスパスF1」の内装

 ハイパワーなエンジン技術で高い技術力を持ち、フォーミュラ1(F1)などモータースポーツにも積極的に参戦するフランス・ルノー。

 その技術を世界に知らしめるためなのか、1995年当時同社が展開していた3列シートミニバンの「エスパス」に、V型10気筒3.5リッターエンジンを搭載したプロトタイプモデル「エスパスF1」を発表しました。

 もはや人を載せるミニバンとしての機能は二の次で、エンジンの吸気口は室内むき出し、ボディ形状も極端に拡幅するなど、まさに「走るエンジン」でした。

 そんな規格外の超ド級マシンは、どのような背景で生まれたのでしょうか。

 ルノーは1945年に国有化され、「ルノー公団」とも呼ばれていたメーカーです。しかし、およそ国営企業の製品とは思えない楽しいモデルを多く展開しています。

 なかでもターボチャージャーを使ったエンジン技術の経験が長く、F1にターボエンジンを持ち込んだのもルノーでした。

 1.5リッターエンジン時代のF1マシンは、一説によると1500馬力を発揮していたといわれ、モータースポーツからくるエンジン設計技術を市販車にもフィードバックしていたと考えられます。

 例えば1972年に発売されたコンパクトカーの「5(サンク)」は、1981年に「サンクアルピーヌターボ」というターボエンジン搭載モデルを設定、1.4リッターの排気量でOHVエンジンながら110馬力を絞り出していました。

 このハイパワーぶりは、現代のレベルとそれほどそん色ない出力だったことに驚かされます。

 これにとどまらず、さらにWRC(世界ラリー選手権)参戦用の特殊なモデルとして、何とエンジンをフロントからミッドシップに変更したスペシャルモデルも存在するのです。

 アルピーヌターボと同じ1.4リッターながら160馬力を発揮するターボエンジンを、本来後席が収まる位置に搭載し、後輪駆動化した「サンクターボ」を設定しました。

 これにより、エンジンのハイパワーを路面に確実に伝達することが可能となり、高出力と高い操縦性を両立したモデルとなったのです。

 また5の後継となる「クリオ(日本名ルーテシア)」にも、サンクターボと同じ思想のハイパワーモデルの「ルノースポールV6」を2000年に市販化しています。

 エンジンは233馬力を発生する3リッターV型6気筒自然吸気で、ミッドシップに搭載され後輪を駆動していました。

 このように常識外れなレイアウトを持つスポーツモデルも、ルノーにとってはお手の物だったのです。

「エスパスF1」の後席へ実際に乗ることはできたのか!?

 前置きが長くなりました。

 エスパスF1は、2代目へとフルモデルチェンジしていた3列シートミニバンのエスパスに、ウイリアムズが搭載していたF1マシン用、最高出力800馬力を誇るV型10気筒エンジンをミッドシップにマウントした、ルノーにとっても桁違いに常識はずれなモデルでした。

 エンジンをミッドシップに搭載するのですから、当然乗員が乗るスペースが犠牲になります。

 そこは動力性能を優先し、乗員スペースを削ったうえにシートをバケットシートとして、かろうじて4名が乗車できるスペースを確保しています。

規格外過ぎる! ルノーが製作したスペシャルマシン「エスパスF1」

規格外過ぎる! ルノーが製作したスペシャルマシン「エスパスF1」

 ボディ骨格構造はカーボンファイバーを多用し、剛性と軽量化、そしてミニバンボディでは問題となる重心高の高さを抑制、さらにワイドなタイヤを装着するために、ボディの下半分をベース車とは全く異なる形状にしています。

 800馬力を誇るエンジンが高回転を発揮した時には、乗員が吸気口に吸い込まれることこそないものの、車内騒音は想像もできないほどの「爆音」だったことでしょう。

 もはやベースのエスパスとは無関係な、エスパス風のボディをまとったレーシングカーだったのです。

 さすがにこれは、サンクターボやクリオルノースポールV6とは違い、純粋なショーモデルであり市販化はされませんでしたが、ボディのイメージはそのままにエンジンの搭載位置や駆動方式を変えることは、これまでのルノーの歴史を考えると少しも変なことではなかったのです。

※ ※ ※

「大きなエンジンを搭載するので、人が乗る部分を小さくしました」

 そんな非常識な要素を持ったモデルは、なかなか出てくるものではありません。

 しかし、圧倒的なパワーで魅了するクルマの多くは、そんなアンバランスさから生まれてくるのかもしれません。

 ハイパワーエンジン搭載車がイメージリーダーを務め、そのクルマの評判を高くすることはよくあることです。

 ルノーエスパスF1の再来があるのかどうかはわかりませんが、そんな見る人の斜め上を狙ってくるクルマの再来はまだでしょうか。

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